「絶望している暇はない」 ALSになっても歌いたい 音楽ユニットたか&ゆうき
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ライター:飯塚まりな
2019年、“たか”こと古内孝行さんはALS( 筋萎縮性側索硬化症)と診断されました。絶望の先に、“ゆうき”こと介護福祉士の石川祐輝さんと出会い、2021年8月に音楽ユニット「たか&ゆうき」を結成。
これまで、YouTubeでの配信や地域のイベント活動で歌い続け、昨年11月には一般社団法人WISH ALS代表の武藤将胤氏が総合プロデュースする「MOVE FES.2024」に参加。LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)のステージに立ちました。
今回は利用者と介助者の関係を超えた二人の関係性、音楽で伝えたいことを対談で伺いました。
「たか&ゆうき」お二人へのインタビュー!
──まずは、お二人の出会いについて教えてください。
ゆうきさん:初めて会ったのは、僕のライブに奥さんと来てくれた時。その頃は、たかの歩いている姿を見て「どうも〜、はじめまして」って挨拶したよね。
たかさん:そうだね、僕も若い頃に歌手を目指していたから、音楽はずっと好きだった。当時は飲食店で店長をしていたけど、ある時からコップを落としたり、鍋から茹でたパスタを引き揚げることができなくなって。ALSと診断されてからは、1年ほど家に引きこもっていた時期があったんだ。
ゆうきさん:僕は、一美さん(たかさんの奥様)と同じデイサービスで働いていて「うちの夫がずっと家にいるからなんとかできないか」って相談されたから、思い切って声をかけてみた。
たかさん:確か、あの時は「ALSのYouTuberならバズるよ!」って言われて動画を撮るようになったね(笑)バズってないかもしれないけど、今はどんどん仲間が増えて嬉しいよ。
──デイサービスではどのように過ごしているのですか。
たかさん:ALSを発症してから自宅での入浴も難しくなって、デイサービスに入浴介助で週3回通うようになり、今もゆうきがいる日に入浴してる。
ゆうきさん:高齢者の中に突如異例の40代だったから、最初の頃は別室で過ごせるように工夫したね。
──その状況は変わったのですか
たかさん:今は一緒に過ごして、だいぶスタッフ目線かも(笑)そばで過ごしていると、利用者さんの表情や仕草から「トイレに行きたいのか」「不安そう」と気付くことが、僕なりの役割だと思っていて(笑)飲食店で働いていた時に、お客さんの反応を見逃さないようにしていた経験が生きていますね。
ゆうきさん:利用者さんの様子をスタッフより先に気付いてくれるし、歌のレクリエーションは一緒に盛り上げてくれるから、 “頼れる存在” で助かってるよ!
▲ 音楽ユニット「たか&ゆうき」左 たかさん 右 ゆうきさん
──二人で歌うことは難しくないですか
ゆうきさん:お互いに昔から音楽活動はしていて、曲のテイストは違うけどいい関係性ができたと思う。
たかさん:僕は4年前に、妻と発達障害のある息子に曲を残したいと思って「瞳の彼方へ」という曲を作っていて。ギターは弾けなくなっていたから、メロディはゆうきが付けてくれて、そこから二人で何曲も作ってるね。
ゆうきさん:デイサービスの終了時間に一室借りて曲作りをして、結成1年後には所沢市文化センターMUSEの小ホールでコンサートを開催できたし、ユニットを組んでからいい方向に進んでるよ!
▲MUSEで行われた初ライブ(2022年9月)
──たかさんが一番大事にしていたことはなんですか
たかさん:発症してからゆくゆくは声を失うことを覚悟していたけど、「どうしても声を残したい」という強い思いがあって。今は、声を録音できるアプリ「コエステーション」が登場したおかげで、声をデータとして残せるようになったから「今の時代でよかった」って願いが通じた気がしたよ。
ゆうきさん:今は何を思う?
