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RDワーカーの働きたい!をサポートする「わたしのトリセツ」

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ライター:こんどうなつき

「どうすれば、継続して働くことができるのだろう?」これは、難病当事者である私の長年の課題でした。

これからお話するのは、常に体の不調を抱える難病当事者が、働くことに試行錯誤する中で、あるプロジェクトに出会い、開発に参加することで、「自分らしく働くことに一歩近づいた」一例です。

働くことに困難があっても「働きたい」「働き続けたい」人にとって、何かヒントになれば幸いです。

発症から25年経っても自分の体調ってよくわからない

私は、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎の当事者です。また、難病と共に働いているRDワーカーです(RDワーカーについては、後ほど詳しくご説明します)。

普段は、獣医師として活動していますが、多くの方がイメージするような動物の診察や手術などは体調面から難しく、現在は在宅で、動物についての執筆活動をしたり、イラスト作成などを行ったりしています。
このような形で仕事をするようになるまで、何度も退職を繰り返してきました。

発症したのは中学生の頃で、それから20年、症状がない日はありません。しかしながら、病院を受診しても、診断を受けられず「気のせい」などと言われ続けたため、自分でも健康だと思い込もうとしました。大学を卒業するころには、立っていることも難しいような状態でしたが「働けるはずだ」という認知の歪みから、動物病院への就職を決めてしまい、結局数ヶ月しか続けることができませんでした。

診断を受けて病気であることを自覚し、今度こそ働き続けられると思ったのですが、それからの数年間も、なかなか仕事が続かず、試行錯誤の連続でした。というのも「自分の体調を把握すること」が私にとっては、とても難しかったのです。

体に現れる症状は、全身の痛み、倦怠感、体の力が入らない、思考力が低下して言葉がでないブレインフォグと呼ばれるものなど複数あり、365日何かしらの不調があります。しかしながら、それぞれの症状が、いつも同じように現れるわけではありません。日によって強くなる症状の種類も違えば「寝たきりの日と起き上がってある程度活動出来る日もある」など、体調のレベルにも波があります。

このような体調の波がある中で「どんな活動をどれくらい行うと、どれくらいの影響が出るか」を把握することは困難でした。

体調の把握が難しい上に、動ける時間が少ないため「あれもこれもやりたい」とよくばってダウンすることもありました。また「誰かの役に⽴てるなら」という思いから、頼まれた仕事は、ほとんど断らずに取り組んだ結果、続けることが難しくなってしまうこともありました。

そんな中、NPO法人両育わーるどの理事長である重光さんから、新しいプロジェクトとして「難病者の体調に影響を与える負荷を可視化するサービス」の開発に参加しないかとお声がけいただきました。

このサービスは、現在、企業向けに提供開始することが決まっており、準備を進めているところです。「アプリによる症状と体調に影響を及ぼす負荷の可視化」と「トリセツ作成・共有」の2つを柱としています。

サービス名は「RDワーカーの進む方向をサポートする」という意味を込めて、RDコンパスと名づけました。
RDコンパスの開発に参加する中で、私自身にも大きな変化があったので、その経験をご紹介したいと思います。

在宅で自分のペースを大切にしながら働くRDワーカーである私
▲在宅で自分のペースを大切にしながら働くRDワーカーである私

RDワーカーとは

RDコンパスについてのお話をする前に、先ほどから何度か登場している「RDワーカー」についてご説明させてください。

RDワーカーとは、難病と共に働いている、働こうとしている人たちのことです。

この言葉は、難病者の社会参加を考える研究会が中心となり、難病の当事者・支援者、医療者・コピーライター・地方議員などの有志メンバーが集まり、それぞれの想いをもとに半年間の議論を重ねて、創られました。

社会参加したい、働きたい、少しの柔軟性があれば働ける難病者の存在を社会に伝え、難病と就労を取り巻く諸課題が進展することを目指しています。

RDワーカーの詳細については、『難病者の社会参加白書2025』を是非ご覧ください。
https://ryoiku.org/studygroup/#hakusho25

毎日記録をつけて可視化してみる

サービス開発にあたり、体調や体調に影響する負荷を見える化するためにはどのような項目を記録する必要があるのか話し合いました。様々な案が出ましたが、最終的には「自分の症状」「症状に影響を与えるストレス要因」「業務負荷」を中心に記録することになりました。

私⾃⾝、しばらく記録を続けてみたところ、体⼒に対してスケジュールを詰め過ぎであることを実感しました。また、外⾷など⾷事量が多過ぎることが、負担になっていることもわかりました。そこで「休み」という枠をあらかじめ作り、予定を⼊れないようにしたり、外⾷の回数を減らすよう⼼がけました。

