1. Media116
  2. エンタメ
  3. その他
  4. 「視覚障害を忘れ、初めて心から楽しめた舞台でした」~視覚障害当事者が、一般社団法人Get in touchの舞台を鑑賞~

「視覚障害を忘れ、初めて心から楽しめた舞台でした」~視覚障害当事者が、一般社団法人Get in touchの舞台を鑑賞~

この記事を共有

ライター:Shinnosuke Kitahara

視覚障害当事者で自身も声楽家として活動する私が、2025年7月27日(日)渋谷区文化総合センター大和田 さくらホールにて開催された、東ちづるさんが代表を務める一般社団法人Get in touch主催、「まぜこぜ一座・月夜のからくりハウス『楽しい日本でSHOW!?』」を鑑賞し、視覚障害者も楽しめる舞台鑑賞の合理的配慮や、印象に残ったパフォーマンスについてお伝えします。

開演前から視覚障害者に嬉しい配慮

初めに私の見え方についてご説明します。
私は網膜色素変性症という進行性の目の病気です。現在の視力は両目ともに0.04程、視野がおよそ2~3度しかなく、出演者の表情やダンスの細やかな動きは、視覚ではわかりません。また夜盲症もあり、暗い照明の中でのパフォーマンスは全く見ることができません。

さて、会場に一歩入ると多くの人で賑わい、物販コーナーからは「オリジナルTシャツいかがですかー!タオルもありますー!」と活気ある声が聞こえてきます。

Get in touchのオリジナルグッズや、出演者の作品などが販売されていました。
写真:Get in touchのオリジナルグッズや、出演者の作品などが販売されていました。

視覚障害者は舞台を鑑賞する際、次のような悩みを抱えています。

「劇場で配布される紙媒体のパンフレットは、何が書いてあるのか読めず、自身で情報の取得をするのが難しい」

「映し出される映像や、ダンスなど動きのあるパフォーマンスは、見えないため十分に楽しめない」


このように、視覚的な情報はどうしても取得できない課題があります。しかし「晴眼者と同じように楽しみたい」という気持ちは強くあるのです。今回の舞台では、その課題の解決策となる「視覚障害者も楽しめる配慮」が取り入れられていました。

まずひとつ目は、「デジタルパンフレット」です。

会場では紙媒体のパンフレットと併せて、QRコードが大きく印刷されたA4の紙が配布されていました。このQRコードをスマートフォンで読み取ると、紙媒体のパンフレットに書かれている文字情報をテキストで閲覧することができます。これにより、スマートフォンの画面上でテキストサイズを拡大でき、弱視の私もパンフレットの内容を"自身で"読むことができました。

手話通訳とリアルタイムの日本語字幕もありました。<br />
写真:手話通訳とリアルタイムの日本語字幕もありました。

ここで皆さんにぜひ知っていただきたいことがあります。
よく「全く目が見えない人はどうやってスマートフォンを使うの?」と聞かれます。

現在のスマートフォンにはiOS・Androidともに「スクリーンリーダー」という、画面上に表示されている文字情報を音声で読み上げる機能が標準搭載されており、この機能を用いて多くの視覚障害者がスマートフォンを使用しています。

そして、今回のデジタルパンフレットもスクリーンリーダーで内容を確認することができ、また、スムーズに読み上げられるようにテキストがレイアウトされていました。こうした細やかな配慮にも感動しました。

もうひとつの嬉しい配慮は、「音声ガイド」です。
受付にて、手の中に収まる丸く小さな受信機が貸し出されており、付属のイヤホンを装着すると映像やパフォーマーの動きを生中継でナレーターの方が言葉で説明してくれます(今回バリアフリー活弁士を務めたのは「檀鼓太郎(だん こたろう)」さんでした)。

開演前に音声ガイドを聴いてみると、すでに説明が始まっていて、「ミュージックビデオの映像の中では、色鮮やかな衣装を着た出演者が笑顔で歌っています」というように、私も視覚的情報が得られ、開演前からその空間に没入することができました。

音声ガイドの貸し出しコーナー。視覚障害者でなくても希望すれば借りることができます。
写真:音声ガイドの貸し出しコーナー。視覚障害者でなくても希望すれば借りることができます。

視覚障害の私が一番印象に残ったのは「ダンスパフォーマンス」

森田かずよさんの素晴らしいパフォーマンス①
写真:森田かずよさんの素晴らしいパフォーマンス①

障害、ジェンダー、国籍など関係なく、多様なパフォーマーが"まぜこぜ"になって創り上げる今回の舞台。

中でも私が一番印象に残ったのは、森田かずよさんのダンスパフォーマンスです。

東京パラリンピックの出演をはじめ、森田さんのことは以前から知っていましたが、生のパフォーマンスを見るのは今回が初めてでした。

暗めの照明の中、パフォーマンスが始まります。私には森田さんがどこにいるのかもわかりません。そこで活躍するのが音声ガイドです。

ナレーター「先天性の障害により、義足を装着してのパフォーマンス。舞台中央、床にうつ伏せになり、そしてゆっくり起き上がる」

ナレーションは森田さんの立ち位置や身体の動かし方、顔の表情などが"目に浮かぶように"繊細に説明します。

森田さんのパフォーマンスが後半へと差し掛かります。

ナレーター「義足の留め具をひとつひとつ外していきます。義足を履いていた足は細く、もう片方の足で膝立ちになっての演技」

ナレーションは続きます。

「外した義足を掲げ、それを愛おしそうに見つめる優しい表情の森田さん。そして演技が終わります」

森田かずよさんの素晴らしいパフォーマンス②
写真:森田かずよさんの素晴らしいパフォーマンス②

この時点で私は涙ぐんでいました。

「義足があるからこそいまの私がいる」義足への敬愛と感謝を伝えるような、そんな強いメッセージ性を感じる素晴らしいパフォーマンスでした。

それと同時に、これまで諦めていた舞台鑑賞を、私もこうして晴眼者と同じように体験できたことへの「喜び」が大きく込み上げていました。

夜盲症の人の多くは星を見ることができません。

いままで見られなかった星を、見たくても見られなかった星を、「合理的配慮」という形で見ることができたような"感動"と"感謝"の気持ちで溢れていました。舞台を初めて、心から楽しめた時間でした。

私も声楽家であり、同じ表現者の一人です。今回の舞台を通して、感動はパフォーマーだけが届けるのではないと気付かされました。

Get in touchの理念「誰も排除しない『まぜこぜの社会』の実現」。そして、舞台の上で語られた「誰もが『ここにいていい』という社会」は、見に来てくださるお客様一人ひとりにもあてはまるということ。

この体験をいつまでも忘れずに、これからも歌い続けていきたいと思います。

この記事を共有

アバター画像

ライター Shinnosuke Kitahara

香川県出身。生まれつき目に網膜色素変性症の病気があり、弱視。14歳より声楽を学び、現在は声楽家として演奏するほか、視覚障害についての講演活動なども行っています。

ブログ
公式HP

このライターの記事一覧を見る

おすすめ記事

Media116とは?

アットジーピー

障害別専門支援の就労移行支援サービスアットジーピージョブトレ。障害に特化したトレーニングだから働き続ける力が身につく。職場定着率91パーセント。見学・個別相談会開催中!詳しくはこちら。

MENU
閉じる
ページの先頭へ戻る