発達障がい当事者のエンターテイナー すがなるみさん 子どもに届けるエンタメの魅力
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ライター:飯塚まりな
子どもの「楽しい」に正解はない。大勢でやる鬼ごっこが好きな子もいれば、一人で泥だんごを作ることに夢中な子もいます。アートとエンターテインメントを届ける「わくわく製造舎よいこらんど」では、工作やお絵描きショーなどを通して、全国の子どもたちが自由に表現できる場を提供しています。
代表のすがなるみさんは、発達障がいや精神障がいの当事者です。自身も摂食障がいで辛かった時期にエンターテインメントに支えられてきました。大学生の時からパフォーマーとして活躍し、2021年に起業。現在は子どもたちの体験格差の解消を目的に、無償でイベントを開催する活動にも力を入れています。
大人になりたくない、なれない私
ピンクのつなぎにツインテールの工作お姉さん、すがなるみさんの生き方とは

▲トレードマークはピンクのつなぎとツインテール。「工作お姉さん」として子どもたちの前に立つ。
—— Q. 学生時代からパフォーマーとして活動されていたそうですが、エンターテインメントの世界に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか。
高校3年生のとき、感覚過敏で摂食障害になり何も食べられなくなりました。当時は27キロ台まで体重が落ちてしまい、入院をして点滴だけで生きていたんです。
ベッドの上で、テーマパークの動画ばかり見ていて、その頃から「エンタメってすてきだなぁ」と興味を持ちました。
大学に入学してからはダンスレッスンに通い、講師の先生の伝手でテーマパークのパフォーマーとしてデビューすることができました。
一度、仕事をすると業界とつながりができるので、他のイベントにも出演できて、自然と仲間も増えました。エンタメ業界は自分と似たようなタイプの人たちが多く、私にとっては自分の居場所を見つけた感じでした。
—— Q. パフォーマーになる前の、すがさんはどんな学生でしたか。
小さい頃から集団行動が苦手で、クラスで歌う合唱が耳障りでパニックを起こし、音にはとても敏感でした。同級生たちのノリについていけず、どう過ごしていいのかわからないことも多かったです。
でも創作活動が好きで、一人で何時間も没頭していました。好きなことと嫌いなことがハッキリしていて、それは今も変わりません。
中学時代は、学校が自宅の目の前だったのですが、正門が反対側にありました。でも校庭側から侵入できれば1分で登校できるので、最終的には柵の下に穴を掘ってくぐって登校していたんですね。バレた時には、めちゃくちゃ怒られて(笑)。教師たちから見たら嫌な生徒だったと思います。
いじめに遭った経験はないですが、同じような特性のある友達と仲良くなりすぎて、二人で浮いた存在だったと思います。でも一緒にいると楽しくて、つい最近まで二人でシェアハウスしていたくらい大事な友達です。
エンタメで子どもの世界に飛び込む

▲幼稚園や保育園、商業施設などに出向き、キャラクターを使ったプログラムやワークショップを披露する。
—— Q. なぜ、子ども向けのエンターテインメントにしたのでしょうか。
母親が保育士だったこともあり、私も高校で保育の勉強をしたのですが、実習で挫折しました。子どもは好きですが、声が大きい、予測できない動き、けがをさせられない責任感……。かわいいだけでは続けられない仕事だと気付き、保育士を目指すのは辞めました。
でも、私には子どもの気持ちがよくわかります。私は将来、自分が大人になるなんて考えられなかったし、未だに飲み会より「みんなで鬼ごっこや、シール交換する方が楽しそう」と思う自分なんです。大人になると遊びが変化してしまい、とてもつまらない気持ちになります。
大人になることへの拒否感が強く、自分の特徴がはっきりしていたので一般就職は考えられませんでした。
なら、教育とはべつの形で子どもに携わろうと。パフォーマーの仕事を生かすために、「子ども×アート×エンターテインメント」の事業を始めました。大学卒業後、一年ほどして、わくわく製造舎よいこらんどを立ち上げています。
—— Q. 子どもたちに向けた絵本を制作したそうですが、どんな絵本を作りましたか。
一年前に子ども向けの、障がい特性を知る啓発絵本を制作しました。
コロナ禍でイベントができなかった時期に、ベビーシッターの仕事を増やした時があり、色々な特性を持つ子どもたちと出会いました。私も23歳で発達障がいの検査を受け、自分の障がいについて知りました。
障がいがある子もない子も、同じ世界で生きていきます。子どもたちには、自分とは少し違う人がいても、受け入れる気持ちや偏見を持たずに成長してほしいと思いました。そこで啓発絵本のアイデアが浮かび、一人で作り始めました。
絵本のストーリーには、子どもたちに親しみやすい動物キャラクターが登場します。印刷から発送まで行い、クラウドファンディングやnoteを更新していたら賛同してくださる方々がいて、ありがたいことに200冊作った絵本はあっという間に完売しました。

