障がい者の性暴力に「回復の一歩」を支える人たち ~NPO法人しあわせなみだ~
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ライター:飯塚まりな
性暴力は誰にでも起こりうること。特に障がい者の女性は狙われやすく、弱い立場に置かれやすい構造があります。今回は、そんな傷付いた人たちに寄り添い「支援」でなく「あくまで応援すること」にこだわる団体をご紹介。
NPO法人しあわせなみだの理事長千谷直史さんに法人の取り組みについて聞きました。
友人のDV被害から始まった活動
NPO法人しあわせなみだは2009年に開始。きっかけはNPOを立ち上げた中野宏美さんの友人が、職場でDVに遭ったことがきっかけになりました。
当時、「あなたにも落ち度があったのでは」と被害者を責める声が一定数あり、中野さんは疑問を持ちました。
その後、2011年にNPO法人になり千谷さんは大学生のときからボランティアで参加していました。彼もまた大切な友人が性暴力に遭った経験から、NPOの活動に関心を持ちました。

「性暴力ゼロの社会」を目指して活動するNPO法人しあわせなみだのメンバー(中央が理事長の千谷直史さん)
現在は中野宏美さんが理事長を辞任され、代表となった千谷さん。人員は多くなく、仕事や家庭を築く中で続けるのは「誰にも言えず、ひとりで抱え込んでいる人たちの背中を押す存在になりたい」という思いから。今では大事なライフワークになっています。
しあわせになるための3つの事業
NPO法人しあわせなみだは「性暴力ゼロで誰にとってもしあわせな社会を創る」をビジョンに掲げ、これまで3つの事業を中心に歩んできました。
・Cheering Tears(チアリングティアーズ)性暴力に遭った方を応援する事業
これは、Webサイトでの性暴力に関する情報をNPOの公式HPやSNSを通じて発信しています。
さらに、性被害に遭ったパートナーを持つ男性の会「寅さんのなみだ」など男性の声を聞く機会を作りました。
・Beautiful Tears(ビューティフルティアーズ)性暴力に遭った方を美容の力で輝かせる事業
実際に施設やシェルターを訪問し、性暴力に遭った女性たちにメイク講座を行いました。綺麗になる自分の姿を見て、前向きな気持ちになり笑顔が見られるなどいい効果がありました。
・Revolution Tears(レボリューションティアーズ)性暴力ゼロを実現するために、社会に働きかける事業
自治体・公的機関に対する性暴力ゼロ研修・講演・コンサルティングを行い、また学生に向けた学校での出前講座などを実施。
子どもたちからは「被害者が悪いこともあると思っていたが、意識が変わった」「性被害に遭った自分が悪いわけではないと知った」など感想をもらうこともありました。
さらに法律改正に対し、行政への意見提出を行ってきました。

自治体や学校で実施している性暴力ゼロ研修の様子
ここ数年、性暴力をめぐるニュースは後を絶たない中、法改正の動きがありました。
社会が一変したことは千谷さんにとっても大きな出来事であり「法改正については、障がい者の被害者による声が反映されるよう、何度もNPOの立場から政治家に訴え続けてきた」と述べていました。
それでも、いまだに理解が遅く“昔の感覚”で語る人が多いと話します。残念ながら、性の話題で会話を茶化したり、セクハラをするなどは今でもあります。
性暴力はレイプなどの暴力だけでなく、相手が嫌がる性的な言葉や、同意を得ず身体の接触を求める行為も性暴力なのです。
被害を防ぐために知っておくこと
性暴力に遭った女性たちに「障がい者が多い」という事実には理由がありました。
前理事長の中野さんが、被害を訴える女性たちと会話した際に感じた独自のコミュニケーションや人との違和感などから、何かしらの障がいがある人が少なくないのではないかと考えたといいます。
千谷さん自身も性暴力の被害に遭ったと話す女性たちと会話する機会があります。
「実際に事情を聞いた際、“あまり大したことではない風”に笑顔で語る女性もいます。でも決して僕たちは同じように笑ったりせず、真剣に話を伺います」と話します。性暴力の被害に大小は関係ないのです。

