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身体障がい者の恋愛と性の世界へようこそ。354人が語った本音アンケートのご紹介

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ライター:ちか

月刊TENGA第47号では、『身体障がいがある方の恋愛事情や性生活に関する調査』を実施しています。このアンケートでは身体障がい者の
恋愛に関すること
セックスに関すること
マスターベーションに関すること
などの質問があります。

これらの回答と、障害学や感情社会学専門の慶應義塾大学文学部教授・岡原正幸さんや、株式会社TENGAマーケティング本部の原田樹さんのコメントを通して、身体障がい者の恋愛や性についての実情や課題を見ることができます。

それでは身体障がい者の恋愛事情・性生活について、最新の情報を見ていきましょう!

恋愛について

身体障がい者の恋愛における悩みについては、健常者と同じ悩みがありながら、トップは障がい特有の悩みでした。
また、健常者や世界調査と比較すると、性的な経験は割と高めとの結果も。

テキスト説明文

障がい特有の悩みと健常者と同じ悩み

質問『恋愛について悩みはありますか?』についての回答は
1位 障がいを理由にうまくいかなかった経験がある 31.1%
2位 好きな人にどうアプローチしていいか分からない 30.2%
3位 自分の体(容姿やにおいなど)が原因で恋愛に積極的になれない 25.1%

1位の悩みはまさに障がい特有と言えるもので、約1/3が当てはまると回答しています。具体的な例としては、
・デートに行くにもバリアフリーか否かなど気をつかう
・恋愛はしたいが、自分のことが相手に負担になるんじゃないかと躊躇する
などの回答が挙がっています。
恋愛をしていく上で障がい自体が障壁になることや、障がいをどう思われるかが気になるようです。

TENGA広報・原田さんによると
❝僅差で2位だった「好きな人にどうアプローチしていいか分からない」(30.2%)は、過去にZ世代健常者に向けて行った「恋愛・性に関する調査」で、1位(28.6%)にランクインしていました。また2位~7位までにあがった回答は、Z世代健常者と同様のランキング順でした。❞
とのことで、健常者と変わらない悩みも伺えました。

約2/3が交際経験あり

質問『あなたの交際経験について教えてください』についての回答は
・現在パートナーがいる・・・38.7%
・今はパートナーがいないが、過去にいたことはある・・・28.0%
・交際経験はない・・・33.3%
とあり、約2/3が交際経験があるとのこと。

セックスやマスターベーションについて

セックスやマスターベーションは半数以上が経験、半数以上が満足
質問『セックスの経験はありますか?』について、
経験ありと答えたのは
・全体・・・63.0%
・男性・・・52.5%
・女性・・・72.6%
セックスの満足度について「満足している」もしくは「まあ満足している」と回答した方の割合は
・男性・・・63.5%
・女性・・・53.3%
でした。

また、『マスターベーション(セルフプレジャー)の経験はありますか?』については、
経験ありと答えたのは
・男性・・・67.3%
・女性・・・64.0%
マスターベーション(セルフプレジャー)の満足度について「満足している」もしくは「まあ満足している」と回答した方の割合は、
・男性・・・67.0%
・女性・・・64.7%
でした。

上記でも挙げた、Z世代健常者に向けて行った「恋愛・性に関する調査」に、性交渉については男性の42.4%、女性の45.2%が経験ありと回答、マスターベーションについては男性の74.8%、女性の41.4%が経験ありとの回答結果がありました。このことから男性のマスターベーション以外はすべて身体障がい者の経験率のほうがZ世代健常者より、高いとわかります。

岡原先生はセックス経験の男女差について
❝いまだに恋愛や性の場面においては「男性の方が能動的であるべき」という風潮があるなかで、障がいのある男性は能動性を発揮しづらく、セックスまで至らないという傾向があるのではないでしょうか。
また、女性のセックス経験者の比率が男性よりも高いのは、男女でセックスの定義が異なるからかもしれません。男性には、ペニスを挿入しなくてはならない、挿入すべき、というプレッシャーがある一方、女性の場合、「挿入を伴わない」体の接触もセックスと認識しているケースも多いと思います。❞
と述べています。

