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帝国劇場から始める、観劇のアクセシビリティ~We Need Accessible Theatre!が求める新しい劇場~

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ライター:雁屋優(かりや ゆう)

TOP写真提供:「Change.org Japan」

2025年に帝国劇場の建て替えが予定されています。建て替えを機に障害のある人も観劇を楽しめるようなアクセシブルな劇場にしてほしいと「We Need Accessible Theatre!」は署名を集めています。帝国劇場から始める意味、現在の劇場のアクセシビリティの問題点、どんなアクセシビリティを望んでいるのかなど、山崎有紀子さん、相馬杜宇さん、廣川麻子さんに伺いました。

障害者の観劇を可能にするアクセシビリティ

障害があっても、観劇を楽しみたい。そのような願いを持って、舞台ファン、舞台関係者、手話通訳、文字通訳、音声ガイド制作者などが集まったグループ、We Need Accessible Theatre!は署名活動をしています。「アクセシビリティ」とGoogleで検索すると、webサイトのアクセシビリティの解説がたくさん出てきます。障害者にとってアクセシブルな劇場とはどのようなものなのでしょうか。

エレベーターがなく、階段しかないため、車いすでは観劇できない劇場がある。車いす席は用意されているものの、舞台の一部が見えにくくなっており、十分に観劇を楽しむことができない。チケットサイトのwebアクセシビリティが充実していないために、視覚障害者がチケットを申し込むのに苦労する。舞台手話通訳や字幕、音声ガイドがなく、情報量が本来より少なくなってしまい、せっかくの公演を味わいきれない。

このような問題が全国各地の劇場で起きています。2024年春から民間でも合理的配慮が義務化されたため、障害者から要望があった場合には事業者は対話に応じ、可能な対応を模索しなければいけないのです。しかし、現実には、「うちの劇場にはそういった設備がないので無理です」と断られて代替案の提示もなく、観劇を諦めるケースが多いのです。

今回インタビューに応じてくださった(左から)山崎有紀子さん、相馬杜宇さん、廣川麻子さん
今回インタビューに応じてくださった(左から)山崎有紀子さん、相馬杜宇さん、廣川麻子さん

「国の予算や専門性のある職員の少ないことにも問題があります」と山崎さんは指摘します。コロナ禍で不要不急とされ制限されたもののなかに観劇などの文化芸術があります。日本は元々文化芸術への予算が少ない国ですが、障害者の文化芸術に関する支援はより手薄になっています。

アクセシビリティを帝国劇場から全国へ

今回、山崎さんたちがアクセシブルな劇場になってほしいと願っている帝国劇場とは、どのような立ち位置の劇場なのでしょうか。観劇を楽しむ人々からは「帝劇」と呼ばれて親しまれ、俳優にとっても観客にとってもここでの出演や観劇は特別な意味を持つ、日本初の西洋式劇場です。設立当時からミュージカル、演劇など多くの公演が行われています。特別な時間を過ごす、憧れの劇場なのです。

また、障害者、特に障壁を感じている人々にとっては、帝国劇場はとてもアクセスがいいのです。駅から劇場の地下2階が直結しているため、移動に困難を抱えている人であっても他の劇場よりは比較的容易に辿りつけます。そういった事情もあり、帝国劇場のアクセシビリティに関心を寄せる障害者は少なくありません。

片麻痺の当事者で、一時は車椅子を利用したこともある相馬杜宇さんは、帝国劇場での観劇の際、座高が低く座りづらい補助席に案内されてしまいました。「単に席を埋めればいいと思っているのか、障害者への配慮がなく、冷たい劇場だと感じました」と現在の帝国劇場での観劇経験を振り返ります。その後に、劇場側が障害当事者の意見を聞くことに積極的ではないと知ったことも、相馬さん含め、舞台ファンの当事者達には到底納得できるものではありませんでした。

日本全国にさまざまな劇場があり、アクセシビリティの充実度合いも劇場によります。少ない予算でできることをしようと懸命に動いている劇場もありますが、現状は劇場を運営する側の「意識の高さ」にアクセシビリティが左右されてしまっています。

障害者の生活は、生活に関する介助を受けることや通院、労働だけで成り立っているわけではありません。障害のない人と同じように、観劇をはじめとした文化芸術を楽しむことも軽視してはなりません。

そんななか、「観劇が好きな人なら誰もが知っている憧れの帝国劇場がアクセシブルな劇場に生まれ変わってくれたなら、日本中の劇場に良い影響をもたらし、誰もが劇場で感動を共有できるようになると考えています」と山崎さんは帝国劇場のアクセシビリティの充実がもたらす意味を強調します。2025年の建て替えはそのための大切な機会なのです。

アクセシブルな劇場の実現に向けて

舞台芸術に関わる人々が集まったWe Need Accessible Theatre!は、署名活動で以下のことを求めています。帝国劇場を運営する東宝株式会社に対しては、観劇経験のある障害者の声を取り入れて、帝国劇場をアクセシブルな劇場に建て替えること、国に対しては劇場のアクセシビリティに関する法令の整備と観劇サポートのための費用などの助成や支援の増強を要望しています。

署名活動の様子(盛山大臣との対話)
署名活動の様子(盛山大臣との対話)
提供:「Change.org Japan」

現在も観劇サポートを行っている劇場はあるのですが、人材育成が追いつかない、観劇サポートの専門性を持つ方に十分な報酬が支払えないなどの問題を抱えています。そのため、観劇のアクセシビリティを意識している劇場やアクセシビリティを実現する予算を持っている劇場でしか実現しないものとなってしまっています。アクセシブルな劇場を実現するためには、劇場や運営者の努力のみでは、予算、人材育成などの面で限界があります。

専門性のある職員に十分な報酬を支払い、観劇サポートが可能な人を育成し、また、必要な設備を作っていく。そのためには国が法令を作り、予算をつけ、全国各地の劇場、ひいては障害者が文化芸術を楽しむことを強く支援する必要があります。帝国劇場の建て替えに際し、アクセシブルな劇場を求める署名は、その第一歩となるでしょう。

最後に、山崎さんは「劇場で舞台を観て、あの感動を味わい、特別な時間を過ごすことが誰にでも当たり前にできる。大好きな帝国劇場が、そのようにみんなに開かれた劇場であってほしいです」とこの活動への強い思いを語りました。

NPO法人シアター・アクセシビリティ・ネットワークで理事長をつとめる廣川麻子さんは、「多様な方々が劇場に訪れ、一緒に同じ作品を観ることで、社会にはいろいろな人々がいると実感し、また作品の解釈もより多様になり深まっていくのではないでしょうか」とアクセシブルな劇場のある未来への期待を言葉にしてくれました。

観劇をはじめ文化芸術にふれることは、本来誰にでも保障されるべき人権です。帝国劇場の建て替えを機に、多様な人々が文化芸術に携われる環境を作っていくため、We Need Accessible Theatre!は活動を続けています。

アクセシブルな帝国劇場を求めるオンライン署名はこちらから署名できます。賛同・拡散のご協力、お願いします。

劇場をアクセシブルに 鑑賞に障害がある人もない人も一緒に楽しめる劇場を作ってください!!

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ライター 雁屋優(かりや ゆう)

1995年生まれ。ライター。アルビノによる弱視と、発達障害を併せ持つセクシュアルマイノリティ。大学では生物学を専攻。自身のマイノリティ性からマイノリティに関することに関心を持つようになる。その他、科学や医療に関する理系記事も執筆している。

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