「障害者差別解消法」の一歩先をいく各自治体の取り組み
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ライター:Media116編集部
4月に障害者差別解消法が施行され、国・都道府県・市区町村などの行政機関は障がい者に対して「差別的取扱い」が禁止、さらに「合理的配慮の提供」が法的義務となりました。
昨日の記事では、各自治体が職員用の対応マニュアルの作成や広報活動、障害者向けの差別相談窓口の開設、などを進めていることをご紹介しました。
「障害者差別解消法」施行から2ヶ月。自治体は具体的にどんな対応をしている?
こうした基本的な対応以外で、各自治体の活動で注目したいのが「障害者の権利を守る条例」の制定です。今回は、国に先んじて、あるいは国よりもさらに具体的な条例作りに取り組む自治体の動きをお伝えします。
国に先んじて「障害者差別禁止条例」を作ってきた自治体
2006年、国連で「障害のある人の権利条約」が制定されました。この条約を受けて、外国ではすでに多くの国で障がいのある人への差別が法律で禁じられています。日本でもようやくこの2016年4月に国の法律として「障害者差別解消法」が施行されたわけですが、実は国に先駆けて、地方自治体が障害者差別禁止の「条例」を作ってきました。
国内初の条例は2006年、千葉県で可決され、成立。その後、北海道、岩手県、熊本県、さいたま市、八王子市……と多くの自治体が「障害のある人もない人も共に暮らしやすいまちづくり」を目指して、障がい者差別を禁止する条例を施行しています。
国内外の障害者差別禁止法・条例・手話言語条例
内閣府 障害者の権利等を保護・促進するための取組について≪条例関係≫(都道府県別)
茨城県、三重県、福岡市、大分県、熊本県など、全国各地に「障がい者差別禁止条例をつくる会」などの名前で活動している団体があります。現在のように各地に障がい者の権利を守る条例ができるまでには、志の高い自治体の努力もありましたが、障がい者の声を集め、地元行政に条例制定の働きかけを続けた方々の活動があったことも見逃すわけにいきません。
三重県や福岡市など、まだ条例ができていない自治体の「つくる会」では、アンケート調査など障がい者の声を集め、届ける活動が行われています。「福岡市に障害者差別禁止条例をつくる会」が公開している差別体験アンケートは、非常に読みごたえがあり、障がい者の差別の実情を知りたい方はご覧になることをお勧めします。
福岡市に障害者差別禁止条例をつくる会
法律の一歩先をいく条例を。栃木県による新たな試み
新しいところでは、この2016年4月に栃木県で「障害者差別解消推進条例」がスタートしました。この条例では、以下のように記されています。
法においては、「行政機関及び事業者は、不当な差別的取扱いが禁止」されています。
条例においては、「行政機関及び事業者に加え県民は、不当な差別的取扱いを禁止」します。
法においては、「行政機関は合理的配慮をしなければならない、事業者は合理的配慮をするよう努めなければならない」とされています。
条例においては、「県は合理的配慮をしなければならず、県民は合理的配慮をするよう努めなければ」なりません。
「県民」と記されているところに注目です。国の法律では踏み込めなかった一般の人からの差別についても禁止や、合理的配慮の提供の努力義務がある旨を盛り込んでいるのです。
また、もし障がい者が、民間事業者に不当な差別的取り扱いを受け、合理的配慮の提供を求めても、事業者が対応しなかった場合、障害者やその家族は、県にあっせんを申し立てることができます。そして事業者があっせん案を受諾しない場合、県は勧告・公表ができる(2016年10月より施行)としています。
国の法律では「差別」への罰則などは設けられていません。しかし、この条例では「勧告・公表」といった差別解消のための具体的対策がされているところが画期的です。
栃木県ホームページ 障害者差別解消法及び栃木県障害者差別解消推進条例について
わかりやすい!「障がい者理解」のための自治体リリース資料
「条例」を出すだけでなく、一般の人たちに障がい者への理解を深める資料を作っている自治体もあります。
名古屋市は平成27年3月に「障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック」をリリースしています。障がいの特性、どのようなときに困るのか、どんな配慮が必要か、豊富な事例を盛り込み、イラストも多用して読みやすい作りになっています。
この法律をきっかけに、事業者から一般の方まで、本当に多くの人に一度は読んでいただきたい一冊です。
「障害のある人を理解し、配慮のある接し方をするためのガイドブック」
地方自治体ではありませんが、内閣府の障害者施策推進本部が出している「公共サービス窓口における配慮マニュアル-障害のある方に対する心の身だしなみ」も、障がい者特性を理解し、どのような配慮をしたらよいかを知るには、とてもわかりやすい資料です。
「公共サービス窓口における配慮マニュアル-障害のある方に対する心の身だしなみ」
一般人の認知度はわずか2割!? 課題は法律を知ってもらうこと
先にご紹介した「三重県に障害者差別解消条例をつくる会」では、今年3月19日に通行人を対象に、障害者差別解消法を知っているか、アンケートを実施しました。結果は、回答者200人のうち、7割の145人が障害者差別解消法を「知らない」と答え、「法律があるのを知っている」と答えた2割のうちでも「内容を知っている」のは1割の20人という結果でした。
「三重県に障害者差別解消条例をつくる会」
一般の人たちの認知レベルは残念ながらこの程度です。
ちなみに公務に携わる人たちにこの法律の周知はされているのでしょうか? 県庁や県警などに勤務する公務員数名に対し、この法律のお知らせがあったかどうか聞いてみると、勤務先である県のホームページで見た、職員用の回覧で知った、朝礼で知ったとの回答でした。
幸い、まったく知らないという回答はなく、何らかの周知はされているようです。東京都では別記事(「障害者差別解消法」スタート!自治体の基本対応は?)で紹介しましたが、優れたハンドブックが作成されています。
このハンドブック、どのように職員に知らされているのか、障害者施策推進部 共生社会推進担当の方に、お聞きしてみました。まず、都庁職員には各局の人事の所管を通じて、対応要領とハンドブックが周知されているのだそうです。また、都内の市区町村の障害福祉の所管には、施行前の3月に電子データでハンドブックを送付して、活用を案内されたとのこと。ほかにもハンドブックの説明会を開催するなど、広く知られるように努められているとのことでした。
一口に、役所の職員といっても、障がい者と直接接する職務の人たちは限られています。障がい福祉と関連の薄い部署の方たちは詳細まで把握されていないかもしれません。障害に対する温度感は仕事の内容によって違うのは仕方ありませんが、公務に携わる人たちには、この法律の認知がいっそう進んでほしいものです。
また、なにより、一般の方に知っていてほしいのがこの法律です。自治体の方々には、法律の啓発活動についても、ぜひ、継続的に力を入れていただきたいものです。
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ライター Media116編集部
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