たかさん:音楽を通して当事者の気持ちを代弁したいかな。僕たちは1センチ、1ミリと簡単に動かせない身体だけど、心は自由で病気にならないでしょ。僕は発症してから6年目だけど、生きがいがあるからこそ、今も歌えて話すことができていると思う。
▲定期的に新曲を披露する二人
──結成した当初と今では変化したことはありますか
ゆうきさん:地域のお祭りやイベントに出演したり、去年は栃木に名古屋と啓発イベントに参加できたことが大きかった。どちらも日帰りで、観光もせずに帰ったけど楽しかったね!
たかさん:コロナ禍で発症して、動ける間に旅行できなかったことが心残り...。でもALS座談会のコミュニティを知って、たくさんの情報を手に入れて、どうしたら遠出できるかなど検討できるのが心強い。今は体調を整えて色んな場所に出かけているね。
ゆうきさん:僕は二人で活動できるように重度訪問介護員の研修を受けて、今は週2回、訪問介護員として自宅に行くようになって、外出は移動介護という形で付き添うから、もう古内家の家族だよ(笑)
たかさん:活動も2人だけでなく、ピアノとパーカッションが増えた4人体制になることが増えたね。賑やかになった分、音楽の幅を広げられたかな。
▲音楽への強い思いを持つ同士
──今後の音楽活動について教えてください
ゆうきさん:僕たちはこれまで、毎年4月に市内で開催される「世界自閉症啓発デー・発達障害啓発週間Light It Up Blue Tokorozawa」に出演したけど、今年で終了して......。その時に出会ったアーティストの人たちと、これからも何かの形で表現する場を作りたいと思ってる。
たかさん:実はこのイベントのために、 僕らは勝手に「Light It Up Blue」のテーマソングを作って披露していて(笑)妻が「せっかくだから作ってみたら?」と勧めてくれたのがきっかけで、さらに「合唱曲にしよう!」と所沢フィーニュ少年少女合唱団に協力をお願いしたね。小学生の子どもたちのコーラスが入ってよかった。
ゆうきさん:そうそう、一美さんのおかげでまた一歩前進したね。レコーディングで子どもたちが一生懸命歌う姿に感動したわぁ!所沢でスティールパンの演奏をする「とこPAN」にも協力してもらって、一つの音楽が生まれる瞬間だった。これからクラウドファンディングの資金を募って、CDを完成させて小学校や放課後デイサービスに配らないと!
たかさん:ぼくは曲作りのたびに、いつも息子のことを思います。障害のある子どもたちも、みんなと一緒に過ごせるのが当たり前な世の中になってほしい。そんな思いを込めてCDを作るので、Media116の読者のみなさんにもご興味持ってもらえたら嬉しいです!
ゆうきさん:ぜひ、よろしくお願いしまーす!
▲アルバムのジャケット
── Media116の読者へメッセージをお願いします
ゆうきさん:普段の生活はデイサービスという小さな世界に、高齢者の方々を中心にみんなで肩を寄せあって共生する日々を送っています。
一方、「たか&ゆうき」を結成したことで僕自身が今まで行ったこのない地域や、福祉施設からもお声がかかるようになり、歌う機会が増えました。新しい出会いに恵まれ、愛されたユニットになれたことは感謝ですね。
たかさん:人はいつ誰がどうなるかわかりません。僕もALSを発症し、こうして音楽ユニットをやるとは想像できませんでした。
こうして活動を行なうのも、いずれ訪れるであろう未来を考えて、ヘルパーを獲得したいという気持ちでした。少しでも名が広まれば、いざという時に助けてくれる人が増えるかもしれないという切実な思いがあるからです。
6年前から新しい生き方になったけど、自分の考えやこだわりに捉われず、さまざまな場所から吸収することで前向きに生きてこられました。
今後、24時間ヘルパーの支援体制が始まったとしても、単に介護をするだけでなく、一緒に何か楽しめる関係性を築ければいいなと思っています。
▲これからも大事な音楽パートナーとして
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ライター 飯塚まりな
フリーライター/イラストレーター 近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。
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