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「セルフ透析と音楽がくれた彩り」 フレンチジャズギタリスト青鹿さんに聞く

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ライター:飯塚まりな

「透析」と聞くと多くの人が“生活の制限”や“大変そう”とネガティブなイメージを持つかもしれません。
ジャズギタリストの青鹿賢一さんは、セルフ透析を始めて3年。透析のあるおかげで、「生きる意欲が増した」と話していました。生きる手段として透析は無くてはならないもの。今回は音楽活動とセルフ透析の両立について伺いました。

フレンチジャズギタリストの青鹿賢一さん。セルフ透析を続けながら全国でライブ活動を行っている
▲「フレンチジャズギタリストの青鹿賢一さん。セルフ透析を続けながら全国でライブ活動を行っている」

青鹿さんが透析を導入したのは12年前。体調不良により血液検査をした結果「多発性嚢胞腎」と診断されました。多発性嚢胞腎とは、腎臓に無数の嚢胞(水がたまった袋)が出来て動きが低下する病気です。

診断後、体調はさらに悪化していく一方。当初はとてもショックを受けましたが「なったことは仕方がない」と覚悟し、腎臓摘出を決意。2013年から週3回の透析生活が始まりました。

導入前は吐き気やだるさで苦しみましたが、透析が開始されると少しずつ身体は楽になり、元の生活に戻れるようになりました。

中学生時代に出会った音楽

闘病中、青鹿さんの支えになったのは「音楽」でした。中学3年生でギターに出会い、 LUNA SEAやX JAPANの熱いサウンドに憧れ、ロックにのめり込みました。高校卒業後は音楽の専門学校に進学し、様々な音楽を学ぶ上で"ジプシースウィングジャズ"に魅了されます。

2015年、専門学校時代の後輩とバンドを結成。今年で結成10周年を迎えたジプシースウィングギタートリオ「GYPSY JAPAN」が誕生します。

青鹿さんは、ライブなどの演奏活動と共にヤマハ音楽教室でギターとウクレレの講師としても活躍しています。

「ジプシースウィングギタートリオ「GYPSY JAPAN」でのライブ演奏
▲「ジプシースウィングギタートリオ「GYPSY JAPAN」でのライブ演奏。軽快なスウィング感と哀愁を帯びたメロディーが会場を魅了する」

ジプシースウィングジャズとは1930年代にギタリスト ジャンゴ・ラインハルトによってパリで始まったアコースティックジャズです。軽快なスウィング感と哀愁を帯びたメロディーが特徴。当時のパリでは都会的なポピュラーな音楽として親しまれました。

入院中、病棟の談話室で音の小さなギターを使って練習することもあり、指を動かすことで気持ちに光が差しました。「ギターを弾いているときは、気が紛れて励まされている感覚になって」と当時を振り返ります。

青鹿さんにとって音楽は「自分に彩りを与えてくれるもの」。衣食住と違い、音楽は生きるために絶対必要なものではありません。ですが、人の心を豊かにし、生きる力を与えてくれる大きな存在です。

セルフ透析と仕事のバランス

「自分でできることは自分でやろう」という気持ちから、透析も自立したいとセルフ透析を選んだ青鹿さん。現在は、田端駅前クリニックでセルフ透析を行っています。

一般の透析は、病院に通院しベッドの上で天井を見ながら行い、同じ姿勢で過ごします。受付時間も17時までが多く、夜間に透析を行える場所はそう多くありません。ですが、青鹿さんが通うクリニックは19時までに入室したらよいため、仕事の後も問題なく駆けつけることができます。

セルフ透析は自分で透析機器の準備・操作・片付けまでを一人で行う治療スタイルです。覚えるまでに約3か月かかりましたが、今では20〜30分でセッティングができ、針を指す時だけ看護師にお願いしているとのこと。

その後は通常の4〜5時間血液透析が始まると、SNSの更新や映画を鑑賞しています。リクライニングチェアで快適に過ごせるため、 “病人っぽさ”を感じずに生活できることも魅力の一つ。中には個室を利用しリモートワークを行う患者さんもいます。

「透析をしていると話すと、よく“時間がかかるでしょう”と言われるのですが、慣れるとそこまで長くは感じません。その時間をどう活用するかで、透析時間も充実したものになります」。

セルフ透析のよさは、自分でスケジュールを調整して通院ができること。ライブやレッスン日に合わせて、透析を調整できることでこれまで以上に生活の質を上げることができました。

「セルフ透析は自己管理が求められるので、そういった面も"自立"の一環になっていると感じます。僕は週によっては透析の回数を増やすこともあり、身体の調子がよくなるだけでなく、精神的にも安心感があります」と語っていました。