性について相談できる場所が欲しい

テキスト説明文

質問『性の話を相談できる人はいますか?』について
<男性>
1位 いない・・・42.0%
2位 友人・・・30.2%
3位 ネット上の知人・・・24.1%
<女性>
1位 いない・・・44.6%
2位 友人・・・38.2%
3位 パートナー・恋人・・・22.6%
男性も女性も、性の話をできる人は「いない」が上位を締めました。

しかし、「性の話をして何か変わったことはありますか?」という問いには66.0%が「気持ちが楽になった」と答え、8割以上がポジティブな回答をしたとのこと。このことは、性についての相談できる場についての重要性を語っています。

友人に恋愛相談はできても、性の相談はしづらい理由について岡原先生は
❝健常者のように、外に出て気軽に友達を作れるような環境ではないことから、友人との関係にはとても気を遣っている方も少なくないでしょう。そのため、恋愛の相談はできても、性の話をすると嫌われるのではないか、関係性が変わってしまうのではないか、と考えて慎重になってしまうのかもしれません。
さらに、性の悩みは家族や介助者など身近な人には相談しにくいものです。障がいのある方が気兼ねなく性の悩みを相談できる場所や、プラットフォーム、コミュニティなどが今後必要になってくると考えています。❞
と述べています。

アダルトグッズ使用率は世界的に高め

質問『アダルトグッズを使ったこと・使いたいと思ったことはありますか?』について、使ったことがある人は
男性・・・51.2%
女性・・・39.8%
また、アダルトグッズの利用経験者のうち、64.4%が使ってみて「良かった」「まあ良かった」とポジティブな回答をしています。

TENGA広報・原田さんによると、使用経験率は世界調査での各国の結果よりも高い、もしくは上位国と同等だったそうです。
❝TENGAが過去に実施した世界調査での日本人のアダルトグッズ使用率(男性31.5%、女性20.7%)よりも、高い割合となりました。ちなみに、世界調査での男性トップはドイツの36.1%でしたが、身体障がいのある男性の使用経験率は、それを約15%上回っています。また、女性トップのイギリス52.1%には及びませんが、女性の使用経験率も世界的に見ると上位国と同等の割合となっています。❞

アダルトグッズ利用率の高さの要因として岡原先生は以下のように分析しています。
❝まずこの数値の高さは、「ネットで手に入れられるようになった」という要因も大きいでしょう。また、医療機器とまでは言いませんが、「アダルトグッズは、自分のケア・サポートのために必要なもの」と解釈して使っている方も少なくないかもしれませんね。❞

身体障がい者の性のリアルボイス

調査では、身体障がい者の恋愛やセックス、マスターベーションについて、自由回答での質問がありました。
そのうちのいくつかをご紹介します。

テキスト説明文

質問『セックスやマスターベーション(セルフプレジャー)をするために、どのような補助具があれば使いやすいと思いますか?』
―麻痺の手で握れないので手とアダルトグッズを固定出来るバンドが欲しい。
―体位を保てるクッション等が欲しい。

質問『恋愛や性についてしてみたいことや知りたいこと、不自由を感じることや悩み事などがあれば、どんなことでも良いので教えてください』
―機能的にも見た目にも自分の体にコンプレックスがあり、恋愛に積極的になれない
―介助者に頼みづらい、誰に相談していいかわからない。

性の悩みやリクエストの、介助者への伝え方について岡原先生は以下のように話されています。
❝例えば重度障がいの方の介助の場合、「トイレの介助方法」「体位交換の頻度」「掃除の頻度・範囲」など、何をどのように介助してほしいかのすり合わせを事前に行うのが一般的です。
性的なサポートについても、「グッズの購入代行」などを含め、その都度その都度要望を伝えるのではなく、カウンセリングシートのような形で事前に出し、介助者側も、このリクエストには応じられる/これには応じられないと、すり合わせができるような環境を整えられると良いのではないでしょうか。❞

