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工場長はろう者。障がい者も健常者もともに働き、キャリアを築くベストトレーディング株式会社

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ライター:マスブチミナコ

生まれつきの聴覚障がいを持ち、現在はベストトレーディング株式会社で工場長を務める猪熊和也さん。

同社は、廃棄物処理工場を運営し、日々わたしたちがごみとして出す飲料容器(缶 ・ペットボトル・牛乳パックなど)やプラスチックなどをリサイクルしています。

聞こえないスタッフも多く働く同社では、手話や筆談などで工夫をしながらコミュニケーションをとって働いています。インクルーシブなチームのリーダーをつとめる猪熊さん。障がいを持ちながら順調にキャリアを築いて働いていくコツは、どんなところにあるのでしょうか。猪熊さんにお話をうかがいました。

耳が聞こえないことが、工場の仕事ではメリットにもなる

ベストトレーディング株式会社は、神奈川県厚木市にあります。1999年にリサイクル事業を開始。同年に障がい者雇用も始めた同社では、当時は4名の障がい者が雇用されていました。今では全従業員47名中のうち16名の障がいを持つスタッフが働いており、圧倒的な障がい者雇用率を誇っています。

他にも就労継続支援B型事業所「ビーライト」を運営し、人と環境が共生できる社会の実現をめざしています。SDGsのムーブメントよりずっと早く「みんなで生きる」を実践するベストトレーディング株式会社。まちのコイン「アユモ」にも加わり、地域の人たちに愛される会社です。

そんな同社が運営する3つの工場では、集められた廃棄物を選別や異物除去し、リサイクルの出発点となります。回収した資源をリサイクルするためには、機械だけでなく人の手による作業が欠かせません。毎日30トンもの廃棄物を扱います。

猪熊さんは工場長をつとめ、リサイクル事業を支えています。入社してから28年目になります。

「工場長を依頼された時には、びっくりしました。 本当に私、ろう者でもできるのかなというふうに思いました」

最初は工場の仕事に対して、汚いなというイメージがあった、という猪熊さん。しかし今では毎日みんなが飲み終わったペットボトルを役立つかたちにする、重要なことをしていることを誇りに思っているといいます。

インタビューに応じる猪熊さん

工場では大きな音が飛び交うので、健常者の方は音によって仕事がしづらいこともあります。でも、猪熊さんは聴覚障がいがあり音が聞こえないので、音に惑わされず仕事をすることができます。

一方で、もし機械の様子がおかしくて異音がしていても、ろう者は音で気づくことができません。トラブルを防ぐために、健常者の方々と協力して仕事をします。聞こえないメリット、聞こえるメリットをお互いに生かしています。どうしても無理な場合には、聞こえる人にお願いをするということもありますが、おかしいところがないか自分で触って確認することも欠かしません。

子どもと過ごす時間のため、理容師から転身

笑顔の猪熊さん

猪熊さんは、以前は理容師の仕事をしていました。仕事に一生懸命に取り組む猪熊さんでしたが、当時小学校に上がる前の子どもたちと休みが合わず、一緒に遊ぶことができませんでした。子どもたちがどんどん成長していく、大切な時期です。一緒に過ごす時間をとるため、猪熊さんは転職という大きな決断をします。

1ヶ月くらいですぐに慣れました、と猪熊さんはいいます。それからは子どもと遊ぶ時間もとれるようになり、ひたむきに仕事に打ち込みました。

入社から19年目で工場長になり、障がいを持ちながらもこうして長く仕事を続けられている秘訣は「一生懸命働くだけ」と猪熊さんはいいます。

「健常者と障がい者の差はあまりないと思います。 ただ、聞こえないだけということです。 心とか考え方はもう皆さん同じだと思います」

わからなくても、教え合いながらコミュニケーションを取ることが大事

社内では、多様なメンバーが手話や筆談、身振り手振りや口の読み取りを使ってやりとりをしています。LINEのやりとりもしますが、わからないことがあれば猪熊さんは必ず直接事務所に行き、筆談をして確認し合うようにしています。

そうして、わからなかったら「わからない」とすぐ言える環境になっていきました。健常者も障がい者の困っていることを直接聞き、お互いに寄り添っています。

運搬を担当するスタッフにも、課長にも、ろう者がいます。社内では手話のわかる人が教えることもあります。わかる人がわからない人に教え、わからない人はわからないことを伝えます。全員がコミュニケーションの方法を学び合って、少しずつ距離を縮めてきました。

インタビューに応える猪熊さん

全員で協力し合っていても、時にはすれ違ってしまうこともあります。

「伝わるまで何回もコミュニケーションを取ります。一番、きちんと伝えるためにはやはり筆談です。 筆談をすればきちんと伝わります」

音の大きな工場でも、筆談であれば健常者のスタッフとやりとりをすることもできます。一度書けば理解できる筆談は、社内で重宝されている工夫のひとつです。

障がい者雇用の現状についてうかがうと、猪熊さんはこういいます。

「障がい者もできるんだよって、社会の考え方が変わってくれればいいなと思います」

猪熊さんが働き始めた当初は、会社のトップには聞こえない人がいませんでした。それでも社長が頑張って筆談をしてくれたのでずっと働くことができています。 障がい者も健常者も努力を重ねて、一緒に働ける道を作り続けています。

本社応接前の風景

猪熊さんの明るい笑顔とまなざしから、周囲の人たちがついていきたくなる気持ちがわかる気がします。お休みの日も大和市のろう者コミュニティの役員として活動しているとのこと。リフレッシュしたいときは観光をして、食べ歩きを楽しむそう。4人のお孫さんとも楽しくお休みを過ごしています。そして英気を養って工場に戻り、しっかりと働きます。


障がいなどの理由で、自分とは違うコミュニケーションをとる人と出会うと、誰しも少しは不安になるのではないでしょうか。一方で、同じように聞こえて話せていても、すれ違ってしまうこともあります。

インタビューの中で、猪熊さんは繰り返し「とにかくコミュニケーションをとること」と教えてくれました。どんな状況かわからないけれど、挨拶してみる。話しかけてみる。そんな小さなところから、働きやすさは生まれるのかもしれません。

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ライター マスブチミナコ

フリーライター。デザイン、イラスト制作なども行う。人から気持ちが言葉になって生まれてくる瞬間を大切に拾って書いています。発達障がい(ASD)の当事者。

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https://note.com/masco/

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