視覚障がいのために駅や電車で困ることは?本音をぶつけて見えてきた、“理想的なサポートのカタチ”
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!Media116編集部です。視覚障がい者の方々は、「困っているときにサポートしてもらった」という経験もあれば、「サポートが過剰で逆に困ってしまった」という経験もありますよね。今回、一般社団法人PLAYERSの主催で、視覚障がい者の方々と、駅でそのサポートを行なうことが多い鉄道会社の有志の方々で、お互いの“本音”を語り合いながらサポートのあり方を模索するワークショップが行なわれました。その様子から見えてきた、双方にとって丁度良い“理想的なサポートのカタチ”をレポートいたします!
手助けマッチングサービス『&HAND』の視覚障がい用を開発中
PLAYERSは、「困っている人」と「手助けする意思のある人」をつなぐテクノロジー、『&HAND / アンドハンド』の開発に取り組んでいます。これは、障がい者の方々はもちろん、妊婦さんや外国人旅行者といった人々が、なにか困ったときには気軽にサポートを頼めるようにするもの。小型のビーコンデバイス(発信機)をオンにすると、あらかじめ「手助けしたい」サポーターとして登録していて、近くにいる人のスマートフォンのLINEにメッセージが送られる仕組みになっています。
高田馬場駅でのリサーチの様子
今回のワークショップは、そんな『&HAND』で視覚障がいにも対応したサービスを開発するためのリサーチとして実施されました。全盲から弱視まで様々な視覚障がい者の方々を「リードユーザー」として、鉄道会社で現役の駅員やITシステム担当を務める有志の方々と一緒に“視覚障がい者が本当に必要としているサポート”や、“双方にとって理想的なサポートのカタチ”について対話を実施。リードユーザーが駅員に対して不満に思っていることを打ち明けたり、鉄道会社から実際にどんなサポートを求めているのか質問したり、普段は伝えることがない本音を交わす場となりました。
「&HAND WORKSHOP 聴覚障がい者と共創する利他的サービス」ムービー
ちなみに、以前にも聴覚障がい者の方々を対象としたワークショップや、『&HAND』に関する展示や講演が行なわれており、Media116でもたびたび紹介しています。2017年12月には東京メトロ銀座線で、妊婦さんへの席譲りをサポートする『LINEで席ゆずり実証実験』、そして2018年8月3日から31日までJR大阪駅でベビーカーや車イス、外国人観光客などとサポーターをマッチングする、『スマホで手助け実証実験』が開始されています。いよいよ本格的な普及に向かい始めている、要注目のサービスです。
視覚障がいの“あるある”?見当ちがいの手助けに困惑させられることも
電車で移動するとき、困ることもありますよね。ワークショップに参加されたリードユーザーの方々からは、「アナウンスが聞こえず、降りる駅をまちがえてしまった」「慣れない駅では、電車を降りるとどちらに進めばいいかわからない」「電車内の手すりを探して思わぬところに手がぶつかってしまった」といった体験が次々と語られました。
ワークショップの様子
だからといって、いつでもサポートが必要というわけでもありませんよね。「方向さえわかれば、あとは自分で歩けるのに」「ホームや階段から転落することはないのに」と考えつつも、善意で手助けしようとしている人に対して断りづらい思いをしたり、「自分が断ったせいで、他の手助けが必要な人に声が掛かりづらくなってしまうかも」と考えたりしたことがあるのではないでしょうか。なかには、特に困ってはいないときに、「急に肩や白杖をつかまれて引き止められた」という場面や、「心配そうにずっとうしろをついて来られる」ということもあったとか。
そして特に共感を集めていたのは、「駅員さんに案内を頼むと、数十分も待たされる」というもの。「担当のものが参りますのでお待ちください」「階段ではなくエレベーターをお待ちください」「この電車ではなく、次の電車をお待ちください」…などなど。急いでいるから助けを求めたのに、過剰に心配されることで余計に時間がかかってしまう、というのは視覚障がいを持つだれもが経験していることのようです。
うまくサポートできていないと歯がゆさを感じている、現場の本音
ワークショップでは次に、鉄道会社側のサポート体制にフォーカスが当てられました。事前に鉄道会社内で実施されたアンケートによると、現場の方々も「十分なサポートができていない」と感じていることが多いようです。スタッフの数に余裕がないため、サポートを行なう場合には窓口を閉められるよう準備をしたり、警備スタッフの方を呼んだりといった対応が必要になります。また、安全に駅構内を移動してもらえるように、階段を避けたり、電車に急いでとび乗る状況にならないようにしたり、といった配慮を行なっています。
