『僕の大好きな妻!』 ドラマ化の背景とは?制作者に直撃!
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ライター:大河内光明
発達障がいのある妻と、漫画家志望の夫の日常を描く漫画『僕の妻は発達障害』(ナナトエリ/亀山聡)。そのテレビドラマ化作品が、この6月からフジテレビ系列で放映されています。
今回取材させていただいたのは、実際にドラマ化企画を立ち上げた東海テレビ制作局の中頭千廣さん。
ドラマ化に至る経緯や撮影中の苦労、込められた想いをおうかがいしました!
<原作キャラクターの魅力が原動力に>
▲東海テレビ制作局の中頭さん
「ドラマ化のきっかけは、書店でナナトエリ先生の原作漫画を見かけたことでした。実際読んでみると、この夫婦がほんとに素敵だなと。それが一番でした」
こう語るのはドラマ制作を企画当初から担当された東海テレビ制作局の中頭千廣(なかずちひろ)さん。今回中頭さんが取り組んだのは、発達障がいをもつ妻・知花とその夫・悟を描いたラブコメディ作品『僕の妻は発達障害』のドラマ化企画です。
それまで“発達障がい”という言葉は耳にしていたものの、実像がつかめず苦労したという中頭さん。限られた時間の中で発達障がいをドラマとして映像化するにあたり、常に不安感があったといいます。
「まずは当事者の方にお会いしなければと思って頼ったのが発達障がいカフェのネッコさんでした。『定型発達』や『擬態(発達障がいのある人が障がい特性をを隠すようにふるまうこと)』などの言葉は、最初はさっぱりわかりませんでしたが、本や当事者の方に取材する中で学んでいった形でした」
▲撮影風景
しかし、そうした取材や下調べだけでは、発達障がいのあるキャラクターをドラマに落とし込むことは難しかったそうです。コミックとちがい、ドラマは実在の人が演じるので、よりリアルに人物が立ち上がってしまいます。求められたのは、そうしたメディアの違いを乗り越えることができる演技力と明るさを兼ね備えた俳優さんでした。
「主人公のイメージで最初に顔が浮かんだのが、国民的アイドル・ももいろクローバーZ(以下『ももクロ』表記)の百田夏菜子さんでした。そのエネルギッシュさ、ひまわりのような笑顔で、ももクロのように多くの方に愛されるドラマになれたらと。実はのちのキャスティング会議でプロデューサー部全員の第一声が百田さんで。念願叶ってのキャスティングが実現しました。そして俳優部の皆さんどなたも役に真摯に向き合ってくださる方に出会え、感謝しています」
<発達障がいを映像化することの難しさ>
▲ドラマ本編のワンシーン
「地上波のテレビドラマはエンタメとしてみて楽しんでもらうことは一番大事なのですが、放映されているものを偶然視聴するということもありうるメディアなので、発達障がいを知る入口としてみてもらえる作品作りも心掛けました。エンタメとして成立させつつ、発達障がいをきちんと扱い、登場人物も過度にドラマ的にしないように試行錯誤の連続でした」
しかし、発達障がいのある人特有の強いこだわりなどが、一般的なドラマの登場人物の動かし方と異なって、苦労した場面もあったそう。ストーリーに登場人物をすんなり当てはめることができず、監修の医師や当事者の方々から指摘が入ることもしばしば。脚本を大幅に手直しすることもあったといいます。
「特性の表現には特に注意を払いました。発達障がいの特性は十人いれば十人ちがう。これが特性なのか、性格なのかというのははっきり言いきれるものではないということを考え、あえてテロップでの説明などもしませんでした。発達障がいをよく知らない視聴者の方に、知花の例だけがすべてとは思ってほしくなかったので」
ストーリー序盤では、知花がバスタオルの中にゆで卵を置き忘れてしまい、悟が「こんなミスありえない」と困惑する場面があります。発達障がいの困りごとが理解されがたいことを象徴したシーンの一つです。また発達障がいの人にありがちな聞き間違いや、会話の微妙な食い違いなども、ドラマの中でシーンとして取り上げられているのですが、特別な説明はあえて入れなかったとのこと。
今はSNSで情報がすぐに取得できる時代。ドラマではあくまで考えるきっかけになるような情報だけに留め、「あれはもしかして特性だったのかな」と引っかかりを残し、視聴者が自ら調べていく余地を残す作り方にしたのだそうです。
また、発達障がいという言葉には「ギフテッド」「天才」などのイメージもつきまとっていますが、多くの当事者は仕事を持ち、工夫をしながら日々を過ごしています。「特別な才能」というイメージからも離れ、ごく普通に生きようとする人々を本作では描こうとしているといいます。
「『人は知らないから恐れる』という台詞があるのですが、まさに自分自身、その思いがあって……。このドラマを作る中でいろいろ知ることができたのは、私にとっても財産です。ただ、堅苦しいことは置いておいて、まずはヒロイン夫婦を好きになってもらえればうれしいです」
<“障がい者のドラマ”ではなく、“人と人の物語”として>
第2話では、障がいのないカップルと、主人公夫婦との対比が描かれました。
障がいがあってもなくても、一緒に暮らす中ではすれ違いはつきもの。生活リズムや仕事との兼ね合いなど、パートナーの発達障がい以外にも、障壁はたくさんあります。
現代は日本人の「結婚離れ」が叫ばれて久しい時代でもあります。
婚姻数は年々減少し、一人で生きることを選択する人も珍しくありません。
発達障がいの有無とは別に、そもそも「人と人が一緒に生きる」ことの難しさも、夫婦を扱うに当たっては避けられない観点でした。
「ファンタジーでもいいから、人生を一緒に歩みたいと思える人がいるのは勇気をもらえるし、私だったらそういうドラマを見たいなという想いはありましたね。ただ、『結婚っていいよね』という結論にするような作り方はしたくなかったです」
取材中、中頭さんが繰り返し口にしたのが、「発達障がいのドラマ」にはしたくなかったということ。人が生きる上で立ちはだかる困難の一つに、「発達障がい」がある。今回タイトルから障がい名を排したのにも、そういった意味もあるとのことです。そういった観点からドラマを観てみると、違った見え方があるかもしれませんね。
「取材する中で出会った当事者の中には、過去を思い出し、体調を崩してしまった中でもお気持ちを伝えてくださった方がいました。『もっとこの障がいについて知ってほしい』という強い思いを感じ、身が引き締まりました。SNSでもこのドラマが注目されているなというのは感じていますので、主人公の二人を最後まで見届けていただければ嬉しいです。どんな感想でもいいので、ご意見もお待ちしております。ただ、何卒無理はなさらず、ご体調を優先してご視聴いただければと思います」
取材の最後にこう結んだ中頭さん。作品作りに対する強い思い入れと信念を教えてくださいました。
テレビドラマ『僕の大好きな妻!』は2022年6月4日(土)~7月23日(土)の期間、毎週土曜日23時40分~24時35分で放送中。また、TVerやFODなど配信で最新話まで視聴できます! 明るく楽しいラブコメディ作品となっていますので、ぜひご覧ください!
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ライター 大河内光明
1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科を卒業後、web出版社、裁判所事務官を経て副業でライターに。発達障害(ADD,ASD)の当事者であり、民間企業の障害者雇用で働く。
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