仕事面では、記録をつけるまで、勤務時間や外出時間のみが体調に影響していると思っていましたが、業務の内容も影響していることが見えてきました。

症状の一つであるブレインフォグによる思考力の低下で言葉が上手く出なかったり、考えがまとまらなかったりすることが、自分の中で不安が大きくストレスになっていて、複数の人の意見を聞いて物事を整理する会議の進行などは負荷が大きいことがわかりました。そのため、会議がある日は、自分にとって負荷が小さい業務と組み合わせるなどして、一日の業務負荷を調整するようにしました。

すると、本当に少しずつではありますが、体調が安定する⽇が増え、仕事を安定してできる時間が増えてきました。

症状や業務負荷を記録することで、自分の体調の波が見えてくる
▲症状や業務負荷を記録することで、自分の体調の波が見えてくる

私の一例をご紹介しましたが、同じように記録を続けた団体メンバーの多くが、自分の体調の波や影響する要因を把握することで、セルフコントロールしやすくなったという結果を得ました。

「わたしのトリセツ」を作ってみる

私たちは、可視化の次のステップとして、自分自身の取扱説明書「わたしのトリセツ」を作り、周囲に共有することで、職場での相互理解に繋がるのではないかと考えました。

「働く上で職場の人に知っておいてほしいこと」をトリセツの主な項目として考えつつも「権利を主張するだけではなく、互いに理解し合うためにどうすればよいか」について何度も話し合いました。

「わたしのトリセツ」が、職場での良好な関係づくりのきっかけとなることを目指して「自分自身で対策していること」や「得意なこと」、「趣味や好きな事」などの項目も加えました。

自分自身の取扱説明書『わたしのトリセツ』で、職場での相互理解を深める
▲自分自身の取扱説明書『わたしのトリセツ』で、職場での相互理解を深める

こうして出来上がった項目にそって、可視化と同様に団体メンバーそれぞれが「わたしのトリセツ」を作成し、お互いに発表することにしました。私にとっては、ここでも大きな発見がありました。

私はこれまで、通院などでお休みをいただく際は早めに伝えたり、病気に関することで仕事にかかわることは、周りの人に話してきたつもりでした。

しかしながら、いつも不安に思っていた「ブレインフォグ」のことをあまり話してこなかったことに気づきました。

「周りの人にお願いすることもないし、言っても仕方がない」と思っていましたし、自分の中で、なかなか対策できない「弱み」でもあるので、話すのが怖いと思っていることでもありましたが「知っておいてほしいこと」として伝えてみることにしました。

すると、ブレインフォグで不安に思っていることに対して、頷きながら聴いてもらえたり、「わかる気がする」と共感の言葉をいただいたりしました。

ブレインフォグの症状は、その後も変わらずあり、上手く話せなかったり、何かが抜けてしまい心苦しく思うこともありますが、周りの人に伝えたことで、自分の中に少し安心感が生まれ、以前より少し落ち着いて話ができるようになりました。

周りから見れば、とても小さなことかもしれませんが、私にとっては、その小さな変化が継続して働ける環境を作っていると感じます。

トリセツの共有を通じて、お互いの理解が深まり、働きやすい環境が生まれる
▲トリセツの共有を通じて、お互いの理解が深まり、働きやすい環境が生まれる

また、他のメンバーのトリセツを見たり聞いたりすることで、今まで思い込みで接していた部分も少なからずあることに気づかされました。

それまで遠慮して聞けずにいたことも、その場で尋ねることができ、お互いの仕事環境が改善できるのではないかと感じました。

例えば、ある人は「睡眠障害があり、夜中に仕事をしていることが多く、遅い時間でも必要な連絡はして良いし、むしろ有難い」と話していました。それまで、私は、遅い時間の連絡は、迷惑になるのではないかと避けてきましたが、それからは、連絡をしてほしい時間帯がわかったことで、連絡を取りやすくなりました。

トリセツの発表は、難病当事者でない人も行ったのですが、子育てや介護など、それぞれが働く上で、何らかの事情を抱えていました。

職場でトリセツを作成し共有することは、病気のことだけではなく、働く上で困難を抱える全ての人にとって有用だと思います。人生には様々なライフイベントがあります。病気のことに限らず「知っておいてほしいこと」をお互いに共有することで、安心感が生まれ、働きやすい職場を作ることができるのではないでしょうか。

まずは、「わたしのトリセツ」を是非一度作成してみてください。きっと何か発見があるはずです。

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ライター こんどうなつき

⿃オタクの獣医師であり、慢性疲労症候群/筋痛性脳脊髄炎当事者、⼀児の⺟ちゃん。動物に関する原稿執筆、イラスト作成、ペットの栄養相談やペットロスのケアなどを⾏っている。 著書:『病気と闘わない!仕事、結婚、⼦育て…完治しない病気だから気付けた本当の幸せの⾒つけ⽅』(2020 年、株式会社ジーオーティー)

ブログ
https://www.instagram.com/vet.ikimonoya/
公式HP
https://ryoiku.org/

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