学生起業家による障がい者アートを発信 ~株式会社SigPArt 古川友稀さん~
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ライター:飯塚まりな
障がい者のアートに注目し、株式会社SigpArt(シグパラート)を設立した古川友稀さん(22)
2024年1月に起業し、アートレンタル業を開始。ビジネスコンテストで受賞歴を持つなど華々しい活躍を見せています。
そんな古川さんは現在、ベトナムに留学中の長崎県立大学経営学部4年生。なぜ、障がい者のアート作品に興味を持ったのか。リモート取材で話を伺いました。
就労B型の利用者が描く作品をレンタル
「障がい者のアートを世の中に広めたい」古川さんの純粋な思いは障がい者の経済面や精神的な支えになろうとしています。
病気や特性により自分の思いや感情を伝えることが苦手な人こそ、他の人には描けない表現ができるかもしれない。ビジネスに繋がっていく手立てはないのかと考え起業に踏み切りました。
作品を描くアーティストは就労継続支援B型に通所する利用者たち。就労継続支援B型とは、知的・精神障がいを持ち、雇用契約の就労が困難な成人が通う福祉サービス事業所のこと。古川さんは自ら営業を行い、シグパラートの取り組みに賛同してもらえる事業所に声をかけました。
レンタルするにはまずプランを選びます。サブスクと購入の2種類があり、レンタルは1万円から可能。個人や企業が気に入った作品を選び、額に入れて壁に飾ることやデジタルサイネージ(電子看板)を楽しめます。
レンタルされたアーティストには原価やコストを差し引いた金額をシグパラートと折半します。古川さんは関西大学政策創造学部4年生布袋沙羅さんとタッグを組み、二人で定期的に収入を得られる仕組み作りを行いアーティストと企業を繋ぐ架け橋になろうとしていました。
▲SigpArtがレンタルする作品の一例。動物や花、抽象画など、作家によって異なる個性的な表現が特徴
現在は3つの事業所と連携しアーティストたちが納品したオリジナル作品をストック。主に油絵、水彩画、デジタルアートなどを制作しています。一般的に親しみやすい動物や花などのモチーフが多く見られます。
アーティストに対して古川さんから要望を伝える際、言葉選びは慎重にわかりやすく伝わるよう意識しているとのこと。「とても素直な方が多いので誤解などがないように」と丁寧な対応を心がけ、彼らの感性から生み出される作品を毎回楽しみにしています。
ですが、障がい者のアートといっても作品のレベルはさまざま。大量に作品をストックしておけばいいというわけではありません。「レンタルするほど価値がある作品なのか」見極めが重要です。
古川さん自身、起業するまでは特にアートに関心がなかったとか。ですが最近はよく美術館に行きアートの良さを感じています。芸術とは何か、人が飾りたいと思わせる作品はどんなものか、多くの作品に触れて感性を磨いています。
障がい者は時給150円しかもらえない!?