これが、リードユーザーから挙げられた「時間がかかる」「過剰なサポートが煩わしい」という不満点の原因。その結果、駅員の方々も「手助けしようと声をかけても断られてしまった」という経験を誰もが持っており、そういった時に「本当に手助けしなくて大丈夫だろうか」と迷うことがあるそうです。また、「どこまで手助けすれば良いのか分からないので、マニュアル通りの対応になってしまう」という点に歯がゆさを感じているようです。
視覚障がい者と鉄道会社の対話を記録している様子
こうした対話の中で判明したのは、これらのミスマッチは「サポート体制ができあがっていく過渡期にあるため発生している」ということ。例えば、鉄道各社は数年前から障がいをもつ方への声かけを強化しはじめました。駅構内や社内でアナウンスが流れるため、「周りの人から声をかけられることが増えた」と感じている方も多いのではないでしょうか。その一方、声をかけてくれた人の多くが障がい者のサポートに不慣れなために起きるすれ違いが、お互いのストレスになってしまっているのです。ただ、これから声かけが当たり前のものになっていけば、世の中の多くの人々がサポートに慣れて、「必要な時に、必要なサポートを得られる」社会へと確実に進んでいくはず。そんな明るい展望が見えてくる対話となりました。
理想的な視覚障がいのサポートへの第一歩はコミュニケーション
ワークショップでは視覚障がい者と鉄道会社での対話を、いくつかのグループに分かれて行ない、“双方にとって理想的なサポートのカタチ”を発表しあうという流れになっていました。そこで出された結論はいずれも、「大切なのはコミュニケーション」という点で共通していました。人それぞれ、そして時と場合により、必要なサポートは変わります。だからこそ、手助けが必要であることを伝え、どんなサポートがあればいいかを伝えるコミュニケーションが、そしてその訴えに柔軟に対応するサポート側の意識が、“理想的なサポートのカタチ”をつくりだしていくのです。
『&HAND』は、まさにそのコミュニケーションの“きっかけ“を与えてくれる仕組みです。PLAYERSの主宰者であり『&HANDプロジェクト』をリードしているタキザワケイタ氏は、「対話のおかげで今後の開発のヒントがたくさん見つかりました。なにより、サポートの仕組みだけではなく、 “社会全体で意識と知識を高め、見守り合う文化を醸成していくこと”の重要性を実感することができました」とワークショップが終わった後に語っていました。
ワークショップをファシリテーションするPLAYERSのタキザワ氏
また、リードユーザーの方々も期待を寄せている様子。ワークショップの最後には『視覚障がい者向け&HAND』についてフィードバックを行う場があり、そこで「LINEでの通知だけではなく、コミュニケーションのとれる機能がほしい」「“道に迷っています”や“全盲ですが階段には慣れてます”といった定型文をあらかじめ設定できるといいかも」など、次々とアイデアがわき出ていました。ほかにも、「弱視の私がスマートフォンを使っていたら“視覚障がいのふりじゃないのか”と言われたこともあるので、専用デバイスなら誤解されづらそう」という方もいれば、「持ち物はなるべく増やしたくないので、スマートフォンだけで完結できるとうれしい」という方も。ここでも、人それぞれ
コミュニケーションの“きっかけ”が増えれば、たくさんの人々が障がい者の方々のサポートに慣れていくことでしょう。そうなれば、電車での移動に限らず「ちょっとコーヒーを飲みたい」「最近話題のお店に行ってみたい」といった、今までは遠慮しがちだったことでも気軽に手助けをお願いすることだってできるようになるはずです。求められているのは、ほんの小さな手助けです。そんな小さな手助けを、ムリなくできる人々と必要な場面でつながる。それが実現できれば、障がい者の方々も安全に心おきなく外出を楽しめる社会になっていくことでしょう。もうすぐそこに迫っている『&HAND』の本格的な普及、大いに期待が膨らみますね。
ワークショップ後の歓談の様子
PLAYERS×JR東日本 視覚障がい者の“見えない不安は、みんなで見守る” 「MIMAMO by &HAND」プロジェクト始動
今回のワークショップを主催した一般社団法人PLAYERSは、東日本旅客鉄道株式会社と共同で「MIMAMO by &HAND」プロジェクトをスタートします。視覚障がい者・鉄道事業会社・一般の方との共創によって、社会全体で見守り、サポートし合える仕組みを模索し、視覚障がい者が安心して外出できる社会の実現を目指します。
詳細はこちら
<ご紹介したPLAYERS、『&HAND』についての詳細はこちら>
■一般社団法人PLAYERS
■&HAND / アンドハンド
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