ASDとLDの子どもの声からできた絵本『学校コワイ』
この記事を共有
ライター:松下隼司(まつしたじゅんじ)
公立小学校の教師、松下隼司と申します。教員23年目、2児の父親です。
今回は『学校コワイ』(文:よつばもこ/絵:かしだあゆみ/出版:ASDヴィレッジ出版)という絵本を紹介したいと思います。
『学校コワイ』(文:よつばもこ/絵:かしだあゆみ/出版:ASDヴィレッジ出版)
この絵本は、小学校の特別支援学級の先生に教えてもらったことをきっかけで読んだ絵本です。
https://from-a-village.com/shop/js-17/
この絵本は、学校に怖いお化けが出てくるというような内容でありません。
学校生活にたくさんの困り感をもっているお子さん(ASDとLD)が、まわりの先生に自分の特性に気づいてもらえないで苦しみ続け、また、友だちからのいじめによって心が深く傷ついていく内容です。そして、「学校=怖い」と思うようになります。でも、親御さんの気づきや、理解のある先生の対応によって、「学校=少し楽しい」と気持ちが変化していきます。実話を元にした絵本です。
絵本『学校コワイ』に込められた思いを紹介します。
↓↓↓
娘はことばとコミュニケーションに遅れがあり、学校では能面のような顔で固まっていました。
小二でLD(学習障害)と ASD(自閉症スペクトラム)とわかるまで、周りからは本人が何に困っているのかがわかりませんでした。
「やりたい」気持ちは人一倍ありながら、「わからない」「できない」自分を思い知らされ二次障害。
いじめにも遭いましたが、「いやなことをされる」ことが『いじめ』だという概念が本人になく、発見が遅れました。
高校生の頃、小学生の親たちが「遊んでないで片付けなさい」と叱るのを見て、
「サボってるんじゃなくて、やり方がわからないんだと思うよ。私もやり方を教えてもらったらできたよ。」
とぼそっと言ってくれたことから、本人側から見た世界観を教えてもらう機会が増えました。
今回は、そんな娘のことばを集めてみました。
引用元:いちょうネット(改行と太字は松下隼司)
https://www.manabi.city.osaka.lg.jp/www/contents/jinken/ehon/nyuusen/gakou.pdf
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
上記の「いちょうネット」には、絵本『学校コワイ』の全文が載っています。また、YouTubeにも読み聞かせ動画があります。
よろしければご覧ください。
絵本に出てくる子どもが、学校生活のどんな場面で困り感をもつのかが具体的に描かれています。
例えば、次です。
●授業と休み時間が交互にあることが分からない。(時間割りに書いていないから。)
●チャイムが、授業や休み時間の合図になっていることに気づかなかった。
●「教科書」が何か分からない。国語の教科書の表紙には「こくご」としか書かれていない
から。
●黒板にたくさんの字が書かれていて、どこを見たらいいか分からない。
(教師は授業中、「1時間の授業の流れが分かるように、黒板に書いたことを消してはいけない」という暗黙のルールがある学校もあります。そのため大きな字で黒板に文字を書くと、黒板のスペースに文字がおさまりません。結果、小さな字で書かないといけなくなります。1時間の授業の流れは、ノートやワークシートを見れば振り返ることができるのですが…。)
私が教師になった20年ごろ前に比べると、自閉症やアスペルガー症候群、学習障がいについての理解がすすんできているように感じます。教師向けや保護者向けのイラスト入りの書籍のたくさんあります。しかしそれに比べて、発達障がい本人からどんなことに困っているのか、傷ついてきたのかを聞くことはとても少ないです。
この絵本『学校コワイ』は、教室でどうしていいかわからなくて、おびえて立ちすくみ、どんなふうに助けを求めればいいのか、その方法も分からない子どもの心の声が描かれたとても貴重な絵本です。
自分のことをどう表現したらいいのかわからない当事者と、わかりたいけれど、どう理解していいのかわからないまわりにいる親御さんや先生や友だちをつなぐ、意義深い絵本です。少しでも多くの人にASDやLDの子どもたちが、学校でどんなことに困っているのか、どんなことを怖がっているのか、知ってもらえる絵本だと思います。
私も、小学校教師として、「子どもに伝えたつもり」「子どもは知っている」「自分の学級は大丈夫」と過信せず、もっともっと子どもたち1人ひとりことを理解しようとする姿勢をもち続けたいと、この絵本を読んで思いました。これからももっともっと障がいについて勉強を重ねようと思います。
この記事を共有

ライター 松下隼司(まつしたじゅんじ)
・大阪市立豊崎小学校教諭 ・絵本『ぼく、わたしのトリセツ』『せんせいって』 ・教育書『むずかしい学級の空気をかえる 楽級経営』『教師のしくじり大全』 ・Voicy(無料のネットラジオ)のパーソナリティ https://voicy.jp/channel/4155 ・第20回読み聞かせコンクール朗読部門で県議会議長賞、自由部門で教育委員会教育長賞を受賞 ・令和4年度 文部科学大臣優秀教職員表彰を受賞 ・教科書編集委員
おすすめ記事
-
2025年7月8日
「うつは生き方を見直すチャンス」精神障がいとともに築いた新しいキャリア
-
2025年6月6日
障がいを抱えても、僕はここにいる ~マーケティング現場で輝き続ける~
-
2025年5月20日
手話を楽しく学べる絵本『しゅわしゅわ村』シリーズ
-
2025年5月16日
私なりの子育てのカタチ
-
2025年3月28日
目に見えない発達障害と、絵本『りゆうがあります』
-
2025年3月21日
双極性障害を「治す」のではなく「付き合う」へ ~30代のキャリア再構築~
-
2025年3月7日
うつ病家族の当事者になって気づいた事
-
2025年2月25日
「耳を通じて幸せになる」という言葉から考えた障害と地域の関係
-
2025年1月21日
私らしく育児をする工夫 ~障がいママができることを増やすチャレンジ~
-
2025年1月17日
インド一周達成!ありがとうインド‼︎
-
2025年1月10日
寂しさを解消し、個性を活かす 業界初のサイニング薬局/株式会社ヤナリ・李英健さん