しいたけ栽培のB型事業所が目指す新しい就労支援のかたち/コプラスステップ代表・川口博史さん、管理者・河内山冴さん
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ライター:mio.h
しいたけ栽培を手掛ける就労継続支援B型事業所「COPLUS STEP(コプラスステップ)」。児童発達支援・放課後等デイサービスの事業を展開する「コプラス」のグループ会社として、2025年4月に大田区に開設されました。
今回は、代表の川口博史さん、管理者兼サービス管理責任者の河内山冴さんに、事業への思いや今後のビジョンについてお話をうかがいました。
なぜ「しいたけ」?就労支援にきのこを選んだ理由
「有機物に触れる機会を利用者さんに提供したかった」。そんな思いからスタートしたのが、しいたけ栽培でした。
「しいたけは成長が早く、毎日のように変化があります。その姿を見ることで利用者さんにも通う楽しみを感じてもらえると思い、しいたけ栽培を選びました」と河内山さんは話します。
また、しいたけは、ハサミで切るだけで収穫ができ、人が快適だと感じる温度で育ち、一年中出荷できます。育てやすく、業務に合っている点も、しいたけを選んだ決め手だったそうです。
開所から数か月経った今、利用者さんにも少しずつ変化が見えてきました。
「自分たちが育てたしいたけが地元の八百屋さんで売られているのを、ある利用者さんが見つけたそうです。お客さんが買ってくれるのを目の前で見て感動した、と話してくれました」
社会に貢献している実感や、誰かに必要とされている感覚、そして自分の仕事に誇りを持つ自覚を持ってもらえればと、河内山さんは語ります。
「しいたけも、育てているうちに自然と愛着が湧いてきます。支援スタッフも利用者さんも、興味を持って触れるようになっていく。そんな空気感もいいなと思っています」
「就B」だからじゃない。「しいたけ」だから選ばれる。品質で評価され、工賃アップへ
就労継続支援B型事業所は、一般就労や就労継続支援A型事業所と異なり、利用者には「工賃」が支払われます。工賃は給料ではないため、最低賃金を大きく下回ることがほとんど。
そのなかで河内山さんが大事にしているのは、「しいたけのブランド力を高めること」でした。
「ブランディングし、『しいたけそのもの』として評価されたいと思っています。『就B』というフィルターなしに味で選ばれれば、価格も上げられます。それが工賃アップにもつながるのです」
農福連携だから安く売るのではなく、あくまでも品質とブランドで勝負しています。
「隠しているわけではないのですが、B型事業所で生産していることを大々的に表に出していません。たまたま調べたら『あ、就Bだったんだ』くらいが理想です」と河内山さん。
「『福祉だから買ってください』というスタンスではありません。しいたけとして選んでもらいたいです」と川口さんも話します。
働く場としての“コプラスステップ”の一日と「できる」を育てる仕組み
しいたけ栽培では、利用者全員がすべての作業に関われるよう工夫していると、河内山さんは話します。
「作業内容は、収穫、散水、芽かき(間引き)、浸水、梱包、出荷の同行など多岐にわたります。販促のチラシを折る作業がある日もありますし、普段とは異なる梱包作業をお願いすることもあります」
作業の分担については、その日の状況に合わせて変えながら、できるだけ多くの工程を体験できるようにしています。
作業内容は毎日ある程度決まっているため、利用者さんは徐々に慣れていくといいます。
「複雑な作業は少ないので、そんなに苦労している様子は見受けられません。難しい作業がある場合、たとえば収穫がまだ不安な方には、収穫カゴを持つところからスタートしてもらうなどの工夫をしています」
利用者さんの特性や得意なことを活かすために、河内山さんが大切にしているのは「作業を細かく分けること」。
「たとえば『収穫』とひとことで言っても、実際にはいくつもの役割があります。しいたけを切る人、収穫してよいものとそうでないものを見分ける人、収穫カゴを持つ人など。なるべく作業を細かく考えて、その中からどこを担当してもらうかを決めるようにしています。
ここは“いつまでに何個”といったノルマに追われる場ではありません。だからこそ、“まずは練習でやってみよう”という気持ちで取り組んでもらっています」
川口さんも「生産の工数がたくさんあるので、利用者さんごとの能力に合わせて、飽きない仕組みづくりがしやすいのです」と話します。
また、河内山さんによると、作業を支える道具の選定や配置にもひと工夫しているそうです。
「しいたけの重さを量るときに小さなお皿だと乗せにくいことがあります。それならば大きなお皿を使うなど、余分な負担をかけないことも意識しています。
収穫のときはこのカゴ、といったように、コト(作業)とモノ(道具)を結びつけて、作業の流れが自然につかめるようにもしています」
しいたけブランドを有名にし、働いていることが自慢になる場所にしたい
事業所の展望についてうかがうと、河内山さんは次のように話しました。
「しいたけを有名にして、作っていることや働いていることを胸を張っていろいろな人に自慢してほしいです。また子どもたちにも、『ここで働きたい』と思ってもらえるようになりたいです」
「見学に来た方にも『すごくキレイ』と言っていただけます。見晴らしもよく、羽田空港が近いので飛行機や海が見えるのも、みなさん喜ばれています」
川口さんも、事業の未来についてこう話しています。
「最初はしいたけ栽培からのスタートですが、干ししいたけやきくらげの栽培、さらには菌床を利用したカブトムシの飼育など、いろいろと派生させていくことも考えています。より工賃を上げて、利用者さんが喜ぶような仕組みをみんなで考えているところです」
地域とのつながりも大切にしていきたいと河内山さんは言います。
「今は西小山の地域の八百屋さんにしいたけを出荷しています。利用者さんもその八百屋さんを知っていて、地元の方にも愛されているそうです。
近くの神社のお祭りに出店したり、地域の福祉事業所が集まる団体のイベントに参加したりする予定もあります。そうした機会を掴みながら、少しずつ挑戦を続けているところです。収穫体験イベントも、地域の人たちを対象にして広げていきたいです」
最後に、今後挑戦してみたいことについてうかがいました。
「関連会社であるコプラスの利用者やそのご家族に向けて、イベントを開催していきたいです。『就B』という選択肢もあることを伝えながら、大人になっても学び続けられる場所や、コプラスの利用者みんなが集える場所も作っていきたいと思っています。
また、変に『福祉だから』という目線で見てほしくない。ブランド力を高めて、ブランドとして勝負していけたらと思っています」
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ライター mio.h
医療福祉業界での広報担当を経て、現在はフリーランスで英字誌の編集者とライターをしています。趣味は街を歩くことと本屋さんに行くこと。
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