発達障害児の保護者を支援。地域の情報共有ツール【yori-iマップ】|株式会社yori-i・代表取締役 石井堯之さん
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ライター:aki
発達障害の子どもを育てていると、日常の外出で不安を感じたり、事前に情報がなかったことでつらい経験をしたり……そんな方もいるのではないでしょうか。
株式会社yori-iでは、発達障害の子どもを育てる保護者の方への情報支援を目的とした、「yori-iマップ(ヨリアイ・マップ)」というサービスの正式リリースに向けて現在準備をしています。
「yori-iマップ」は、会員登録制の「おすすめスポット」共有マップサービスです。登録した会員は、発達障害の子どもとの外出の「おすすめスポット」を、登録することも閲覧することも可能です。
代表取締役の石井堯之(いしい・たかし)さんに、サービス内容や開発の背景などをうかがいました。
子育ての中で情報不足を体感
▲株式会社yori-i・代表取締役 石井堯之さん(写真提供:株式会社yori-i)
「こんないいものがあるのに、どうして今まで情報を得られなかったんだろう」
石井さんの2人のお子さんは発達障害で、民間の療育施設に通っていました。そこで偶然「ペアレントトレーニング(※1)」の案内をされて受けてみることにした石井さん。実際に受講してみたところ「とても良かった」といいます。
「自分の考え方が180度変わるような体験で、子育て中の同じ出来事でも見え方が大きく変わりました。
私は、その療育施設で案内されるまで、“ペアレントトレーニング”がどんなものなのか、よく知りませんでした。必要な人に情報が届いていないのではないか……という仮説につながりました」
また、同世代の子どもがいる知人や友人と話している中で、割り切れない気持ちを感じる場面もありました。発達障害の子どもとの生活を円滑に回すために、ときにやむを得ず選択しているやり方を理解してもらいにくいのです。
「例えば、どういう場面で子どもに動画を見せるか……。発達障害の子どもがいると、一般的には好ましくない場面で、やむを得ず見せている場合もあります。ただ、相手によっては理解してもらいにくいというモヤモヤがありました。
そんな日常の積み重ねから、同じようなタイプの子どもを育てている保護者同士で、もっと情報を共有しあって、地域社会がより暮らしやすくなったらいいな……と考えるようになりました」
※1:ペアレントトレーニングとは
1960年代からアメリカで発展してきた心理教育的アプローチです。親が子どもへの関わり方を変えることで、子どもの適切な行動を増やして不適切な行動を改善し、子どもの健やかな成長発達を促進することを目的としています。親の養育スキルの向上やストレス低減にもつながる等の効果が確認されています。
参考:発達障害支援における ペアレント・トレーニング はじめの一歩(厚生労働省)
大学院のビジネススクールで学びながら起業を目指す
「子どもに対する行政や民間のサービス・事業は増えていて選択肢もある。その一方で、保護者向けの支援が少ないのではないか」
発達障害の子どもを育てている中で、石井さんはこの課題をビジネスの力で解決するべく起業を考えるようになりました。
「自分の感じている課題は、本当にニーズがあるのか大学院の研究で調査をしました。すると、保護者支援を必要だと感じている当事者は多いのに、実際に利用している人は少ないというアンケート結果が出ました」
さらに、どんな保護者向けサービスを利用してみたいかを調査したところ、1位はカウンセリング、2位はレスパイトケア(※2)、3位は情報だったと言います。
「カウンセリングやレスパイトケアは、物理的な“場”も必要で、専門性や資格が大事な分野です。自分では難しいと考えました。でも、“情報”なら解決策を事業として提供できるのではないかと思いました」
大学院では、この仮説をもとに現在のyori-iにつながる事業計画を立案しました。
※2:レスパイトケアとは
在宅でケアしている家族を癒やすため、一時的にケアを代替しリフレッシュを図ってもらう家族支援サービスのこと。在宅介護の場面で聞くことが多いが、障害児の在宅ケアの場面で保護者に対するサービスとしての需要もある。
参考:レスパイトケア – 一般社団法人日本医療・病院管理学会
yori-iマップで発達障害児の保護者同士、情報共有
▲取材の際は、実際に画面を操作しながら答えてくださいました。
yori-iマップは、発達障害の子どもを育てている保護者を対象としたマップサービスです。事前に登録した会員が、マップ上に「おすすめスポット」を登録したり、閲覧したりできます。
yori-iマップサービス説明の公式動画