▲触覚過敏のうさぎ、聴覚過敏のこあらなど、さまざまな特性を動物の個性として描いた啓発絵本のキャラクターたち。
—— Q. 現在の活動、運営はどのように行っていますか。
当社のテーマは「子どもにハートフルなエンタメを届ける」。具体的には、全国の幼稚園、保育園、商業施設やテーマパークなどに出向いて、さまざまな素材や画材に触れられるワークショップや、着ぐるみキャラクターを用いて、アート要素を盛り込んだプログラムを披露しています。企画・運営、キャスティングも依頼があれば、全国どこでも積極的にお引き受けしています。
私は個人で運営しているので、イベント毎に出演する仲間やスタッフに業務委託でお願いしています。あと、事務作業は苦手なので会計・税務は知り合いに頼み、私は現場の運営に集中します。
他にも、全国のテーマパークでパフォーマーのシーズン契約を行い、演技やダンスに取り組んでいます。その間に、よいこらんどのイベント依頼を受ければ、場所を選ばずどこにでも行きます。
—— Q. 仕事で障がいによる特性を感じることはありますか。
私はアドリブが得意なタイプで、思ったことをそのまま口に出してしまうのですが、それがステージ上だといい具合にゲストに届いて、笑ってもらうことがあるなと思います。たまにNGワードを言ってしまうこともありますが(笑)。
あとアルバイト時代は、時間の逆算が難しくて遅刻や無断欠勤をしていたことがありました。
でも今は、一緒に働く人たちや環境が自分に合っているので「この人たちと長く一緒に働くためには、迷惑をかけたくない」と無遅刻無欠席です。
他のパフォーマーが欠席した際には「すがちゃん、お願い!」と周りから頼られるようになりました。
子どもの時に音が敏感だったと話しましたが、いまでも爆音スピーカーがきついと感じてしまい、仕事が終わると気持ち悪くなってしまうことがあります。でもそれ以上に、仕事が楽しい気持ちが勝って耐えられます。
—— Q. 印象に残っている子どもや家族の反応はいかがですか。
パフォーマンスをして思うのは、子どもたちの中でも積極的に前に出てくる子もいれば、お母さんの影に隠れながら喜んでいる子もいて、楽しみ方はそれぞれなんだと感じます。
ある現場で、不登校だったお子さんが、私たちのショーを見続けるうちに「学校へ行けるようになった」という声をいただいたことがありました。感謝の思いが伝わってきて、とても嬉しかったです。
そのショー自体は特にメッセージ性の強いものではなく、明るいキャラクターが出てくるストーリーでもなかったのですが、その子はきっとショーの世界観に引き込まれて、心が動かされたのだと思います。パフォーマーとして、やりがいを感じた忘れられない瞬間でした。
エンタメを届けられない子どもたちへ

▲無償イベントでのフィンガーペインティング。「全身に描いていいよー!」と、すがさんのつなぎがそのままキャンバスになる。
—— Q. 貧困家庭にいる子どもたちのために、無償イベントを開催しているそうですが、どんな活動をされていますか。
都内のある団体と一緒に、貧困家庭やヤングケアラーの環境にいる子どもたちのためのイベントを始めました。まだ数回ですが、オリジナルショーとフィンガーペインティングを行っています。当日は汚れてもいいような恰好で来てもらい、絵の具を使って自由に絵を描いてもらいます。私はつなぎを着ているので「みんな、全身に描いていいよー!」って言って描いてもらいます。
私が直接子どもたちとつながるのは難しいので、集客は団体のスタッフにお願いしています。開催場所は、スポンサー企業の会議室をお借りすることもあれば、公園や別の施設を訪ねることもあります。今は複数の団体と話を進めていて、これからも提携先を広げていけたらと思っています。
きっかけは、以前チャリティサンタのボランティアに参加したことでした。サンタクロースの恰好をして子どもたちに絵本を一冊プレゼントして、そこで9歳の子に絵本を手渡したら涙を流して喜んでくれ、「絵本をもらっただけで泣くの!?」と衝撃を受けました。
私は裕福な家庭とまではいかなくても、不自由のない生活を送ってきました。それがどんなに恵まれていたことか。そこで「体験格差」という言葉があることを知ったんです。
その後、子どもの貧困問題に取り組む団体を探して、一緒にできることがないか連絡をし、現在に至ります。
私自身は、無償での出演に抵抗はありません。ただ、共演する仲間はプロのパフォーマーで、ギャラが発生するだけの価値があります。
子どもたちに本物のパフォーマンスを届けるためには、しっかりと補修としてお支払いしたいのです。費用は私の自己負担ですが、資金調達が課題となっています。
—— Q. 10年後の自分はどうなっていると思いますか。
昔から、先のことを考えたことはありません。10年後は、生きているかもわからないけど、大人になりたくない気持ちは変わらないことは確かです。
いまは、大好きな環境で仕事ができていることがうれしいので、全国を巡りながら、できる限りこの生活が続けばいいなと思います。
編集後記
取材中、すがさんは活動について真剣に思いを語ったかと思えば、次の瞬間には小学生のような無邪気な発言をする。そのギャップに驚かされる場面が何度かありました。
子どもは純粋で、愛らしい存在。でも、同時に思ったことをそのまま口に出してしまう危うさを持っています。人を楽しませる力と、思ったことを率直に言いすぎて誰かを傷つけてしまう危うさ。その両方が、すがさんの中には同居しているように感じました。
簡単に整理できない気持ちになりながら、すがさんの魅力が多くの子どもたちを引き付け、アートとエンタメの楽しさが一人ひとりに届いてほしいと思う取材でした。
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ライター 飯塚まりな
フリーライター/イラストレーター 近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。
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