ドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』 多様性は、いつもそこにあるもの
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ライター:aki
「障害があったり生きづらさがあるからといって、毎日暗い顔をしているわけじゃない。
だれかの助けがなくたって、笑いたいときは普通に笑っているんですよ」
ケラケラと明るく笑いながら、スッと核心をついてくる石川悧々(りり)さん。脊椎損傷と脳の血腫があります。
「“障害者はいつも困っていてかわいそう”というイメージは、この映画を観ることで吹き飛ばされると思います。助けが必要になるのは、周囲の人の理解不足や環境が整っていないことも原因ですし」
彼女はドキュメンタリー映画『ラプソディ オブ colors』のメイン出演者の一人です。
現在公開中で、今後順次上映を拡大していく本作について、佐藤隆之監督と出演者の石川さんに話を聞きました。
石川悧々さん:頸椎損傷・脳幹血管腫の障害者。障害平等研修(DET)のファシリテーターとして活躍。
佐藤隆之監督:2016年秋ドキュメンタリー作品『kapiwとapappo〜アイヌの姉妹の物語〜』を劇場公開。
現役タクシードライバーでもある。本作が長編ドキュメンタリー2作目。
「アンチ感動ポルノ」の真意
「〈障害〉と〈健常〉のあいだ」「人間まるだしの映画」そんなキャッチコピーが踊る本作。社会派でとがった映画かと身構えて劇場に向かいました。しかし実際に観てみると印象が変わります。バリアフリー社会人サークル「colors」という場に集う人々が、歌いながら笑いながら、楽しんで日常を過ごしている様子がいきいきと、ありのままに映し出されていく作品です。
観たあとで「障害者ってこんなに元気なんだ」と驚く人もいるといいます。
登場する人々は確かにみんな個性的です。一方で住んでいる町のどこかにいそうな人々にも思えました。ただ車いすを使っていたり、体の一部が動かしにくかったりする、それだけのことです。
「多様性はもともとそこにあるんだから、あるものを認めればいいだけのことなんですよ」と佐藤監督は言います。
冒頭の石川さんの言葉と同様「障害のある人はかわいそうだから」という見方が多いことについて佐藤監督も疑問を投げかけます。
「障害のある人をなるべく悲劇的に描くやり方は確かにあって、それを助ける人との関係性を題材にしている作品は実際に多い。そういう作品は観ていて気持ちがいいし感動する。しかしそうした描き方が、現実社会の障害者を“そうみていいんだ”という風潮を作ります。それに対して僕は異を唱えたかったわけです」
すばらしい!ぜひ異を唱えてくださいよ!と石川さんが間髪入れずに笑いながら応じます。何を今更いってんのよ、と苦笑いの佐藤監督。撮影中の関係性が見えるようです。
淡々とつづられる日常
作品内では、登場人物それぞれに悩みがあり、辛いと思えるようなことも起こります。しかしそれすらも日常の一部として淡々と映し出されていきます。その悩みに大きいも小さいもなく、当人が決断して行動したりしなかったり。それは誰もが日々暮らしている当たり前の日常です。
石川さんは「最初に観たときは私にとって当たり前の日常で、正直面白さが分からなかった」と話します。
ただ、試写の後に付け加えられた部分があったそうです。
それは映画の最後に、ある人物が石川さんのもとを去って行ったことを示す描写です。それは障害のある人にとっては「よくある現実」だといいます。
「人生の途中で障害を負ったり重篤化(じゅうとくか)していったりすることで、それまで親密だった人が離れていったという経験を多くの人がしています。
それは“老い”の問題にも通じること。全ての人に起こりえる、自分ごとである問題です。それを伝えられるなら映画になる意味がある!と思いました」
作品は、まさに“ラプソディ”
タイトルの『ラプソディ オブ colors』。
ラプソディ(=狂騒曲)とは、辞書によると「自由形式の器楽曲。(中略)叙事詩的性格を持つ。」とあります。まさに事実をありのままに、自由につなぎ合わせたこの映画にこれ以上ないほどぴったりです。
