「感覚過敏の方が楽しめるように」さいたま水族館が試行したクワイエットアワーとは?
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ライター:中たんぺい
感覚過敏の人たちが安心して楽しめるように、ある一定の時間で施設の光や音を小さくする「クワイエットアワー」が日本でも広まりつつあります。
2022年6月には、埼玉県でもはじめてのクワイエットアワーが行われました。実施した施設は、さいたま水族館。今回の試行を元に、今後の導入に向けて検討を進めていくそうです。
それでは、さいたま水族館で行われたクワイエットアワーは、どのようなものだったのでしょうか?話を伺いました。
感覚過敏のある子ども13名を休館日に招待
▲今回話を伺ったさいたま水族で館管理運営課長を務める川村幸恵さん(写真左)と飼育課課長の藤嶋 浩義さん(写真右)
さいたま水族館では、休館日を利用してクワイエットアワーを試行しました。招待したのは、感覚過敏のある子ども13名とその介助をする大人14名です。
「さいたま水族館では、休館日を利用して、クワイエットアワーを行いました。休館日に行った理由は、一般のお客さんが入らない日であれば、感覚過敏のある人向けに施設を変えられるからです。他の自治体でもレジャー施設の実績があるのも大きかったですね。豊橋市では動物園、高知県では水族館でのクワイエットアワーの取り組みをしていて、さいたま水族館のトライでも参考にさせていただきました。多様性の時代でもありますし、色んな方の共生を目指していきたいです」
今回の取り組みにあたって、感覚過敏の研修を受けて、クワイエットアワーの準備をしたと言います。
「作業療法士さんから感覚過敏とはどういうものかという研修を受けました。また、実際の準備も一緒にやりました。クワイエットアワーは、わたし達もはじめての試みです。手探りで不安でしたが、行えてよかったです」
研修からスタートしたさいたま水族館のクワイエットアワー。それでは、具体的にどのように水族館で実施していったのでしょうか。
「全体で光を約4割削減」ディスプレイなどは消灯
▲ディスプレイを消し、最低限の照明だけ残した
水族館は、明かりや音が少なく、もともと落ち着いた雰囲気。今回の試行では、鑑賞に必要な光と音だけを残したことで、さらに静かになりました。
「まず、入口にあるスポットライトを消灯。次に、間接照明が多いので、消したり、角度を変えたりして、光が目に直接入らないように調整しました。また、動画で開設するモニターディスプレイは、光と動きで刺激が強いということで停止しました。残したのは、解説看板の光です。解説が見えなくなると楽しさがなくなります。全体としては4割程度の光量削減になりました
音に関しては、いつも流しているBGMを止めました。また、自動販売機のコンプレッサーや人を感知して流れる音も消しましたね。入口脇にあるフォトブースは、音だけを消せないため、電源を落としました。静かで過ごしやすかったと感想をもらっています」
感覚は人それぞれ。不快に感じるか、我慢できないかは一人ひとり異なります。今回ははじめての試行でした。データもなく、どこまでが不快で、どこまでが気にならないのか、境界がわかりません。今回は、念には念を押して、感覚過敏の強い子どもを想定しました。
▲クワイエットアワーの試行のために作られた館内MAP。館内のエリアごとに番号を付けて先を予測しやすいようにした。
しかし、それでも光や音で疲れる子どもがいるかもしれません。その場合でも水族館を楽しめるように、さいたま水族館では2つのことを行いました。
ひとつは、イヤーマフとサングラスの準備。館内の音や光が強いと感じた場合に、個別につけて使用します。こちらに関しては、使用する人がいませんでした。
もうひとつが、カームダウンルームの設置です。感情やストレスが高まり、疲れた子どもが休めるように館内に2ヶ所設けました。こちらの利用者は1組です。
▲カームダウンルーム
さいたま水族館で考えられる準備をした結果、参加した子どもと保護者から「安心して楽しめた」という声が多く上がりました。ただ、水族館としての運営を考えた時に、今後に向けての検討課題も見えてきました。
「大人の意見も聞く必要がある」不快さと楽しみのバランスの両立が課題
▲魚と写真を撮れる水槽。水槽の電源をオフにし、スポットライトの角度を調整した
今後の検討の課題として大きいのが、モニターの利用です。水族館は、魚を際立たせるために、照明やモニターでの演出を行います。子どもからも人気のあるプログラムです。
さいたま水族館でもモニターでの演出を増やそうと検討していました。ただ、今後もクワイエットアワーを実施するのであれば、感覚過敏の人にも楽しんでもらえる設備を検討する必要があります。
「水族館では、モニターをうまく使って、魚についての情報をお届けすることが増えています。ただ、クワイエットアワーのような取り組みがあることを知ったので、今後は、設備面も含めてしっかり考える必要があると感じました。例えば、光量を調節できるような設備があるといいのかなと思います」
感覚過敏は、人によって特性が異なります。どの程度の光量にすればいいかの把握は容易ではありません。そのため、施設としては、もっと多くの意見を聞いていきたいと考えています。
「今回、来ていただいたのは4~6歳の子どもでした。自分の感覚を言葉にするのは簡単ではありませんよね。言葉にできる大人の感覚過敏のある方にも話を聞いてくのが重要かと思います」
「大丈夫という経験を増やしていければ」試行をもとに検討を進めたい
はじめてクワイエットアワーを実施したさいたま水族館。まだ試行の段階ではありますが、今回の結果には手応えを感じていると言います。
「施設としては、今回の取り組みで大きな効果はあったと感じています。感覚過敏のある子どもの「こういう場所だったら大丈夫なんだ」という経験を増やしていけたらうれしいです。今回の試行を踏まえて、クワイエットアワーの検討を重ねていきたいですね」
クワイエットアワーの取り組みはまだまだ始まったばかり。快適さと楽しみを提供するにはまだまだ検討が必要になります。将来的なクワイエットアワーの導入に期待です。
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ライター 中たんぺい
フリーライター。障害、メンタルヘルス、テック、キャリアなどのジャンルで記事を執筆。読んだ人の居場所になれるような文章を目指して、日々の取材に臨んでいます。群馬在住、ADHDの当事者。
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