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「基本を愚直に守る」メンタルタフネスとしなやかさで切り拓く、精神障がいになって見つけたキャリア論

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ライター:かたおか由衣

精神障がい者手帳を持ちながら、コンサルタントとしてキャリアを築いてきた鈴木晃博さん。後編では、鈴木さんが実践するストレスマネジメント方法と、精神障がい者の雇用やキャリアに対する考えを掘り下げ、メッセージをお届けします。

基本的な生活習慣で再発を防ぐ

鈴木さんがうつ病を経験して以来、セルフマネジメントを最も重視するようになりました。瞑想やヨガ、認知行動療法などさまざまなストレス対処法を試し、改めて気づいたのは「睡眠・運動・食事・服薬」の大切さです。

「体の不健康がメンタルの不健康に直結する」という認識のもと、基本的な健康習慣を守ることが大切。

「睡眠時間は6時間を切らないようにして、何もなければ23時前には寝るようにしています。三食きちんと食べること、土日は運動することも心がけています。もやもやした気持ちを汗で流すとスッキリします。また、睡眠導入剤を飲まないと眠れないため、服薬管理も大切です。精神の薬は、特別視するものではないと思っています」

40〜50歳になれば、高血圧の薬など何かしら薬を飲む人は増えていきます。治験に通った薬を、専門家の処方に基づいて正しく飲む。規則正しい生活をする。基本的なことを大切にしています。

もう一つ重要なのが、周囲に自分の状態を隠さないこと。障がい者手帳を持っていることを誰にも隠していないからこそ、調子が悪くなった時には率直に伝えられます。きついときには『ちょっとなんとかしてください』と言えるのです。

自分に合ったセルフマネジメントを見つける

また、「本を読むこと」「運動すること」「人と話すこと」が、自分に合ったストレス解消法だと気づきました。読書が好きだった鈴木さんは、聖書を学ぶために、2年間ほど教会に通った経験もあります。

「いい本を読めばいい言葉が入る。いい言葉が入れば、その言葉を柱にして生きられると思っていたので、聖書を知ろうと通っていました。東西を問わず、人のため、愛すること、仲間を大切にすることは、何千年経とうとも同じだと実感しました。基本を愚直にやっていくことの大切さを学びました」

職場のメンタルヘルスなどを専門に持つ、カウンセラーの渡辺卓先生から学んだ「しなやかに生きる」考えや「自分に合うレスト(休息)を見つける」というアプローチを大切にしているそうです。

さらに、鈴木さんは、特例子会社の時代に、精神障がいの部下を持つようになり、自分の経験だけではなく、正しい対処を学ぼうとの思いから産業カウンセラーやキャリアコンサルタントの資格を取得しました。

「自分の経験談を語るだけでメンターとして本当にいいのか?という懸念があって、きちんと学ぼうと思ったんです。精神障がい手帳を取って仕事をすることは、一つの大きなキャリアの選択です。その選択がポジティブなものになるように、正しいカウンセリング技術やキャリア理論で部下に対して向き合いたかったのです」

メンタルヘルスを支える5つのケア:セルフケア、ラインケア、事業内・事業外ケアにメンターケアを加えた鈴木さん独自の枠組み。
▲メンタルヘルスを支える5つのケア:セルフケア、ラインケア、事業内・事業外ケアにメンターケアを加えた鈴木さん独自の枠組み。
 ~鈴木さんの講演活動で使用された資料より引用(資料は2025年当時のものです)~

トライしたからこそ得られる経験

鈴木さんが考える、精神障がいがあってもキャリアを築く上で大切なこととは何でしょうか。

「障がい者雇用で働いてきたことや、安定していること、成果を上げたことなどを、『ビジネスとしての成果』だと自分で思えるかどうかだと思います。

セルフマネジメントは、障がいの有無に関係なく必要ですよね。ミーティングの前に仮説を立ててストーリーを作り、お客様に伝えることを準備するから、安定した仕事ができます。障がいの場合は、仕事をしていない時でも自分が安定していられるよう気をつけることが大切ですね」


