1枚から自宅でインクルーシブウェアを注文できる!「キヤスク with ZOZO」が目指す社会とは
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ライター:マスブチミナコ
ZOZOTOWNで、インクルーシブウェアを購入できることをご存知でしたか?「キヤスク with ZOZO」では、障害や病気のある方でも着やすい服を、1着の注文から受注販売しています。
障害や病気があると、どうしても着たい服を選べないという実情があります。「キヤスク with ZOZO」はどのように解決しているのでしょうか。
ファッションEC「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOの長田富男さん、障害や病気のある人たちのための既成服お直しサービス「キヤスク」を運営する株式会社コワードローブの前田哲平さんにうかがいました。
服について困る日常で、インクルーシブウェアサービスを立ち上げる
2024年8月10日、株式会社ZOZOと株式会社コワードローブは、ファッションブランドがZOZOTOWN上でインクルーシブウェアを受注販売できるサービス「キヤスク with ZOZO」をはじめました。障害や病気のある人も着やすい服が1着から購入できる、今までにない取り組みとして大きな話題になっています。
第一弾として、車椅子ユーザーの悩みに応えるパンツ「チェアーパンツ」を販売しています。
足に障害があっても着脱しやすくするため「腰から裾」または「腰から膝」まで開閉できるファスナーをパンツの両脇に取り付けています。さらに、「床ずれ」が発生しにくいように、臀部には縫い目を作らない設計になっています。
株式会社ZOZOの長田さんには、「いつかインクルーシブウェアのサービスを立ち上げたい」という夢がありました。長田さんは障害のある娘さんを育てていて、服について困ることが日常的だといいます。
一方、株式会社コワードローブの前田さんは、障害や病気のある人たちのために既成服のお直しサービス「キヤスク」を運営しています。一人一人の着やすさのためのお直しだけでなく、はじめから着やすい服があればと考えていました。
「キヤスク」を知った長田さんはひらめいた、といいます。
「ZOZOの生産支援プラットフォーム『Made by ZOZO』そして、最大56サイズ展開で販売可能な『マルチサイズ』を使うことで、インクルーシブウェアの生産支援が可能なんじゃないかとひらめいたんです。「キヤスク」は障害のある人と直接会話をしながら1点1点お直しをしていて、当事者の声を本当に大事にしているので、声をかけさせてもらいました」
インタビューにお応えくださったZOZOの長田さん(左)とコワードローブの前田さん(右)
「Made by ZOZO」で1枚の注文から受注生産を行う
「キヤスク with ZOZO」では、1枚のオーダーからインクルーシブウェアを受注生産しています。これが可能なのは、「Made by ZOZO」の生産システムに基づいているからです。
従来、ファッションブランドは顧客一人ひとりのニーズに応えるためには、サイズや仕様など様々な種類の在庫を持つ必要がありました。
「Made by ZOZO」は、ファッションブランドの在庫リスクゼロを目指す生産支援プラットフォームです。ブランドは注文を受けて、1着の注文からデータ連携をおこない、生産します。注文を受けてから生産を行うので余剰在庫の心配がありません。異なるデザインの商品も同時並行で生産が可能です。また、最短10日で物流拠点からお客様のもとに発送されます。
※「キヤスク with ZOZO」のアイテムは、ZOZOTOWNで受注後、最短14日で発送。
注文する場合、すべての工程がインターネット上で行えるのも、障害や病気がある人たちにとって大きなメリットになります。
Made by ZOZOについてはこちら
「私たちのことを、私たち抜きに決めないで」をいちばん大切に
「キヤスク with ZOZO」は当事者・親御さん・介助者さんたちの声も聞きながらディテールを決め、商品を企画しています。車いすユーザーの悩みに応える商品を作るにあたって、特別支援学校でフィッティングを行いました。
その理由について、ZOZOの長田さんはいいます。
「国際連合の人権条約『障害者の権利に関する条約』が作成された時の合言葉である『私たちのことを、私たち抜きに決めないで』という言葉を一番大切にしたいと思っています。『キヤスク with ZOZO』のアイテムは当事者の方にとって機能しているかが大事なので、当事者だけでなく介助者の意見も聞くなど、細かい部分まで検証しながら仕様を決めました」
発売開始後は、特別支援学校のPTAで商品が紹介されるなど、反響があったそうです。