質問『あなたが「セックスしたい」と思っていることや、性体験を得ることについて、社会や世間、自分の家族からはどのような反応がありましたか?』
―障がい者(身体不自由)は性行為をしない、出来ないという認識の方が多く、驚かれる
―障がい者は聖人のように扱われることもあって性がタブーなイメージで話される。
―両親が過剰に男性と繋がりがあることを嫌い、スカートも履けないような過干渉なので困っています。友人とは普通に話しています。せめて、好きな人とハグくらいは自由にしたいです。
―ただ体が動かないというだけであって心は健常者と何も変わらない同じ人間なので、したいと思うのは当たり前だよね、と共感してくれる人も何人もいた。

身体障がい者の性的欲求への理解を示す人がいる一方、身体障がい者は恋愛や性的行為はできない、しないと思い込んでいる人も少なからずいます。

そのことに対して岡原先生は以下のように話されています。
❝一般的に、「障がい=病気の状態」と考えている方が多いようです。これは今も昔も変わらず、病気=療養中の状態と無意識に捉え、療養中の人には性欲はない、性行為とは結びつかないと考えてしまうようです。障がいのある方は、ケガや病気で入院していることもありますが、障がいと病気はイコールの関係ではありません。
その考え方を変えていかなければ、障がいのある方への性の偏見はなくならないと考えています。❞

調査の最後のご紹介として、株式会社TENGAマーケティング本部の原田樹さんの思いを記載します。
❝今回調査を行った「障がいがある方の恋愛・性」については、表通りに語ることが許されない風潮が根強く存在してきました。今回お話を伺った岡原先生によると、こういった世間の風潮は、数十年前から現在まで、ほぼ変化がないのだそう。この認識を変えていくためには、今後も継続的に情報発信していくことが重要であることを改めて感じました。
TENGAでは今年、障がいがある方の自立を支援する「able! project」を始動しました。今後
「able! project」では、「性を表通りに、誰もが楽しめるものに変えていく」というビジョンのもと、障がいをお持ちの方が気軽に相談できる性の相談窓口を設けていきたいと思っております。
本レターでは身体障がいをお持ちの方にフォーカスして調査を行いましたが、今後TENGAでは知的障がいや精神障がいなど、他の障がいについても情報を集めていきます。「able! project」などを通じて、これからも支援活動や情報発信を行っていくことで、当事者の悩みの解決の糸口や、偏見の解消を目指していきたいです。❞

おわりに

身体障がい者の恋愛や性について、障がい特有のもの、そうでないものなど実情から悩みについての調査を行った、月刊TENGA第47号『身体障がいがある方の恋愛事情や性生活に関する調査』をご紹介してきました。

アンケートの結果では健常者と変わらない悩みと同時に、身体障がいゆえの悩みもあり、望むものは同じでもそれに行きつくまでの過程がやや困難な面があると感じました。

自由な恋愛や性的行為を制限しているものとして、
「嫌われるのではないか」
「思うような行為ができているか」
「恋愛や性はタブーと思われている」
「相談できない」
といった『相手にどう思われるかという心理的問題』があると個人的には思います。

この問題を解消するためには、障がい者に対する理解の浸透が必要です。
頭ではなく、息をすることのように『単に障害があるというだけで、感情や思いはみんな同じ』事への理解が社会に浸透していれば、障がい者の恋愛や性への負担は軽減するのではないでしょうか。(障がい者だけでなくあらゆる人においても)

障がい者との共生を目的とした障害者差別解消法や障害者雇用率の引き上げなどは当然のことですが、表面上の意味でしか理解は得られません。本当の意味で理解を浸透させるためには、月刊TENGA第47号『身体障がいがある方の恋愛事情や性生活に関する調査』のような情報発信を始め、学校での教育、全ての人が当たり前のように地域で生活できる社会の整備が必要です。

そして、あらゆる人がお互いを認め合い、尊重し合える世の中が普通になれば、物事の考え方やとらえ方、価値観が『他者基準』から『自分基準』になり、恋愛や性に対してもっと積極的に、自由に考えられるようになるのではと感じました。

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ライター ちか

障害者福祉の世界で約10年ほど働きましたが、出産・育児を機に、現在は障害福祉専門のwebライターのお仕事をしています。発達障害グレーゾーン、子どももグレーゾーン+弱視。夫は野生出身。目標は2030年までに家族で海外移住することと、いろんな国を旅することです!

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https://note.com/webwriterchika/

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