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【インタビュー】映画『パーフェクトワールド 君といる奇跡』岩田剛典×車椅子のモチーフ・阿部一雄 ~単なる感動物語ではない、車椅子の青年のリアルを描いた本作の舞台裏~

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ライター:Media116編集部

ただいま公開中の映画「パーフェクトワールド 君といる奇跡」は、車椅子に乗った身体障がい者の男性と、彼へ想いを寄せる健常者の女性との恋愛を描いた物語です。原作は、2014年から講談社「Kiss」で連載中の少女漫画「パーフェクトワールド」。実在する車椅子の建築士をモチーフに、作者の有賀リエさんによる徹底した取材のもと、身体に障がいをもつ人のリアルな日常や恋愛をすることの難しさ、周囲の人たちとの関係性などが繊細に描かれています。コミックスは世界10カ国で翻訳出版され、国内外で高い評価を得ている話題作でもあります。

今回の映画化の主演は、EXILE/三代目J soul Brothersのパフォーマーであり、役者としても活躍中の岩田剛典さん。ヒロインは若手演技派女優として注目を集める杉咲 花さんが務めています。話題性だけではなく、観た人の心に残る作品としても高く評価されており、「映画ランド注目映画ランキング1位」とユーザーレビューでは4.8点/5点を獲得。「ぴあ映画初日満足度( 10月6日ぴあ調べ )」でも第1位という快挙を果たしています。10月24日には大ヒット記念舞台挨拶が「ユナイテッド・シネマ豊洲」にて行われ、主演の岩田さん、杉咲さん、原作者の有賀リエ先生、主人公のモチーフとなった車椅子の建築士・阿部一雄さんが登場し、トークセッションを行いました。

主演の岩田さん、杉咲さん、原作者の有賀リエ先生、主人公のモチーフとなった車椅子の建築士・阿部一雄さんによる舞台挨拶の様子

このたび「Media116」では、舞台挨拶後の岩田さんと阿部さんのお二人に単独インタビューを敢行。この作品が単なるラブストーリーではなく、障がい者の日常をリアルに描いた作品として成立させるため、どのような努力や工夫があったのか、その舞台裏について話をうかがいました。

【映画のあらすじ】
川奈つぐみは、インテリアコーディネーターとして働く24歳。ある日、取引先である建築設計事務所との飲み会で、高校時代の憧れだった先輩・鮎川樹(あゆかわいつき)と偶然の再会を果たす。つぐみは、樹が高校生の頃からの夢を叶えて一級建築士となっていることを知るのと同時に、彼が大学時代の交通事故によって車椅子生活を送っている姿も目の当たりにする。そんな中、つぐみは再び樹への想いを募らせ、彼を支えたいと思うようになる。それに対して樹は、一生ひとりで生きて行くことを固く決意していた…。

映画に映し出されない部分に、役作りの大切な軸がある。

岩田剛典さんの取材の様子


Q:岩田さんはこの作品で初めて、身体に障がいのある役を演じていらっしゃいます。全編車椅子での撮影はいかがでしたか?

岩田さん:一番気をつけたのは車椅子ユーザーの方ならではの姿勢や目線です。そこは、作品として一番嘘をついていけない部分だと思ったので、スタッフのみなさんと何度も確認しながら丁寧に撮影していきました。映画の中ではそこまで描かれないことでも、演技の軸となる樹というキャラクターの肉付けに必要だと思うことは、いろいろさせていただきました。車椅子の使い方を監修の本多正敏さんから細かく教えていただいたり、車椅子バスケチームの練習に混ぜてもらって、実際のメニューを一緒にさせていただいたりもしました。実は、車椅子バスケのシーンはとても大変でした。やはり、腕だけの力でボールを投げてゴールに入れるのは相当難しいことですし、実際に競技をしている方たちと一緒に撮影をさせていただいたので、ついていくのに必死でしたね。車椅子バスケという競技をされている方たちに対する見方も変わりました。全体を通して、人として学ぶ部分もたくさんあったと思います。


Q:この作品に出演されたことで、周囲の反応はどうでしたか?