また「colors」は舞台となったバリアフリー社会人サークルの名前であり「十人十色」という意味でもあります。
佐藤監督は撮影の後半にはこのタイトルに決めていました。
「『ボヘミアン・ラプソディ』があたっていたから、あやかりたいなと思ったんだよ」と冗談めかして話していましたが、このタイトルを思いついて作品にとても合っていると感じたそうです。
さらに「ラプソディ」には、昔の曲の『東京ラプソディ』のイメージも忍ばせているといいます。
「あれは男女間の恋心を歌った唄だけれども、男女限らず“人に対する淡い恋心”のような想いも作品の裏テーマにはあります。まあ、そう感じてくれる人は少ないんだけれども」と笑います。
作品中にはcolorsが主催するライブの様子が多く出てきます。様々な音楽がちりばめられていますが、「効果」としての音楽はほとんどありません。
そんな中、最後にかかるのが映画『蒲田行進曲』のテーマ曲です。
「蒲田が舞台だからいいかなって冗談みたいに考えていたんだけど、実はもとは外国の曲でね」と監督が教えてくれました。
1920年代に初演され、のちに映画化もされたオペレッタの劇中歌『放浪者の歌』というそうで、監督によると「仲間たちと航海に出ていくワクワクする気持ちを歌った唄」だといいます。そんな背景を知ると、作品内ではまた違って聴こえるかもしれません。
ちなみにオルゴール音の部分は石川さんが「スマホの無料アプリで5分で作った」そうで、エンディングにも注目です。
バリアフリー上映アプリ「HELLO ! MOVIE」に対応
本作は、スマートフォンアプリの「HELLO ! MOVIE」を使ったバリアフリー上映に対応しています。視覚障害者のための音声ガイドと、聴覚障害者のための字幕があります。
音声ガイドはスマートフォンとイヤホンがあればどの劇場でも対応可能。字幕については、劇場によって専用メガネの貸し出しができない場合もあるそうですが、作品の性質上なるべく対応していきたい考えです。「字幕もスマートフォンで利用できますが、劇場でスマホを見るとなると難しい面もあるので、そこは劇場からのアナウンスもお願いしていきたい」と佐藤監督。
これらの字幕や音声ガイドは「作品の一部」として監督の感性で作り上げています。
例えば音声ガイドならテレビドラマにあるような単純な読み上げとは異なり、監督による作品解説のような感覚だそう。石川さんによると「2回目に観たときに音声ガイドを聴いたら監督のつぶやきで涙が出てきちゃった」と作品の観え方が変わった人もいたといいます。また、字幕は聞き取りにくいセリフの補完にもなります。佐藤監督も「障害の有無に関係なく選択してぜひ使ってみてほしい」と話していました。
現在公開中の、「シネマ・チュプキ・タバタ」では対応しているとのことなので、興味がある方はぜひ事前にダウンロードを。
<HELLO ! MOVIE アプリのリンク>
HELLO ! MOVIE
公開スケジュール
最新の情報は各劇場へご確認ください。
◆6月19日〜
東京 :シネマ・チュプキ・タバタ
◆7月3日〜
群馬 :前橋シネマハウス
◆7月23日〜
兵庫県 :豊岡劇場
◆近日上映予定
福岡 :KBCシネマ
大阪 :シネヌーヴォ
京都 :みなみ会館
神戸 :元町映画館
広島 :横川シネマ
順次公開拡大予定
公開情報は公式サイト・SNSで確認を
作品公式Twitter https://twitter.com/rhapsody_colors
作品公式Facebook https://www.facebook.com/Rhapsody.of.colors
作品公式サイト https://www.rhapsody-movie.com
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ライター aki
ASDの長男と、たぶん定型発達の夫と暮らしています。私自身は診断をうけていませんが、おもちゃを一直線に並べて遊ぶ子どもではあったらしいです。 Twitter: https://twitter.com/akiko_m_psy10
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