登録できる「おすすめスポット」の選択肢は全部で13で、多岐にわたります。
子どもの教育や療育に関わる「療育施設」「習い事」。余暇活動に関係する「公園」「みずあそび」「すなあそび」「レジャー施設」「博物館・文化施設」「児童館」。日常生活で困りがちな「飲食店」「病院」「買い物」「美容院」。どれにも当てはまらない場合の「その他」も選択できます。
スポット登録時には、子どもの特性や興味も一緒に登録するようになっています。ユーザーが検索するときに、自分の子どもと似た特性の子どもの保護者の情報を探しやすくするためです。
5段階の星評価や、口コミ情報の自由記述、写真も登録できます。
「グルメ情報サイトや、アルバイト検索サイトをイメージしてもらえるといいかもしれません。エリアや条件、ジャンルなどで“おすすめスポット”の検索ができるイメージです」
将来的には、登録された情報にユーザー同士でコメントをつける機能も追加する計画です。
情報の共有に必要なのは心理的安全
実際に子育てをしていると、生活の中で困ることがあったり、理解されずに排除されたりという経験もしました。
「うちの子どもは一回歯医者さんを“出禁”になっています。その後、本人を落ち着かせる工夫をして診てもらえる歯医者さんに出会いました。保育園探しも上の子のときの情報や経験があったので、下の子の入園のときは、それほど困ることはなかった。
ただ、そうした口コミ情報は、小さいコミュニティの中でだけ共有されていて、必要な人がいつでも閲覧できるような場所にはなかったのです。
ほとんどの方は多数派の方からの厳しい視線や言葉を経験しているから、発信をするのに躊躇してしまうことも一因だと考えています」
それを解消するには心理的安全が必要だと考えた石井さんは、yori-iマップを会員登録制にしました。登録時には、子どもの特性や興味・関心などを答えることが必須となっています。
「診断書提出を求めるような厳密なものではありませんが、このワンクッションがあることで、“似た悩みを持っている人だけが閲覧できる場所”という心理的な安全につながると考えています」
会員の声を聞きながら、より良いサービスに
2025年4月30日から、「yori-iマップ」のプロトタイプ版をスタート。約20名のモニターが登録をしました。
「ただ、実は想定よりも稼働しているモニターが少なかったのです。そこで、使用していない方にも、使用していない理由などを含めて調査をしました。
ひとつわかったのは、現在モバイル対応ができていないことが使いやすさの課題になっていました。想定はしていたのですが、開発にはさらにもう一段階工数が発生するので、今後の課題です」
石井さんは、ユーザーの実際の声を丁寧に吸い上げて、今後のサービスの改善に活かして行きたいと考えています。
「これはまだ先の話ですが、ユーザーのインターフェースとして見える部分は“マップ”であることにこだわらなくてもいいのかもしれない……とも考えています。例えばGoogleマップの検索窓で“おしゃれなカフェ”と検索したら、今いる場所の周辺のおしゃれなカフェを生成AI(Gemini)が提案してくれますよね。そのような要素を加えていくことも、少し先にはなりますが、視野に入れています」
横浜・川崎地域で、まずは成功事例をつくりたい
▲明るい笑顔で取材に応じてくださいました。
「目指しているのは、環境を変えていくことで発達障害の子どもとその保護者が、より生きやすく暮らしやすい街が実現することです。障害は本人の内面に存在するものではなく、社会との間の生きづらさであると私は考えています。そのためには、焦らずに一歩ずつ……と思っています。
正式リリースに向けてまずはアンカー地域を決めて重点的に会員とおすすめスポットの登録数を増やしたいと考えています。私自身が横浜市在住なので、横浜・川崎エリアで会員と情報を増やしていきたいです。
ひとつのエリアで成功事例ができることで、自治体との連携や他の地域での展開につながる事を目指しています。
yori-iマップ”は、会員の皆さんと一緒に作っていくサービスです。少しでも気になった方は、無料ですのでぜひモニター登録してみてください」
yori-iマップのご登録はこちらから
株式会社yori-iの公式サイトは以下のリンクから
yori-i
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ライター aki
ASDの長男と、たぶん定型発達の夫と暮らしています。私自身は診断をうけていませんが、おもちゃを一直線に並べて遊ぶ子どもではあったらしいです。 Twitter: https://twitter.com/akiko_m_psy10
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