岩田さん:実は学生時代の同期から、この作品を「観たよ」と連絡を受けたんです。彼は大学時代に打ち込んでいたラグビーで脊髄を損傷し、今は車椅子の生活をしている人。何年ぶりかに連絡をもらったのですが「この映画が公開されて嬉しい」と。車椅子やバリアフリーについて、若い世代をはじめ、いろんな人たちに知ってもらえる機会となる作品に、僕が関わっていることが嬉しいと言ってくれたんです。もちろん、この映画を観ただけで身体に障がいのある人の全てを理解できる訳ではありません。でもこの映画を通して、これまで何も知らなかった人たちに少しでも届けることができて、それを車椅子ユーザーの当事者である友人が喜んでくれて、自分の携わった仕事で少しでも力になれたと実感できたことが嬉しかったです。

岩田剛典さんの取材の様子


Q:身体に障がいを持つ人物を演じたことで、岩田さんご自身にとって何か変化はありましたか?

岩田さん:これまでは日々生活をする中で、身体に障がいのある方たちを身近に感じる機会というのは、それほど多くはありませんでした。役者として演じるという、あくまで疑似体験をしたにすぎないのですが、それでも自分でびっくりするくらい、車椅子用の設備や点字の表示などに目が行くようになりましたね。EXILE/三代目J soul Brothersのコンサート会場にも障がい者の方たち専用席がありますが、「あそこだな。ちゃんと見えてるかな?」と、より意識するようになりましたし、街中で障がい者の方を見かけると、すごく身近に感じるようになりました。


Q:岩田さんと阿部さんは撮影前に実際にお会いになって、どのようなことをお話されましたか? 阿部さんは岩田さんに対して、どのような印象を受けましたか?

岩田さん:阿部さんには「岩田さんらしく演じてください」と言われて、その一言に背中を押されたというか、とても勇気付けられました。阿部さんの過去のインタビュー記事に目を通し、阿部さんがどのような思いでこれまで活動されてきたのかを予習していましたが、実際に阿部さんとお話しさせていただいたことで、演じる上で軸となる樹というキャラクターへの肉付けができたと思います。

阿部さん:音楽のパフォーマーと役者という二足のわらじで忙しい中、岩田さんは車椅子の所作はもちろんですが、実際に車椅子バスケをしているチームの中に入って練習をするなど、映画では描かれない部分であっても、時間を作って役作りに取り組む姿勢が素晴らしいと思いました。また、この作品では障がい者の抱える問題、例えば排泄障害のことなども描かれています。そういった、自分だけではどうにもできない現実があることや、一生一人で生きていくと決意しながらも、つぐみとの出会いによって心が動かされていく樹の心情が、見えない部分にまで役作りをしていただいたことで、観る人に伝わってくる作品になっていると感じます。障がい者を扱う映像作品は過去にも多くありましたが、いつも描かれ方が表面的で物足りないと思っていたんです。岩田さんには、そこを埋めていただけたと感謝しています。

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岩田さん:観覧車の中で、樹がつぐみに別れを切り出すシーンがありましたが、あのシーンは心情の表現が難しかったですね。つぐみのことを想っていても、彼女の父親から「娘と別れてほしい」と懇願されたことで自分の無力さを思い知り、あきらめや悔しさといったものを抱えている樹が、それらの感情を押し殺して彼女に語りかけるという。観覧車が使える時間も限られていたので、そのようなプレッシャーもありながら、何度も何度もテイクを重ねました。

単なるきれいな感動物語ではない、障がい者や家族の心をリアルに描く。

Q:阿部さんは、ご自身がモチーフとなった漫画がさらに映画化されると聞いて、どのように思われましたか?

阿部さん:原作漫画のときは「車椅子の建築士を主人公にするなんて、本当に漫画になるのだろうか?」と思ったんですよ。それが映画化までされると聞いて、驚きましたね。漫画化のときから作り手の方たちにお伝えしてきたことは「リアル感を大切にしてほしい」ということ。これまでの車椅子ユーザーが出てくる作品には物足りなさを感じていたので。その点、有賀リエ先生の漫画では登場人物の表情などにリアル感があって、それらが映画の中でもしっかり描かれていました。岩田さんと言えば、ファンの方たちが「ガンちゃんスマイル」と呼ぶ素敵な笑顔が印象的ですが、そんな笑顔の中にも見え隠れする影の部分も、とてもよく表現されていたと思います。


Q:車椅子ユーザーの当事者として、阿部さんが特に好感を持ったのはどのシーンですか?

