人生には冒険が必要だ!~車椅子で木登り?ユニバーサル・ツリーイングの魅力に迫る~(前編)
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ライター:Media116編集部
皆さん、“Tree+ing(ツリーイング)”をご存知ですか?森の中、木の枝にロープでぶら下がり、ゆらゆらと時空を楽しむアクティビティです。ちょっと想像してみてください。新緑の木漏れ日の中、木の葉の間をすり抜ける風を感じながら、樹上から森を見渡す――。なんて気持ちの良い、贅沢な時間でしょう!「とっても素敵だけど、自分には関係ないや」と思ったそこのあなた。もし、専用の車椅子に乗ったままで楽しめるとしたら、どうでしょうか?
今回ご紹介するのは、Tree+ingをより多くの人が楽しめるように進化させた“Universal Tree+ing(ユニバーサル・ツリーイング)”です。このサービスを独自に提供するのは、兵庫を拠点として展開する一般社団法人Water Ground Mountain(WGM)。『Outdoor for all』を理念として掲げるWGMの代表理事 吉川史浩さんに、サービス提供に到る想いや、活動の醍醐味などについてお話を伺いました。
Q:Tree+ingとUniversal Tree+ingの違いについて教えて下さい。
吉川:木の枝にロープをかけ、結び目を手繰り上げて自分で登っていくのが通常のTree+ingですが、このTree+ingの技術とロープレスキューのシステムを融合させて、ロープと滑車で引き上げるシステムを組み、アウトドア用車椅子に乗ったまま楽しめるようにしたのがUniversal Tree+ingです。
私たちがご用意した車椅子に移乗して、樹上で森を楽しんで頂き戻ってくるまでで大体40分くらいのアクティビティです。樹上でぶらぶら、ゆらゆらと、20分くらい楽しむ方が多いですが、ご要望や状況に応じてもっと長く楽しむこともできますよ。
<生徒の余暇の現実に直面し、社会環境に違和感を抱いた>
Q:なぜ、このようなサービスを提供しようと考えたのですか?
吉川:以前、特別支援学校で体育の講師をしていた時、受け持ちの生徒と日々連絡帳でやり取りをしていたのですが、月曜日に保護者から来たものを見ると、ビデオを借りに行って、ジュースを買って、家でビデオを見て終わりというような週末を、毎週のように過ごしていたんですよね。保護者の方に「もっとほかに選択肢はないんですか」と尋ねたら、
「先生ちょっと待ってください。ほかに行けるところなんて無いですよ」
と言われて衝撃を受けました。
僕にとってスポーツやアウトドアは人生でとても大切な要素なので、社会環境的にその選択肢が閉ざされているということがショックで…。なんだか、自分だけが楽しんでいるようで嫌だと思ったんです。
教師の仕事は好きでしたが、学校教育で僕の代りはいくらでもいます。今の社会に、障がい者がスポーツやアウトドアを楽しめたり、のびのびと遊べる環境がないのであれば、僕が変えてやろうじゃないかと、そこを切り拓く人になってみたいと思うようになりました。
Q:なぜTree+ingだったのでしょうか。
吉川:教師を辞めたあとアウトドアの勉強をさせてもらっていたのが尼崎市立の自然の家で、そこが近畿中国地域のTree+ingの本拠地のような所なんです。当時は、怪我をした子や、障害を持った子にも同じように森に入れないかと、良い車椅子を探していた時期でした。
その時に出逢ったのが、フランス製の水陸両用アウトドア用車椅子“HIPPO campe(ヒッポキャンプ)”です。それから、漠然とHIPPO campeとTree+ingをどうにか融合できないかということを考えるようになっていきました。
Q:安全面などの課題はどのようにクリアしたのでしょうか。
吉川:Tree+ingのインストラクターの資格だけでは、車椅子を上げることができなかったので、主に消防の方が受講されるロープレスキューの講習会に参加しました。HIPPO campeの構造的に強度のある個所を検討し、ロープをかけ、実際に吊り上げてみては、ロープの長さがどうとか、角度が悪いとか、使用する装備は何がいいかとか、インストラクター仲間にも協力してもらってあれこれ試行錯誤しました。このトライ&エラーには相当の時間をかけました。
Universal Tree+ingには、滑車の原理を使って少ない力で重いものを引き上げられる「倍力」を活用しました。9倍力のシステムが採用されていて、実際の重量の9分の一の力で引き上げられるようになっています。
引き上げている間、登山で使用するロープシステムによって常にブレーキがかかるようになっているので、仮にインストラクターがロープから手を放しても、体験者が落下することはありません。装備はすべて山岳レスキュー用のものを使用し、24キロニュートン(約2400kg)の荷重に耐えられます。
Q:サービスを立ち上げるにあたり苦労したことは?
吉川:僕はスポーツやアウトドアが大好きなので、Tree+ingも野球やサッカーのように、当たり前に広まっていくものだと勝手に思っていました。だから、指導する技術を身に付けさえすれば、すんなり広げられるんじゃないかと、ちょっと甘い認識をしていました。
いざ実行に移そうと場所を探してみると、法人でもなく何の資格もない僕個人が話しをしに行っても、なかなか使わせてもらえる場所がないんです。「何を言っているんだ君は」とか、「そんなの無理に決まっているだろう」といった反応がほとんどで、門前払いのような扱いをされることも少なくありませんでした。
それまで資格などを重要視せずに過ごしてきてしまっていたのですが、信頼を得ることだけを目的に、活動自体への必要性が低い資格や、法人格も取得しました。これがちょっと大変でしたね。でも、法人になることで急に対応が良くなる施設もありました。
Q:障害種別や年齢層など、これまでUniversal Tree+ingを体験されたのはどんな方たちですか?
吉川:大体ですが、身体障害の方が3割程度で、あとは知的・発達障害の方ですね。医療的ケアが必要な方も利用していただいています。年齢層は幅広く、小学生から中高生、社会人の方もいらっしゃいますよ。ご両親がお連れになるケースが一番多いと思います。
<アクティビティの提供においてWGMが最も大切にしていることなど、後編へ続く!>
[Tree+ing を楽しむには]
●樹上からの景色は最高!カメラには長めのストラップをしっかりつけるなど、落下防止対策を!
●冷えが気になる季節は防寒対策を。お尻の下を風が通り抜けます。
●年間を通して、兵庫、京都、長野などでイベント開催しています。詳しくはWebサイトへ!
●Universal Tree+ingは完全予約制です。専門技術スタッフを確保する必要があるため、早めにご連絡を!
Universal Tree+ing Webページ
URL:http://watergroundmountai.wixsite.com/wgmwgm/technical-support
WGM Webサイト
URL:http://watergroundmountai.wixsite.com/wgmwgm
ata Alliance Webサイト
URL:https://www.ata.tours/
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ライター Media116編集部
障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。
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