古川さんは大阪府出身。男三人兄弟の末っ子として育ちました。高校3年生のときに見たニュースで「障がい者がもらう賃金が150円」という現状を知って衝撃を受けたといいます。
その後は受験勉強に励み、経営学と英語を学ぶため長崎県立大学に進学。入学後は周りの同級生たちとは違ったアルバイトがしたいと障がい者のグループホームで働き、洗濯や料理をしながら生活面のサポートをしました。
入居している障がい者たちと楽しくコミュニケーションを取るうちに、高校生のときに見たニュースを思い出します。
▲連携する就労継続支援B型事業所での制作風景。作家たちは好みの画材を使って自由に表現している
テレビのニュースで見たときと同様、彼らの工賃は低いものでした。事実を聞いた古川さんは「なぜ障がいがあるだけで、こんなにも安い金額で働いているのか」と疑問を持ち、障がい者に対する日本の福祉制度が気になるように。
調べる中で障がい者年金・生活保護・政府からの補助金を得ることで、彼らの生活が成り立っていることを知りました。そこでSDGsに関連した持続開発可能な取り組みができないかと模索しアートレンタルサービスの発想に繋がります。
一方、大学では起業サークル「FIRPEN」に入部。1年生で代表になり部員をまとめることは想像以上に気を揉みました。仲間と同じ方向を目指すにはどうしたらいいのか。当時、古川さんは実業家の父親に相談しアドバイスを受けたといいます。「父からは仲間に感謝することが一番大切だと。自分ができないことを補ってくれている部分もあるのだから人を大事にしなさいと励ましてくれました」代表になってもあぐらをかかずに物事を俯瞰して見ることを教わります。
尊敬している父親からの言葉を胸に、その後は県内で開催された起業体験イベントにサークルとして参加したり、障がい者アートをテーマにビジネスコンテストに出場したりとチャンスを掴もうとします。
コンテストでは企業側から厳しい助言をもらうこともあり、活動は常に山あり谷あり。「周りから言われたことは一旦自分の中に受け入れ、その中で挑戦を目指しました」と前向きに捉えサークルに2年間所属。その間、起業準備を進めようやく設立に漕ぎ着けたのでした。
ベトナムへ1年間留学
ですが現在はベトナムへ渡り、ハノイ国民経済大学の留学生になった古川さん。今年はシグパラートの事業も本格化させるため長崎県立大学は1年休学中。
なぜベトナムに行きたかったのかと尋ねると「最初は興味がなかった」とこれまた意外な発言。大学で、東南アジアビジネス研究室(大久保ゼミ)のゼミ生として、東南アジアについて1から学び、昨年度、佐世保市のクラウドファンディングのご支援の元、ゼミ生と恩師と共に実際に一度ベトナムでフィールドワークをしたことが決め手となったそうです。
留学先のベトナム・ハノイで。現地のアート事情やソーシャルビジネスについても研究中
留学の目的はSNSでの商売が強いベトナムで将来、自身の事業でソーシャルビジネスが活かせないかヒントを得たかったとか。「アートを売っている店も多く日本より芸術を身近に感じられるかも」と現地に馴染んでいる様子が伝わってきました。
ベトナムにいる間も「シグパラートで作品を出したい」と長崎から連絡が入り、オンラインで顔合わせするなど留学中もアートレンタル業は継続。「いいアーティストや作品に出会えるなら、就労B型にこだわらず障がいのある方に登録してほしい」と縛りを作らずに運営しています。
また、1970年代のベトナム戦争についても古川さんは関心が高く米軍の散布した枯葉剤の後遺症や障がいを患ったベトナム人に対して、国の制度がどうなっているのか調べてみたいと話していました。
誰かに歩み寄る仕事がしたい
古川さんは今後シグパラートの活動を全国に広げていくためには、より多くの人に障がい者の賃金や生活状況を知ってもらうことが大切だと考えています。
「僕はこれからも彼らに寄り添った事業でありたい。多くの方に関心を持ってもらうために障がい者のアート発信を続けていきます」。
アートやベトナムも興味がなかった古川さんですが、今は真剣に事業のテーマとして素直に向き合う姿が印象的でした。
学生の間にさまざまなことに触れて学ぼうとする強い意欲。アートレンタルだけでなく、この先も新たな事業を起こせないかと構想しているのが表情から感じ取れました。
「僕は自分の思いを口に出すことがとても大事だと実感しています。話すことで人と人が繋がり、面白い展開がたくさん起きるのでこれからもビジネスとして進めていきたいです」。
一年後に成長してベトナムから帰国する古川さんが、近い将来どんな人に出会ってシグパラートをブラッシュアップさせていくのか。今から期待が高まります。
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ライター 飯塚まりな
フリーライター/イラストレーター 近所の人から芸能人まで幅広いインタビューを行う。取材実績は300人以上。 フリーペーパーから始まり、現在はwebメディア、書籍、某タレントアプリなどで執筆。 介護・障がい者施設での勤務経験あり。「穏やかに暮らす」がここ数年のテーマ。
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