障害者手帳を返納したら私の生活はどうなる?当事者に実体験を聞いてみた!
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!Media116編集部です。障害者手帳を取得しているみなさん、これから取得予定のみなさん、その障害者手帳がなくなるとどうなるのか考えたことはありますか?特に精神障がいのある方は、症状が軽快し返還せざるを得ない場面に遭遇するかもしれません。今日は精神症状が軽快し、手帳を返還したAさんにその時の体験を聞いてみました。
障害者手帳はどんな時に返還するの?
まずはじめに、「障害者手帳」の返還はどんなときに発生するか、簡単におさらいしたいと思います。
<精神障害者保健福祉手帳の返還について>
精神障害者保健福祉手帳の返還については、以下の規定があります。(詳しくはこちら)
「精神障害者保健福祉手帳の交付を受けた者は、精神障害の状態がなくなったときは、市町村長を経由して、都道府県知事に精神保健福祉手帳を変換しなければなりません。」(精神保健及び精神障害者福祉に関する法律第45条の2第1項)
手帳を返還する際には、各区・市役所の障害保健福祉部精神保健福祉課へ申請にいきます。障害者手帳の返還に手数料はかかりません。つまり、なんらかの要因で精神症状が軽快し、障害者手帳を保有するにあたらない状況になった時に返還しなければなりません。
<身体障害者手帳の返還について>
身体障害者手帳の返還については、以下の規定があります。(詳しくはこちら)
「身体障害者手帳の交付を受けた者が死亡した場合、または身体障害者福祉法及び身体障害者福祉法施行令に規定される程度の障害を有しなくなった場合には身体障害者手帳の返還をすることとされています。」(身体障害者福祉法第16条第1項 身体障害者福祉法施行令12条)
申請については居住地の市町村へ問い合わせください。身体障がいについては症状が固定されている方が多いためこのような記載になっています。身体障がいでも症状が固定ではなく、軽快する可能性があり障害者手帳を保有するにあたらない状況になった時に返還しなければなりません。
上記の他にも、症状が軽快したわけではなくとも返還したいという本人の意思があればいつでも返還可能です。なお、障害者手帳の更新期限がきても更新手続きをしなかった場合、障害者手帳は眠らせた状態になり、再申請の手続きを経て、更新できます。
例えば障害者手帳の更新月を前にして手帳を持てなくなる程に症状が軽快したと診断された場合、次回更新のタイミングで返還しなければなりません。「更新のタイミングまで保持していることは違法!?」と思われる方もいらっしゃるかと思いますが、そうではありません。
ちなみに、障害者手帳がなくとも障害年金の受け取りは可能なので、手帳が持てない=年金が切られるということではありません。
障がい当事者Aさんが障害者手帳を返還した体験談
Aさんは障がい者雇用で働いていたことがあったそうです。その際、手帳を取得した時から病状が軽快していたため、「手帳更新のタイミングで、手帳を持てなくなったらどうしよう」と心配した経験があると語りました。当時勤めていた会社は障がい者の法定雇用率ギリギリの人数の障がい者を雇用していたため、
「私が障害者手帳を持てなくなって障がい者の法定雇用率を達成できなかったら、職場に迷惑がかかる…クビになるかもしれない」と考えていたそうです。
そして手帳更新のタイミングでその不安を主治医に相談したところ、主治医は診断書に「嘘は書けない」と言ったそうです。当たり前のことですが、例えば薬を飲んでいないのに飲んでいるとは書けないということです。彼女は診断書の症状を重く書いてくれと直接頼んだわけではありませんでしたが、当時の彼女はそれほど不安に感じていたのです。
彼女は障がい者就業・生活支援センターで定着支援を受けていたので、その担当者に相談をしたところ
「大丈夫です、そういったこと(障害者手帳がなくなること)で解雇はされませんから」
と言われたそうです。しかし彼女の不安は完全に解消されたわけではありませんでした。その更新時の結果は、等級が2級から3級になりましたが、障害者手帳を持つことができたそうです。
「主治医が書いた診断書は中を見ることができなかったため、記載内容はわかりません。精神障がいは特に病状が軽快する場合がありますから、更新のタイミングで障害者手帳の等級が変わったり、更新できなくなる(手帳を持てなくなる)こともあると思います。心配されている方は多いです。」と語る彼女。
先で書いたように、障害者手帳を持つ、持たないは本人が申請するか否かによるものなので、障害者手帳の返還は本人の意思で可能です。
彼女は「私も近々、返還する予定です。もう精神科の医療機関にかかっていないためです。また、主人も精神障がいがあるのですが、何年も前に更新手続きをしなかったため、障害者手帳は使っていません。」と語っていました。
そして、つい先日彼女は自分の意思で障害者手帳を返還してきたそうです。
「あまりにもあっけなく手続きが完了し、手帳保持者ではなくなりました。障がい福祉課の職員から、障害者手帳の返還の理由を何も聞かれなく、ではこの書類に記入してください、とだけ言われました。」
彼女はその職員の対応に拍子抜けしてしまった、と言います。「本当にいいんですか?」「理由は?」など、いろいろと尋ねられることを想像していたそうなのですが、何事もなく手続きが進んだとのことでした。
「10年以上お世話になった手帳を手放すのは、あっけないものだと感じました。取得する際は大きな決断なのに・・・不思議なものですね。平成17年からお世話になった手帳ですが、十分な職歴のない自分は、恐らく手帳なしでは就職して自立という目標は達成できなかったと思います。私の社会復帰の大きな支えとなってくれた生活保護制度、障害年金、障害者手帳などの福祉、社会保障は本当に尊いものだと返還した今、しみじみ感じます。」そう彼女は言いました。
障害者手帳を返還してどのような心境の変化があったのか彼女に聞いてみたところ、
「正直あまり変化はない・・・といった感じです。現職での仕事は障害者雇用ではないので手帳がなくなったことで変化はありません。私が手帳を持っているか否か、傍目からはわからないので、プライベートでの人間関係においても特に変化はありません。『働いていく中で、手帳が自身のアイデンティティに関わるものではなくなっていった』ということが大きな気づきでしょうか。」と言いました。
そして、働いていく中で徐々に、手帳を持っている自分を「障害者」と意識することが減っていったという彼女。
障害者手帳を取得する時には勇気がいるという方が多くいらっしゃると聞きます。「障害者手帳があることによって自分に障がいがあることを常に意識しなければならない」と感じる方もいます。障害者手帳を持つことによって受けられる恩恵もあれば、返還することで気持ちが変わることもあります。症状が軽快し、障害者手帳を返還してもよい状況になった時、みなさんはどんな選択をされるでしょうか?
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