一つじゃない 第5回
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ライター:風来坊
パスカルは「人間は考える葦」と言ったそうです。
パスカルの時代の葦は雑草だったので「人間は考える葦」は「人間は考えなければ雑草と同じ」と言い換えることができ、考えることの大切さをパスカルは伝えたかったようです。
しかし、一昔前に「葦は水質浄化効果がある」とされ評価が変わりました。
ところが近年では葦の水質浄化能力は低く、むしろ枯れた葦は環境に悪いと言われるようになっています。
モノの見方は一つじゃない。
現実逃避も一つじゃない
「現実逃避」と言う言葉を聞くと「大切なことから逃げている負け犬」とその意味を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし、私の手元の広辞苑(第7版)には「現実逃避」という言葉の記載はありません。
気になったので広辞林(第5版)でも調べてみましたが、やはり「現実逃避」という言葉はありませんでした。
代わりに「逃避」という言葉の使用例には「現実から逃避する」という記載がありましたが、「逃避」の意味は「困難・窮地から逃げて避けること(広辞苑第7版)」であり、そこにネガティブな意味は見当たりませんでした。
単純に「現実」と「逃避」の言葉を連結させるとしたら、その意味は「現実」の意味である「現に事実としてあること(広辞苑第7版)」と「困難・窮地から逃げて避けること」を合わせるわけですから「現に事実としてある困難・窮地から逃げて避けること」になります。…どうでしょうか。
「現実逃避」が「危険を回避する」という意味だと分かれば「現実逃避」という言葉が悪い言葉ではないと思えないでしょうか。
「逃げずに困難と戦え」と根性論を持ち出す人もいますが、精神障がい者には他者が裸足で逃げ出すような困難に逃げずに立ち向かったことにより脳に負荷が掛かり発症した人もいるので、私は無闇矢鱈に「逃げずに困難と戦え」という主張は間違っていると声を大にして言いたいです。
だって、動物園から象が逃げ出したとして、その象が突進してきたら逃げずに戦えますか?
若しかしたら、精神障がい者は「大きな困難と戦い傷付き今は休んでいる勇者」なのかも知れませんね。
風来坊の現実逃避も一つじゃない
「認知行動療法」という言葉を聞いたことがありますか。
今回は「考え方の癖を見つけて改善する技」だと考えてください。
例えば、自分に非がないのに自分を責めて落ち込んでしまう人に「あなたは悪くないんだよ」と分かってもらいたい時に役に立つ技です。
私はこれを自分が使いやすいように改造してみました。
じっとしていると「嫌なことが頭の中を占めてしまう」という自身の考え方の癖を改善するためにじっとしないことにしました。
もう少し説明すると「嫌なことが頭に思い浮かばないようにひたすら体を動かし脳に考える時間を与えない」というものです。
体を動かすと言っても、私は利き手が不自由なので激しい運動は難しいので、レジン細工、ニードルフェルト、プラモデル等を作って手を動かすようにしました。
そうです。
「現実逃避」をすることにしたのです。
だって、どう考えても私の指が動くことはもうありませんし、それまでの辛い日々を消すこともできません。
だったら少しでも今ある苦痛を和らげたいと考えたのです。
嫌なことに捕らわれそうになったら何かを作る…これを繰り返していたら落ち込む時間が減ったように思います。
実際に長年の不眠や過食を抑えることができるようになってきました(完全ではない)。
また、手を動かし続けたことで動かない指をフォローする手段も身に付きました。
唯一のデメリットは、近年ガンプラが手に入り辛くなった(転売屋という人々の迷惑行為が原因)ことでガンプラ以外の高額なプラモデルを買う機会が増え、ふとした瞬間に財布がペラペラに薄くなったことに気付いて衝撃を受けることがある程度でしょうか。
ふっ…(遠い目)
公務員も一つじゃない
保健所に行き「新しい地域福祉のニーズ」を伝えたところ、職員から「良いアイデアですね。実現できないか提案してみます。」と言われたことがあります。
後日、保健所で「新しい地域福祉のニーズ」の件の進捗について質問すると「へ?」と職員は綺麗さっぱり私の提案は忘れていました。
そこで職員に「保健所で新しい取り組みを実現するための道筋」を聞いたところ…
<保健所で新しい取り組みを実現するための道筋①>
職員が課長に提言→課として財政課に予算の承認を求める→議会で予算の承認を求める→新しい取り組みの実現
<保健所で新しい取り組みを実現するための道筋②>
政治家が現場の困りごとを察して新しい法律を作る
という二つの道筋を教えられました。
これを聞いて私の頭には疑問が湧きました。
「そもそも現場の職員は声を挙げているのか?」
ということです。
現場の職員たちは肌で現在の、規則、制度、法律では県民の保健の増進に対応しきれていないことに気付いているはずです。
しかし、なぜ誰も声を挙げて現状を変えようとしないのか。
それは「全体の奉仕者」としての公務員としての職務から逃げているからではないでしょうか。
誰も声を挙げなければ事態が改善しないのは当たり前です。
挙句に声を挙げていないくせに私の目の前の保健所職員は「政治家が現場の困りごとを察して法律を作らないのが悪い」とドヤ顔で自身が声を挙げる努力を怠っているにも関わらず他者に責任転嫁して見せたのでした。
公務員が職務という現実から「現実逃避」したらそれは「職場放棄」と同じ意味です。
勿論、一生懸命に職務と向き合っている公務員もいるでしょう。
しかし、児童虐待を止めない児童相談所があったり、「職場放棄」をしている無責任な公務員のせいで見捨てられてしまった命があることも事実なのです。
公務員の「現実逃避」は国民にとっては害悪でしかないのです。
だって、国民のお役に立ってお給料をもらっているのが公務員なのですから。
おわりに
私は中学生の時に番長とその彼女グループにいじめられていました。
そこに担任おばちゃん教師も加わり地獄の日々を過ごしていました。
ある日、耐え切れなくなった私は途中で学校から逃げ帰りました。
すると担任おばちゃん教師が自宅に押し掛け、両親の前で「逃げずに戦え」と怒鳴り帰っていきました。
いじめは喧嘩ではありません。
1対多数のリンチです。
自分が壊れるくらいなら逃げてください。
これは学校だけの話ではありません。
家庭、職場などあらゆる場所で理不尽に心が壊されそうな日々が続いたら逃げてください。
心は壊れてから修復するのは大変なことです。
心が壊れる前に逃げてください。
逃げて良いのです。
公務員には、逃げ場がない人のために逃げ場や逃げるための手段を日々開発して広めて欲しいものです。
<福祉に関わる全ての人へ>
「障がい当事者の自由のために現状から逃げずに戦え」
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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