阿部さん:樹の車椅子をつぐみが押すシーンですね。ハンドリムを回す岩田さんの腕の使い方と上半身の角度、杉咲さんが車椅子を押す所作など、とてもリアルで感心しました。それと、これまで4回この映画を観ていますが、毎回泣けちゃうのがラストシーンで、つぐみが樹からの手紙を読むところ。杉咲さんは演技にリアル感を出すため、本番で初めて手紙を読んだと聞きました。

岩田さんと阿部さんのお二人に単独インタビュー


Q:阿部さんが過去の障がい者を扱う作品に感じていたように、当事者がこの映画を観ても「現実味に欠ける部分があったり、物足りなさを感じるのではないか?」と思っている方もいるかも知れません。そのような方たちに、同じ当事者としてどんなところを勧めたいですか?

阿部さん:主人公である本人たちだけではなく、その家族も描かれているところですね。樹の苦労を推し量りつつも、娘のことを思うと交際に反対せずにいられないつぐみの父親の心理とか。漫画では実際に自分が経験したことや話したことが、文字になって表現されることもすごいと思いましたが、それが映像化によって、さらに五感で感じられるものになっています。ぜひ、障がいを持つ当事者の方たちにも映画館で体感してほしいです。


Q:阿部さんは日頃、家づくりにおいて「心のバリアフリー」を大切にしているそうですが、当事者と家族や友人・恋人などが心のバリアを取り去るために、どのようなことを提案されているのでしょうか?

阿部さん:障がいを負ってしまうと、当人は周囲に申し訳ないという思いから、潜在的に遠慮や我慢をしてしまうものです。それが心のバリアとなってしまうんですね。でも家づくりの工夫によって、かなり改善できる部分があるんです。例えば車椅子ユーザーが自分で外に出られないような、玄関の段差や急なスロープをなくすとかね。そういった問題を一つずつ紐解くことで心のバリアを取り除いてから、設計に入るようにしているんです。

障がいを持つ当事者の心を代弁する映画として

Q:最後に、「Media116」読者の方たちへメッセージをお願いします。

岩田さんと阿部さんのお二人に単独インタビュー

阿部さん:原作者である有賀先生の「障がいは不便だけど不幸ではない」という言葉を、私も使わせていただいています。障がいがあっても普通に生きているし、きっと当事者の皆さんそれぞれが生きる価値を見出していると思うんです。人間は年老いると誰でも何かしら障がいを持つものです。その一方で、社会の中には障がいの有無を問わず、いろんな人たちが暮らしています。その人たちがみんなで支え合うノーマライゼーションの実現する社会を目指していきたいですね。日本では地下鉄に乗ると周囲の視線を感じますが、ヨーロッパに行くと全く視線を感じないんですよ。そういう意味でも日本の社会はまだまだ成熟していない。だから障がいのある当事者も、できる範囲でいいから自分にできる社会貢献をすることが大切です。積極的に社会に飛び込んでほしいと思っています。

岩田さん:僕が今回演じた鮎川樹という人物は、障がい者の皆さんの気持ちを、ある意味代弁している存在だと思っています。きっとこの作品は、観てくださった方たちに、障がいについてもっと身近に感じてもらうという意義もあるはずです。リハビリ中だったり、日々の生活で不便を感じている方もいるかもしれないけれど、そういう方たちの声を少しでも多くの人に届ける役目があると思って取り組ませていただきました。「Media116」の読者の皆さんが、周りの人にお勧めできるような作品であってほしいと願っています。


今回のインタビューを通して、車椅子ユーザーという難しい役柄に体当たりで挑戦した岩田さんの、役作りに対する真摯な取り組みがあったことを知りました。また、阿部さんが当事者の一人としてこの作品を応援し、もっと多くの当事者の人たちにこの作品を観て欲しいと思っていると感じました。主人公の樹は身体に不自由があっても、一人の普通の若者として生き、周りに助けられながらも少しずつ前へ進もうと、現実を受け止め希望を見出していきます。この映画は障がいを知らない人たちへ障がいの認知を広めるのはもちろんのこと、今を悩む当事者の方々も前向きな気持ちにさせてくれる、そんなきっかけになる映画だと思いました。

■映画「パーフェクトワールド 君といる奇跡」公式サイト

■上映劇場一覧

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ライター Media116編集部

障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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