生成AIで支援の現場はどう変わる?コミュニケーション支援アプリ「DropTalk」の開発者が解説
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ライター:渡眞利駿太
「生成AIの普及により、障害者支援の仕事も変わっていくのだろうか?」
「業務効率化に使えると聞くけど、いまいちどのように活用していいかわからない」
近年の生成AIの発展を目の当たりにして、これからの支援のあり方が気になるところです。
今回は、コミュニケーション支援アプリ「DropTalk」の開発を手掛けるHMDT株式会社代表取締役の木下誠さんに、AIと支援のこれからについてお話をうかがいました。
累計40万件ダウンロードされた「DropTalk」、生成AIで大幅アップデート中

▲DropTalkが提供するシンボルコミュニケーション。イラストをタップすると音声が流れる
HMDTが開発を手がけているアプリ・DropTalkは、イラストなどを用いてコミュニケーションを支援するアプリです。
「物や行動、気持ちなどを表すイラスト『シンボル』を用いて、自閉スペクトラム症(ASD)や場面緘黙などのある子どもたちのコミュニケーションを支援するアプリとして提供しています。
約700点の標準シンボルのほか、自作のイラストや写真の挿入も可能です。また、タイマーを用いたスケジュール機能もあり、子どもたちが予定の見通しを立てたり、行動を切り替えたりするための支援にも活用いただいています」

▲DropTalkのタイマー機能。行動の切り替えが苦手な子の支援に活用できる
累計ダウンロード数は40万件を超え、すでに多くの支援の現場や家庭で活用されています。現在、大幅アップデート版を開発中とのこと。
「DropTalkはこれまで、主に障害のある子どもたちに向けた支援アプリとしてご活用いただいていました。今回のアップデートでは、より間口を広げ、コミュニケーションに問題を抱えるあらゆる人々が使えるアプリに進化する予定です」
大型アップデートに向けて準備を進めるDropTalk。実際の開発から、ユーザーが触れる新機能まで、生成AIを積極的に活用しているそうです。
「生成AIの技術を取り入れることで、これまでより格段に柔軟なコミュニケーション支援ができると見込んでいます。
例えば、画像生成技術を用いれば、ユーザーがオリジナルのシンボルをすぐに作れるようになります。
『暑い』という状態一つとっても、『少し暑い』『蒸し暑い』『熱中症になりそう』など、細かいニュアンスを表現したいことがありますよね。現状でも自分で絵や写真を追加してバリエーションを増やせますが、プロンプトを入力すれば希望の画像をすぐ出力できるようになるのです」
※プロンプト
生成AIに対して与える指示や質問のこと。「男の子が歯磨きしている絵を描いて」「報告書のテンプレートを作成して」といった具体的な依頼文を指す。
その他にも、煩雑だったキャンバスの作成をAIにお願いしたり、学習の助けになるようなAI活用機能を充実させるとのこと。生成AIの技術は、困りごとを抱える人々の支援にどのように役立つのでしょうか?
生成AIは“疲れない練習相手”。支援者の手が足りない分を補完できる
DropTalkに限らず、生成AIが支援の現場にもたらす恩恵についてうかがいました。
「生成AIの特長は、子どもたちと支援者のコミュニケーションを間接的に支援できるだけでなく、 生成AI自体が子どもたちと疑似的に会話できる点です。コミュニケーションが苦手な子どもたちにとって、“疲れない練習相手”になります。
1人の支援者が子どもたちと関われるリソースには限界がありますが、生成AIを用いることで、支援の頻度や打ち手を増やすことができます。例えば、支援者と授業で挨拶の練習をした後に、生成AIを相手にトレーニングを重ねるといったように、支援者の手が足りない部分を補完する使い方ができるのです」
今までのICTツールにはなかった柔軟な機能により、子どもたちがコミュニケーションを楽しむきっかけ作りにもつながると言います。
「今までになかったかたちのやり取りができるようになり、一人ひとりの子どもたちにとって『この方法ならコミュニケーションが取れるかも!』という発見につながるのではないか。私は技術者として、この点に強く期待しています」
コミュニケーション以外の面では、LDなど読み書きに苦手さのある子どもたちの学習支援にも有効とのこと。
「教科書を拡大したり、読んでいる箇所を見失わないように周辺の行をマスクしたり。また、画像認識機能により、板書の写真を撮ってデータとして保存するといった使い方も可能です。
これまでアナログのツールで行われていたサポートが、生成AIを活用することでますます効率的にできるようになります」
教材作りをプロンプトであっという間に。支援の現場での活用事例
事業を通して多くの支援者の方々の話を聞くなかで、教材準備や事務作業の負担に追われるという現場の悩みを耳にしてきたという木下さん。
生成AIの活用は、そうした支援者の負担を軽減することに貢献できると語ります。
「子どもたち一人ひとりに合った支援をしようとすると、絵カードや掲示物の作成など、準備の時間がかなりかかりますよね。正しい理論を知っていても、リソースの問題でなかなか実践しきれず、歯がゆい思いをしている支援者の方は多くいらっしゃいます。
教材作成に生成AIを取り入れることで、短い時間で必要な材料をそろえ、直接子どもたちと関わる時間を増やすことができます」

