絵本『ボクはじっとできない 自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし』
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ライター:松下隼司(まつしたじゅんじ)
大阪の公立小学校教師の松下隼司と申します。教員23年目、2児の父親です。
今回は、私が教室で読み聞かせをしたいと思っている、素敵な絵本を紹介します。
絵本『ボクはじっとできない 自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし』
絵本『ボクはじっとできない 自分で解決法をみつけたADHDの男の子のはなし』
バーバラ エシャム (著)、 マイク&カール・ゴードン (イラスト)、品川 裕香 (翻訳)
出版:岩崎書店
『ボクはじっとできない』。このタイトルを見て、「ああ、わかる!」って思った子、たくさんいるんじゃないでしょうか。
そして、その子たちを毎日見てるお父さんやお母さん、先生たちも、きっと同じように「ああ、わかる!」って思われたはずです。この絵本は、まさにそんな、みんなの心にスッと入ってくる物語です。
この絵本を読んだら、子どもたちが抱えているモヤモヤした気持ちや、なんだか落ち着かない時のあのウズウズした感覚が、スーッと晴れていくはずです。そして、もしかしたら、そんなお子さんのお父さんやお母さん、そして私たち教師も、子どもたちのことをもっともっと理解できるようになる、そんな不思議な力を持っている絵本が『ボクはじっとできない』です。
この絵本は、単に「じっとしていられない子」のお話ではありません。子どもの教育の関わる方全ての人たちで向き合うべき、すごく大切なテーマが隠されています。
主人公のデイヴィッドという男の子は、学校では「おちつきがない子」ってレッテルを貼られてしまいます。
授業中も、先生の話を聞いているつもりですが、周りの物が気になってしまいます。窓の外を飛んでいる鳥、隣の子の鉛筆がカタンと落ちる音。そういう些細なことに、デイヴィッドの注意はすぐに奪われてしまうのです。
デイヴィッドは、給食の時間に、お隣の子のプリンの容器を、ついつい握り潰してしまいます。決して悪気があったわけでじゃありません。
でも、いつも結果は失敗で、先生に怒られてばかり。デイヴィッド自身も、「なんでぼくは、いつもこうなんだろう…」って悩みます。
そして、この絵本がすごいのは、デイヴィッドの心の声を描いているところです。
デイヴィッドの行動を「ただのいたずら」で終わらせないところです。
彼の「じっとしていられない」気持ちは、ADHD(注意欠如・多動性障害)という、その子の個性や特性から来ているんだと、優しく教えてくれます。
そして、教師である私も、この絵本を読むとハッとさせられます。「ああ、デイヴィッドのこの行動には、こんな理由があったのか」と。
デイヴィッドは、本当は先生の話を聞きたいし、お母さんにも褒められたいのです。
でも、自分の体が勝手に動いてしまいます。衝動的な気持ちが、頭の中にどんどん湧いてきて、それを止めることができません。
それは、まるで、頭の中に「もっと速く!もっと速く!」って命令する小さな声が聞こえてくるみたいです。
そんな葛藤の中で、デイヴィッドは自分を責めてしまいます。「ぼくは、どうしてこんなにダメなんだろう…」と。
でも、この絵本は、そんなデイヴィッドの心を優しく包み込んでくれます。
デイヴィッドは、この「じっとできない」自分とどう向き合ったでしょうか。
物語の後半で、デイヴィッドは、自分自身で解決策を見つけ出します。それは、誰かに言われたことでなくて、デイヴィッド自身が考え抜いてたどり着いた答えです。
「じっとできない」なら、「じっとしない」でいいんだ!
デイヴィッドは、自分のエネルギーを、大好きな絵を描くこと、思いっきり体を動かすことに使うようになります。
そうすることで、心の中のウズウズしたエネルギーを、デイヴィッドの創造性や、力強さに変えていきます。デイヴィッドの顔が、どんどん輝いていきます。。デイヴィッドが自分の才能を見つけて、キラキラと輝き始める姿に、感動します。
この絵本は、ADHDの特性を持つ子たちが、自分を肯定できるようになるための、最高のガイドブックです。
そして、周りの大人たちには、子どもたちの行動の裏側にあるものを、もっと深く理解するきっかけを与えてくれます。
子どもたちの「じっとできない」エネルギーを、頭ごなしに否定するのではなく、どうやったら、その子らしい形で伸ばしていけるかを教えてくれます。子どもと一緒に考えていくことの大切さを教えてくれます。
「落ち着きがない」「気が散りやすい」という言葉で片付けるのでなくて、その子のエネルギーをどうやって良い方向に導いてあげるか。それを、この絵本は教えてくれます。
この物語を読めば、読んだ人の心の中に、デイヴィッドみたいに前向きな気持ちが芽生えてくるはずです。「じっとできない」を、才能に変えていくきっかけになるはずです。
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ライター 松下隼司(まつしたじゅんじ)
・大阪市立豊崎小学校教諭 ・絵本『ぼく、わたしのトリセツ』『せんせいって』 ・教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』『教師のしくじり大全』 ・Voicy(無料のネットラジオ)のパーソナリティ https://voicy.jp/channel/4155 ・第20回読み聞かせコンクール朗読部門で県議会議長賞、自由部門で教育委員会教育長賞を受賞 ・令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞 ・教科書編集委員
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