【超福祉展】社会を変えるためのムーブメントを起こす! ~「みんなのダイバーシティ・アイデアセッッション」を聞いて~
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ライター:Media116/超福祉展2017
皆さん、こんにちは。統合失調症当事者で、「D.cultur」という障害当事者とその家族のためのwebマガジンを編集している桐谷匠です。ダイバーシティ――最近、福祉分野でよく耳にする言葉ですね。カンタンに説明すると、社会の成員一人ひとりが、それぞれの多様性を認め合うという意味の用語です。このダイバーシティに関するアンケート調査を超福祉展の協力の下、(株)電通の福祉分野におけるタスクチーム「ダシバーシティ・ラボ」が実施しました。11月11日に超福祉展の中で開催されたセッションは、その調査結果から見えてきた課題解決に向けて、多彩なパネリストと障害当事者およびLGBT(性的マイノリティ)当事者の一般参加者がともにアイデアを出し合うというもの。この野心的な試みをリポートしてみます。
余裕がなくなると「人」に怒りの矛先が向けられる
アンケート調査は通常、ダイバーシティという言葉から連想される「LGBT・障害者・高齢者・外国人」などに限定せず、広く全国の一般生活者を対象に実施されましたが、ここではとくに障害者に対する設問とその解答について紹介したいと思います。
まず、「障害のある方に、話しかけたり、手助けをしたりすることが難しい、と感じた場面は?」という設問に関しては、「車椅子の人」や「義足をつけた人」などを押さえて「視覚障害者」が第一にあげられました。視覚障害者が駅のホームから転落する事故が増えていることは、そうしたところに起因しているのかもしれません。
また、「障害のある方と接することについて、どのように感じていますか?」という設問では、意外にも10~20代の若い世代ほど「どのように接したら良いかわからない」と解答していることが判明。まずは若い人が障害者の話を聞いてみる姿勢が肝要ということでしょう。
衝撃的だったのは、「朝の通勤ラッシュ時など、電車やバスが混み合う時間帯で戸惑った経験はありますか?」という設問に対する解答。車椅子がのってきて狭くなったと感じたことがあると応えた人に、その原因はどこにあるかと問うたところ、半数近くの人が「車椅子の「人」自身」と解答したのです。余裕のなくなる場面では「人」が怒りの矛先となり、環境や事情のせいだとは考えられなくなってしまうという課題が浮き彫りとなりました。
今回のアイデアセッションは、そうした調査結果を踏まえ、「クラス」や「職場」でLGBTや障害のある人が心地よくすごせるためにはどうしたらいいのかを話し合うものです。
障害は「個性」か?
紙幅もないので、このリポートでは障害者の発言に焦点を絞って紹介していきます。セッションはまず、ごく短時間ながらパネリストたちの基調講演からはじまりました。最初にマイクを握った障害当事者は、先天性左全手指欠損で、日体大3年生の本堂杏実氏。アルペンスキーで平昌パラリンピック出場を目指すパラ・アスリートです。彼女は、こう述べます。
「私自身、小学生の頃に“手なし”と呼ばれて辛い時期もあったが、両親が私を障害者ではなく普通の子として扱い、育ててくれた。だからこそ、今の私がある。障害は一つの個性であって、それ以上でもそれ以下でもないと思う」
それに対して今回の調査の監修も行った慶應義塾大学経済学部教授の中野氏が次のようにレスします。
「障害を個性とみなすことこそ障害者の出発点とならなければならない。個性を認め合える社会になれば良いと思う」
障害者はかわいそうというイメージ
さて、次はいよいよアイデアセッションの本番です。4つのテーブルに分かれた障害/LGBT当事者たちと健常の一般参加者たちが、調査結果から見えてきた課題に関して議論を戦わせます。筆者が密着した障害当事者のテーブルでは、朝の通勤ラッシュ時に車椅子の人が乗り込む際の問題点について、「障害者専用車両や“ゆとり”車両を設けるべき」といったハード面に関する提案から、「海外の方が障害者への“声がけ”に対して積極的な気がする」といったソフト面に関する感想まで、活発なディスカッションが行われていました。
約30分のテーブル・ディスカッションを終えると、各テーブルの代表者によるセッション内容の報告と全体ディスカッションがはじまりました。代表者による報告から障害者に関する事項に焦点を絞って取り上げてみましょう。
まず、一つ目のテーブル。
「僕たちのグループは障害のある人たちの通勤の苦労について主に話合いました。二つの側面からアイデアが出ました。まずは障害をもっていない人たちの意識を改革すること。それにはダイバーシティ教育や小学校の道徳教育を中高生にまで拡大することが必要。もう一つは施策面。電車などに障害者優先車両を設ける。そうすれば、ラッシュ時などのいらいらもだいぶ改善されると思います」
この報告を受けて、中野氏は「制度の話と心の話という二つの視点が明確に出てきたのはとてもよかったと思う」と言います。
面白かったのは、障害について話し合ったもう一つのグループの報告です。
「障害者には“かわいそうな”人たちというイメージがあるが、実際の当事者たちはかわいそうでもなんでもない。ただ、健常者の側が自分たちの“これが普通”という価値観にとらわれていて、ギャップ=違いを認められないだけ。結論を個人的にいうと、違いを認められない日本人よ、健常者と障害者の違いを恥じるな、というところでしょうか」
心のバリアーの存在に気づくために
最後は、2020年のオリンピック/パラリンピック開催年に向けたダイバーシティの今後について各パネリストたちがそれぞれの私見を述べ、オーラスを中野氏が次のように〆ました。
「真のダイバーシティの実現のためには次の3つの要点がある。
① まず教育。子供たちを教育する以前に、まず教員にダイバーシティ教育を施す必要がある。
② 次にカミングアウト。LGBTの人だけでなく、障害者にも身体障害のような目に見える障害だけではなく、目には見えない障害を抱えた人もいる。そうした人たちが自らの障害をカミングアウトできるような環境をつくっていかなければならない。
③ ダイバーシティの実現のためには多くの活動や参加の仕方がある。大前提となるのはコミュニケーション。社会には多様な人々がいて、それぞれが相手を差別しない・傷つけないようにするのが肝要。そうした社会を実現するための一大ムーブメントを起こしていきたい。」
総じて言えば、実りの多いセッションだったと思う。ただ、一障害当事者として筆者には、たとえば本堂氏と中野氏の展開した“障害個性論”などに対して些少の違和感は残りました。健常者と障害者の間に、一足飛びには超えられない壁があるのは厳とした事実だからです。
その壁は、主に健常者の側にある心のバリアーによるものだと思います。多くの人々がそのバリアーの存在に気づき、共生社会の実現に向けて起こすべきアクションを多様な人たちが一緒に考える――今回のセッションは、そのための確実な一里塚になったと思います。
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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