▲DropTalkの講習会で、生成AIの活用方法について解説する木下さん
実際に生成AIを用いて業務効率化を進めた事例についても、多くの支援者から話を聞いているとのこと。
「デザインツールの生成AI機能を使って、教材作成の時間を大幅に短縮したという事例を聞きました。従来であれば手作業で一つずつ作っていた教材がプロンプトを入力するだけであっという間に終わるというのは生成AI使用の大きなメリットの一つです。
時間割や授業の教材など、ドキュメント作成でも生成AIは大きな助けになります。もちろん、最終的には人間の手で仕上げる必要があるものの、たたき台をAIに出力させるだけでも、かなり作業時間を短縮できると思います。
実際に、DropTalkでもプロンプトからキャンバスを作る機能の実装を予定しています。業務の効率化を進めるための一つの手段として、生成AIを活用できるようにしていく予定です。」

▲生成AIを組み込んだDropTalkのキャンバス作成支援機能。プロンプトから指示を入力することで、キャンバス作成の時間を大幅に短縮できる
一方で、生成AIがもたらすリスクについて懸念を示す支援者も少なくないとのこと。
運用上のリスクや注意点について、木下さんは次のように語ります。
「1つはセキュリティの問題です。ツールや設定次第では、入力内容が外部に流出してしまうことがあるため、ツールごとの設定を十分確認すること、組織内で運用ルールを統一することが必要です。
2つ目に、教育現場が特に気を付けるべき点として、有害コンテンツ生成のリスクもあります。開発元によってガイドラインはさまざまなので、導入の前には、『不適切なテキストや画像を生成しないツールであるか』の確認が欠かせません」
そのほか、今後表面化する可能性のあるリスクについてもうかがいました。
「ただでさえ対人関係に苦手意識のある子どもたちが生成AIとのやり取りに慣れることで、人間とコミュニケーションを取らなくなってしまうのではないかという懸念はよく耳にします。
生成AIに限らず、新しい技術は今までなかった問題も同時に生み出すものです。『リスクがあるから使わない』とするのではなく、大人が上手な使い方を把握したうえで、子どもたちにもそれを伝えていくことが重要だと思います」
AIでなんでも解決できるわけではない。今までの支援のノウハウをもっと活かすために使ってほしい
最後に、支援の現場でのAIとの向き合い方について、現場の皆さまへのメッセージをうかがいました。
「新しい技術が登場すると、『今まで積み上げてきた知識やスキルが無駄になるのでは?』『全く新しい方法をこれから覚えなければいけないのか?』という不安を覚えるかもしれません。
ですが、実際には、生成AIが登場したからといって、これまで蓄積されてきたノウハウが白紙に 戻ることはありません。そろばんが計算機に変わったのと同じように、土台となる考え方自体はそのままに、手作業だった部分が自動化できるというイメージを持っていただければと思います。
昨今はニュースでも生成AIの話題が取り上げられることが多く、『時代に追いつかなければ』と焦る方もいると思いますが、無理する必要はありません。まずは身近なものを触ってみて、どんなことができるのかを知る。そのうえで、今の支援の方法と照らし合わせて『これは使えるかも?』と感じたものから取り入れていただけたらと思います」
VOCAアプリ「DropTalk」の詳細は以下のリンクから
https://www.droptalk.jp/
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ライター 渡眞利駿太
フリーランスライター。発達障害児の学習支援・SSTの仕事に4年間従事したのち、採用人事等を経て独立。障害者福祉とBtoBマーケティングの二軸を中心に、幅広いジャンルで執筆している。ライター業の傍ら、放課後等デイサービスのスタッフとしても勤務。
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