また、日々わずかずつでも、成長していこうとする意欲を持つことも大切だと考えています。自身の生き方に対する考え方を、「No Try, No Gain(ノートライ、ノーゲイン)」という造語で表現します。

「トライしなければ、前に一歩もゲインできない。トライにはリスクがあるけど、得られる経験があります。経験を糧にして、もう一回トライをする。そうすれば少しずつ前進して、また違った景色のところに行けるのかなと思います」

障がいを受け入れ、成長につなげるプロセス:PTG経験を通じたキャリア発達理論
▲障がいを受け入れ、成長につなげるプロセス:PTG経験を通じたキャリア発達理論
 ~鈴木さんの講演活動で使用された資料より引用(資料は2025年当時のものです)~

完全無欠の人生はおもしろくない

鈴木さんがウェブメディアに体験記を寄稿したり、講演活動をしたりする理由は、「こんな生き方をしている人間もいると知ってほしい」との思いからです。

「発信をすることがなかなかできない人もいると思うのです。私はただただ幸運だったのかもしれません。しかし、このように幸せに生きることが、できている。苦しい大変も、一つの物語。だから私の人生を晒せばいいと思って。このような発信から何かの気づきを得てもらって、『もしかしたら自分もできるかも』と思える人がいるといいなと考えています」

前編で取り上げた体験記を寄稿する時に、「仮名でもいいですよ」と言われ、少し迷いながらも「実名で行きたい」と決めました。インターネット上に個人的なことを書くので、「もし風評被害などがあったら」と妻に相談すると、「あなたは悪いこと何もしていなくて、むしろいいことしようとしているのに、それで風評被害を気にする必要はない」という言葉をもらい、背中を押されました。

「転んでも転んでも、また1回やり直せばいいだけなんです。」
▲「転んでも転んでも、また1回やり直せばいいだけなんです。」

鈴木さんは、医療福祉系大学などで講演活動も行っており、「うつになったこと糧に、働き方・生き方を見直すチャンスにしましょう」というメッセージを発信し続けています。

「うつは、人生の終わりじゃないのです。一度転んでも、それから立ち直って、折り合いをつけた形でよりよく生きていける。人生を投げ出したら終わりですが、失敗から学んで新しい道をつかんでいけたら、それは失敗ではなく経験になります」

「完全無欠の人生はおもしろくない」と語る鈴木さん。「厳しいことがあって、その上で何かを掴んで、新しい道を歩き出すことに価値がある」と強調します。

「うつ病になったからこそ見えてきた景色がある。特に障がい者雇用で携わってきたメンバーたちとの出会いから気づけたことは多かった」と振り返ります。特例子会社での部下との面談をして、印象に残っているエビソードがあります。

「『タックスイーターからタックスペイヤーになれた』と言われたのです。つまり、生活保護として守られていた立場から、所得税を払える立場になったことを心から喜んでいました。自分で働き、そして自活する。税金を納めるということすらも、喜びになるのだと」

元々出版社を目指していた鈴木さん。「好奇心と行動力でここまでやってきています。色々な人に話を聞きに行ったり学びに行ったりするのは、私にとって『取材』ですね。今から振り返れば苦しかった経験も、また糧になっています。「転んでも、転んでも、また形を変えて、1回やり直せばいいだけだと思うのです。多分、大切なのは、希望を持ち続ける力なのではないでしょうか。スラム ダンクの安西先生ではないですが、「諦めたらそこで試合終了ですよ」そんな言葉も大好きですね」と笑います。

鈴木さんの歩みは、障がいを持ちながらもキャリアを諦めない人々に、希望のメッセージを送り続けています。

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ライター かたおか由衣

フリーライター。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社、専業主婦を経てライターに。教育、社会課題、エンタメなど幅広いジャンルにて執筆中。ホームスクールを選んだ子どもたちと過ごす日々の中で、さまざまなマイノリティの方と接する機会が増えている。

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https://note.com/yuuuuui_ka/n/n560ea55044bd
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