「誰にも言えず抱え込んでいる人の背中を押したい」と語る千谷さん
加害者は障がいのある人をどう見極めるのでしょうか。それは、話し方・歩き方・姿勢・行動などから誘発され、「この人は抵抗しないであろう」とターゲットを絞ります。
一見、知らない人から被害に遭うケースを想像しますが、意外なのは自分に近い存在で支援してくれる人や相談しやすいと思っていた人である場合が少なくありません。
加害者からの支配欲で『相手より上に立ちたい』『有利でいたい』という思いから暴力やハラスメントにつながっていきます。
「特に知的・発達障がいのある女性は相手の意図を読み取れず、社交辞令で褒めた言葉を本気に捉えてしまい、性的接触に応じてしまうことがあります」と加害の線引きの甘さを感じられました。
性暴力を減らすためには、被害を受けた後に処罰するだけでは不十分です。
「何より“初犯を防ぐ”ことが大事です!」と力説する千谷さん。 「嫌なことは嫌と言える」「境界線を理解する」今こそ人としての基礎的な学びが、教育に必要と強調しました。
被害に遭った女性たちは「私が悪かったのかもしれない」と自分を責めてしまい、訴えることができないまま泣き寝入りしてしまうケースがよくあるのです。
しかし、処罰されるのはあくまで加害者。例え女性を見て気持ちが乱れても、むやみに近寄るのは問題行為だと、被害者側もしっかり認識することが大事と感じました。
かき消される相談の声を拾って~#8103という選択肢~
NPOには実際、どんな問い合わせが来るのか尋ねました。
千谷さんは以前「警察に相談したけど、取り合ってもらえなかった」という女性からの連絡を対応したとのこと。
法人ではカウンセリングを行わない代わりに、相談者に最寄りのワンストップ支援センターや法テラスなどの専門機関を丁寧に案内します。
その中でNPOで熱心に制作したのが、千葉県警に監修を依頼して作った「被害女性が警察に相談しやすくなる」動画です。
ストーリーは、被害に遭った女性の元へ作業所の支援員が訪問し、どのように電話すればいいかを伝えています。
動画はわかりやすい解説文が入り、登場人物たちはゆっくり穏やかに話すのですんなり頭に残りました。

講演活動を通じて性暴力防止を訴える
「あまり知られていませんが、警察に相談するときは♯8103を押します。名前を言わなくてもいいですし、本人ではない人が相談してもいいのです。すぐに電話ができなくても、頭の片隅に覚えておいてほしい」と述べていました。
ハードルが高い人は、まずは信頼できる人に話してみることが大事かもしれません。
性暴力に合わない子どもたちの未来を作りたい
今後はどのようにしてNPOの活動を広めていくのでしょうか。
「また動画制作は引き続き行い、今後はショート動画を考えています。これからも障がいのある方が『性暴力とは何か』を理解できるような活動を展開していきたいです」と語りました。
活動を続ける中で、思うことは今を生きる子どもたちのこと。「未来を担う彼らが性暴力を知らずに育ってほしい。怖い思いをしないよう、社会が変わっていかなくては」と千谷さんは穏やかな表情を見せました。
「性暴力は被害者が悪いわけではない」と長期間かけて世の中に伝えていく。その思いと周りの理解が、障がいのある人たちを傷付けない社会を作っていくのだと確信しました。
編集後記
しあわせなみだは、傷付いた女性の応援だけでなく、さらに一歩踏み込んで被害に遭った女性を支える男性の思いにも寄り添う姿勢に驚きました。
いただいたガイドブックには調査報告で上がった男性からの切実な質問に、しあわせなだみからの回答が書いてあります。「大切な彼女ために何ができるのか」被害者と同じように、困っている周囲の人たちの苦しみが伝わってきました。
性暴力という一つの出来事から、多くの人に悲しみが連鎖していきます。
記事を書きながら「大の大人がしっかりしなさい」と自分を含め、喝を入れたい心境になりました。
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ライター 飯塚まりな
フリーライター/イラストレーター 近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。
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