キヤスクのOne to Oneの2年間の積み重ねがあっての機能とデザイン
「キヤスク with ZOZO」の知見として生きているのは、株式会社コワードローブの前田さんがお直しサービス「キヤスク」で培ってきた2年間の実績です。
前田さんは、以前はユニクロで20年ほど服作りに携わっていました。障害のある方が働いていたことをきっかけに、実情を知りたいと800人を超える当事者にヒアリングをしました。
その後、「キヤスク」を立ち上げ、利用者の着やすさに寄り添って1着ずつお直しをするサービスを提供開始。制服やスーツ、仕事着などのお直しもしてきました。One to Oneで既製品をお直ししていく中で、前田さんは着やすさは本当に一人一人違うということを実感していったといいます。
「車椅子ユーザーが履きやすいパンツを作ったとしても、全員の履きやすさにつながるわけではありません。本当に一人ひとりの履きやすさを実現するのなら、お直しが一番だと今でも思っています」
一方で、キヤスクのお直し事例のうち、80%〜90%くらいの方をカバーできる着やすさは、決まったパターンで再現できることも発見しました。例えば、横開きのズボンで車椅子ユーザーのかなりの方の着やすさを確保できる、などです。「キヤスク with ZOZO」ではお直しの知見を生かし、車椅子ユーザーのための着やすいパターンを提案しました。これが、第一弾の「チェアーパンツ」の販売につながりました。
チェアーパンツ
キヤスク with ZOZOがこれから目指すもの
今後は、キヤスクの実績に基づいた複数のパターンをもとに、さらに商品を展開していく予定です。現在は車椅子ユーザーの悩みに応える「チェアーパンツ」が販売されていますが、アイテムも増やしていく予定です。
あらゆる障害のある人たちのためにバリエーションを揃え、そこから当事者が選択できる状態を目指しているといいます。80%〜90%でカバーしきれないニーズに対しては、今後も「キヤスク」のお直しを活用してもらうことができます。
また、さまざまなブランドとの協業を通じてインクルーシブウェアの選択肢の幅を広げていく取り組みも動き始めています。すでにいくつかのブランドにアプローチしていて、感触はいいとのこと。実現すればより多くの人たちのための着やすい服がZOZOTOWN上で発売されていきます。
どんな人もファッションを楽しめる、インクルーシブな社会へ
現在展開しているチェアーパンツだけでなく、「キヤスク with ZOZO」ではすべての人々が楽しめるファッションを目指しています。「服にある障害を取り除いて、『インクルーシブってかっこいいよね、おしゃれだよね』と広がっていって欲しい」とZOZOの長田さんはいいます。
「僕は視力が低いのでメガネをかけているんですが、もしメガネがなかったらこれは障害ですよね。でもメガネがあるから不自由なく生活ができる。一方で、メガネはオシャレなファッションアイテムになっていたりする。インクルーシブウェアもそんな風になっていけばいいなと思います」
健常者は何の制約もなく楽しめるカジュアルファッションも、障害や病気のある人にとっては困難が多いことがあります。着れなかったり、着るのにやたら時間がかかって億劫になってしまい、十分にカジュアルファッションを楽しめなかったり……。
障害は社会のほうにある。
社会モデルで考えて、服の上にある障害を取り除いていった先で「キヤスク with ZOZO」が目指すのは、インクルーシブな社会です。インクルーシブウェアがかっこよくて機能的だ、と障害のあるなしにかかわらず人気になるような社会は、きっと今より「着やすい」が当たり前になった社会に違いありません。
商品名:座っても立ってもかっこいい!車いすでも動きやすい魔法のデニムチェアーパンツ。サイドのファスナーで着替えがラクラク、ペットボトルから作られた地球にやさしい素材でできています(両開き4分)
価格:14,980円(税込)
商品名:座っても立ってもかっこいい!車いすでも動きやすい魔法のチェアーパンツ。サイドのファスナーで着替えがラクラク(両開き9分)
価格:11,980円(税込)
キヤスク with ZOZO の購入はこちらから:
キヤスク with ZOZO|キヤスク ウィズ ゾゾの通販 - ZOZOTOWN
取材・編集協力:aki
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ライター マスブチミナコ
フリーライター。デザイン、イラスト制作なども行う。人から気持ちが言葉になって生まれてくる瞬間を大切に拾って書いています。発達障がい(ASD)の当事者。
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