多い時は月に3回ほどライブ活動があるため、遠征に行く際は普段通うクリニックで透析ができないことも。その場合は、事前に現地の病院を調べ、透析時間を必ず設けています。バンドメンバーも協力的なことから、特に不便を感じることはない」のだとか。

ただ、コロナ禍や感染症が流行した際も透析は変わらず行わなければなりません。そのため、コロナに感染し体調が万全でない時も、無理やり身体を起こして患者専用のタクシーでクリニックに向かうこともありました。

また、普段の生活における体調管理では水分の摂取量や、特にカリウムの摂りすぎに注意した食生活を心がけています。セルフ透析で透析時間や回数を増やすと、そういった制限が緩和されるので気持ちが少し楽になります。

透析患者に届ける音楽

透析患者に向けたライブ「ジプシージャズで届ける
▲透析患者に向けたライブ「ジプシージャズで届ける"希望の光"ライブ」。音楽を通じて同じ境遇の人たちに勇気を届けている

透析と音楽の両立を実現し、前向きに過ごしている青鹿さん。

ギターケースを持ってクリニックに来る青鹿さんを見て、他の患者さんから声をかけられたことも。その縁で、自身のライブに足を運んでもらえることもあり、新しいつながりが生まれたことを喜んでいました。

さらに、昨年11月と今年5月には透析患者に向けたライブ「ジプシージャズで届ける"希望の光"ライブ」を開催。医療法人社団OasisMedicalとのコラボイベントで音楽を通じた社会貢献を行なっています。次回は2025年11月9日(日)の開催が決定しており、リアル会場とオンラインでの同時配信が予定されています(詳細は記事末尾)。

観客からは「同じ透析患者として勇気をもらった」と感謝され、青鹿さん自身もとても励まされました。ライブ中、ギターを奏でながら「色々あるけれど、いつも元気に過ごしていこう」そんなメッセージを込めたと言います。

音楽を弾けば気持ちが高まり、ステージに立てば観客と心がつながる。こんな素敵な時間は他にはありません。

「僕は決して、“勇気をあげよう”なんておこがましいことを思ってはいません。ですが、透析を行っている自分でもこんなに生き生きとしていられる」とステージ上で感じてもらえたらと願っていました。

透析と音楽と生きる

今後も生演奏を奏でて、演奏を聴いてくれる人たちに活力を届けたい。青鹿さんの音楽への思いは高まります。

「5年後、10年後、時代が変化しても生演奏の素晴らしさは変わらないと信じています。いくらAI技術が進んで簡単に曲作りができても、人が織りなす音色が格別だと思います」と話していました。

「今後もメンバー全員でライブを続けていくために元気に過ごしていきたい」と前向きに語る青鹿さん
▲「今後もメンバー全員でライブを続けていくために元気に過ごしていきたい」と前向きに語る青鹿さん。音楽への情熱は尽きることがない」

これから透析を始めなければならない人にどんな声をかけたいか尋ねると、青鹿さんはこう答えてくれました。

「透析導入前はどうしても、不安な気持ちが先走るのは当然です。でも、始まってみたら“よかった”と思えることが見つかるとはずです。
透析の技術は日々進歩していますし、小さなことでもいいので自分なりのプラスに気付くことが大事ではないでしょうか」と語っていました。

また、心配なことがあれば医師や看護師、そして透析装置を扱う臨床工学技士に相談することも、ストレスを溜めないための方法の一つだと言います。 

「自分の中では、透析は人生の終わりではなく、生活の一部。ネガティブなイメージを変えていきたい」と話し、透析で体調を整えられるようになった今だからこそ、その充実感を深く感じていました。

音楽とセルフ透析で得た彩りを胸に、青鹿さんの挑戦はこれからも止まることなく続いていきます。

【ライブ情報】ジプシージャズで届ける"希望の光"ライブ

透析患者とそのご家族、透析に関心のある方を対象とした特別ライブを開催します。音楽を通じて同じ境遇の方々に勇気と希望を届けるイベントです。

【開催日時】
 2025年11月9日(日)14:00スタート
 ※ご希望の方はセルフ透析センターの見学もライブ終了後に実施します。

【場所】
 医療法人社団 Oasis Medical ラーニングセンター
 〒114-0014 東京都北区田端 1-21-8 NSKビル3階
 JR田端駅から徒歩すぐ

【形式・定員】
 リアル会場(30名様限定ご招待)+ オンライン同時配信

【費用】
 無料

【お申し込み・詳細】
 https://x.gd/VJF65
 

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ライター 飯塚まりな

フリーライター/イラストレーター  近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。

ブログ
https://note.com/maaarina0414/n/n3cd180f64235
公式HP
https://www.facebook.com/marina.iizuka.9/?locale=ja_JP

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