「脳卒中フェスティバル2024」レポート!当事者の可能性を発信し、働く楽しさを体感できるイベント
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ライター:かたおか由衣
脳卒中の経験者にも可能性は無限大にあるという想いで、2017年から始まった「脳卒中フェスティバル」(通称脳フェス)。自身も脳卒中経験者である、小林純也さん(理学療法士)を中心に始めたイベントです。2024年は「キャリアランド」をテーマに、楽しく就労体験をできるイベントとして開催。北海道から沖縄まで、同伴者を含めると1000名を超える来場者が訪れました。熱気あふれるイベントの様子をレポートします。
当事者たちが創り出す熱気が会場中に
2024年10月27日。錦糸町駅に降り立つと、会場であるすみだ産業会館のある錦糸町マルイまでの道には、車椅子の方、杖をついている方、ヘルプマークを下げている方々の姿が目に入ります。
▲マルイの入り口に設置された「脳フェスちゃんねぷた」。写真スポットとして人気を集めていました。
マルイの入り口には、ねぷた祭りで話題となった「脳フェスちゃんねぷた」があります。写真を撮る人の姿もちらほらと。8階のサンライズホールに到着すると、入場待ちの列には親子連れの姿も多数見られ、お祭りのようなわくわく感に包まれています。
会場には、avex、BOOKOFF、NEC、ePARAなど、多彩な企業がブースを出展しています。また、焼きそばや焼き鳥、ビールなどの屋台や、アパレル商品やお菓子などの物販が並び、ステージではダンスパフォーマンスを披露しています。
▲多くの来場者でにぎわう会場内。親子連れの姿も多く見られ、お祭りのような活気に包まれていました
今年のテーマは「キャリアランド」。
障がい者雇用の法定雇用率が2.5%に引き上げられたにも関わらず、約50%の企業で目標を達成できていない現実があります。2027年には2.7%への引き上げも予定され、ますます大きな課題に。被雇用者と、雇用主、双方が願っているのに、どうして雇用率は達成できないのでしょうか。
「キャリアランド」は、この課題に対して楽しくアプローチすべく、障がい当事者が職業体験できる出張型テーマパークとして企画されました。参加者は実際の業務を体験し、「キャリアランド通貨」を獲得。会場内で、リハビリ体験や商品・飲食物など様々なサービスや商品と交換できます。さらに、就労支援企業・団体による「復職なんでも相談所」も併設され、その場で相談できる体制も用意されています。
▲会場の様子
この取り組みには2つの狙いがあるといいます。障がい当事者には自己肯定感と自己効力感の向上を、企業には障がい者理解促進と採用可能性の発見を促すことです。
「キャリアランド」で広がる可能性
今回初出展のBOOKOFFのブースでは、3つの仕事体験が用意されていました。缶バッチを袋に詰める仕事、洋服にタグをつける仕事、本に値段シールを貼る仕事です。スタッフが来場者に丁寧に仕事の説明をしていました。
▲実際の業務を大検できるBOOKOFFブース。スタッフが丁寧に作業の説明を行っていました①
▲実際の業務を大検できるBOOKOFFブース。スタッフが丁寧に作業の説明を行っていました②
▲実際の業務を大検できるBOOKOFFブース。スタッフが丁寧に作業の説明を行っていました③
▲仕事を終えた参加者には、会場内で使えるキャリアランド通貨が渡されます。
▲右から2番目が戸部さん
ブックオフグループホールディングス株式会社の特例子会社・ビーアシスト株式会社の戸部尊之事業部長は、参加の意図をこう語ります。
「脳卒中の方の就労実績はまだなく、当事者の方についてまずは知りたいと思い参加しました。比較的取り組みやすい作業を用意しました。もし今後、実際に採用することになった場合にできることをシミュレーションしたいと期待しています」
▲avexのブース
エンタテインメントの大手、avexのブースでは、SNSでの情報発信の体験が行われていました。実際にパソコンの画面に、Xへの投稿文章を入力しています。参加した元整体師の方は、新たな発見があったといいます。
「整体の仕事をしていたときは患者さんとのやり取りでコミュニケーション力を培っていたのかなと気づきました。ただ、SNS投稿は、細やかな相談や投稿内容を自分で判断する必要があります。仕事としての難しさも感じました」
実際の仕事を体験することで、自身の強みと課題が見えてくる貴重な機会となっているようです。
▲株式会社RESTAのブース
ハロウィンの飾りをつけている企業担当者の方の近くを通ると、お菓子をいただきました。障がい者に特化したオンラインキャリアスクールを2023年より運営している、株式会社RESTAのブースです。
RESTAでは、業界初となる障がい者へオンラインでの就労支援プログラムを提供しています。実務サポートを含む研修とコーチングを提供し、多くの卒業生のキャリアアップを実現しているといいます。
代表取締役の松川力也さんは、14歳で脳内出血を発症し、左半身麻痺を持つ当事者。言語聴覚士として病院と就労支援の勤務経験を持ちます。スタッフの4割が障がい者当事者という同社は、医療スタッフ(作業療法士、理学療法士、言語聴覚士)も擁し、過半数は起業家や起業経験者。プロフェッショナルなチームメンバーが、就労をサポート。1日300〜500人もの利用登録があるといいます。
「働く」を語り合うトークショー
▲『働く』をテーマにしたトークセッション。NECの人事担当者や復職経験者から貴重な体験談が語られました
ステージでは「はたらく」をテーマにしたトークセッションが行われていました。NECからは、障がい者雇用に関する取り組みが紹介されました。「当社では障がい者雇用枠は設けていません。合理的配慮をしながら、障がいの有無に関係なく、能力や適性で採用を決めています」と人事担当者は語ります。
実際に復職を果たした社員の一人は、次のように話します。
「リハビリ病院を退院して半年ほど経ち、生活が安定してきたところで、いつ戻れるかについて初めて話しました。驚いたのは、一般の障がい者枠ではなく通常のNECのキャリア採用という形で受け入れていただいたこと。働きやすさという点でも、元の職場に戻れた形なので助かっています」
そのほかにも、業務を分解して分担すること、職場でのコミュニケーションの工夫など、具体的な体験談が語られます。
「できないことを頑張るより、できることを伸ばす方が大切」「上司との関係づくりは、まず自分の障がいについて理解してもらうところから」といった実践的なアドバイスに、来場者は聞き入っていました。
脳フェスのこれから
ここでは紹介しきれないほど、会場の至るところでさまざまな交流が生まれ、熱気にあふれていました。
脳フェスが手がける「キャリアランド」は、今後、全国で展開可能なイベントとして広がっていく予定です。障がい当事者と企業・就労支援事業所を繋ぐプラットフォームとして、いつかは障がいも健常もない、グラデーションな社会を作ることを目指しているのです。
このイベントのために全国各地から集まる脳卒中当事者の方を目の当たりにし、イベントの放つエネルギーを強く感じました。今後の広がりにも、大いに期待が持てそうです。
▲キャリアランド通貨でも交換できる商品の数々
▲片手で使いやすいバックパック。廃棄エアーバッグとシートベルトのアップサイクル品なんだとか。
▲ボッチャの体験コーナーもありました。
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ライター かたおか由衣
フリーライター。東京学芸大学卒業後、リゾート運営会社、専業主婦を経てライターに。教育、社会課題、エンタメなど幅広いジャンルにて執筆中。ホームスクールを選んだ子どもたちと過ごす日々の中で、さまざまなマイノリティの方と接する機会が増えている。
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