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「現代のような不確実な時代に、最もたくましく生きていく力を持っているのが、ぼくたち発達障害者のはずだから。」作家・市川拓司さんインタビュー【後編】

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ライター:Media116編集部

『いま、会いにゆきます』などの代表作で知られる作家の市川拓司さん。前編では、自分を知ることの大切さや、発達障害であることの強みについて語っていただきました。今回は、インタビューの後編として、奥様との出会いや発達障害者の恋愛について、現代を生き抜いていくために必要な心構えについてもアドバイスをいただきました。

--市川さんは奥様と中学の同級生として出会い、結婚されています。でも発達障害の当事者からは、奥手すぎたり、こだわりや執着が強すぎたりして「恋愛がうまくいかない」という声も聞きます。そのような人たちへアドバイスをお願いできますか?

まず、本人に「結婚したい」という思いがあるかどうかですね。恋愛や結婚において、発達障害者には主に3タイプあると思うんです。


1) 「ひとりで全く構わない」結婚する気がないタイプ

このタイプがぼくの周りには一番多いように思います。こういう人に一般的な価値観を押しつける必要はありません。だから無理することもない。 ただし、将来ひとりで生きて行くというリスクは覚悟して、それなりの準備はしておいた方がいい 。やはり何かあった時にひとりは辛いですからね。ぼくはひとりだったら確実に死んでいたと思う瞬間が今まで何度もありました。だから他者と共同生活を送る不快感と、ひとりで人生を送ることのリスクとを天秤にかけて考えるべきだと思います。


2) 結婚はしてもパートナーと割り切るタイプ

相手の理解が得られることが条件となりますが、お互い割り切って精神的には独立した関係で結婚生活を送るタイプ。発達障害者は趣味や興味の対象にとことん没頭するものです。そばにいても集中が乱されることなく、好きなことに意識を向けていられるような人とルームシェアしているような感覚でパートナーシップが結べるなら、将来のことを考えても実利的なメリットはあると思います。ぼくたち夫婦は、共依存にあるとは言いましたが、これに近い部分がありますね。ただし、よく相手を見極める必要はあると思います。


3) 愛を求めているけれど不器用なタイプ

ぼくはまさにこれですね。遺伝もあると思いますし、子供の頃に母親から濃密な愛を注がれて育った影響で、母親に似て恋愛体質になってしまったのもあると思います。幼稚園の先生に恋しちゃったりとか、子供の頃から女の人が大好きでしたね。でも、発達障害なのに恋愛体質というのは、非常に珍しいと言われます。だからこのタイプの人には特殊な事情があったのだと思います。それに、精神医学用語で「ハリネズミのジレンマ」と呼ばれるように、求めても近づきすぎるとお互いに針を刺してしまう。その距離感が難しいですよね。「発達障害の相手と、どうやって距離感を縮めればいいのか」というのは、まさにこの本を出して一番相談を受けたことでもありますね。

市川拓司さんインタビューの様子

自分が男であれ女であれ、急速に近づいてこられると拒絶してしまう。満腹中枢と同じで、あるところまでは美味しく食べられるけれど、あるところで苦しくなってしまう。どんなに好きな人でも不快感に展開してしまうんですね。ものすごく他人行儀な付き合いを5年くらい続けると、やっと友達くらいになれる。相手がそれに付き合ってくれるかどうかですよね。

ぼくは奥さんと15歳で出会って、3年間いつも一緒にいて19歳で初デートをしました。初めて手を握るのに1〜2年かかったかも知れない。今でも手を繋がれると固くなってしまうんですよ。でも、そこに合理的な理由があればいくらでも触れる。マッサージをしてあげるとか、横断歩道で手を引いてあげるとか、そういう何かしらの役割があって手を触れるのは大丈夫なんです。

それに、女性に対して「かわいいね」「綺麗だね」という言葉は簡単に言えるけど、「好きだ」とは絶対に言えない。つまり、客観的なことはいくらでも言えるけれど、主観的なことは言えない。だから奥さんにも言わないまま、なし崩しに30年です。それでもなんとかなるんですよ。最終的には相手次第になってしまうけれど、そういう障壁を一緒に超えられるような相手と出会えれば、このようなパターンもあると思います。

ぼくたちのようにお互い似た者同士の場合や、普通の人でも非常に懐の広い人なら、相手がこちらに合わせてくれることで、結婚生活も可能だと思います。例えばセラピスト、クリスチャン、保母さんというケースも聞いたことがありますね。性別を問わず、やんちゃな子供を眺めるような母性的な寛容さでもって受け入れてくれる相手であれば、発達障害者と普通の人との恋愛は可能だと思いますね。

ちなみに、ADHDとアスペルガーの組み合わせは、破れ鍋に綴じ蓋の典型だと言います。ADHDの人は社会性が強く、アスペルガーはどちらかというと閉じている。だから外交部門はADHDが全て引き受けてくれるんですね。うちはまさにこれだと思っていたんですけれど、最近になって実は似た者同士だとわかってきました。


--現在、ダイバーシティや多様性への関心が高まっていますが、このような時代の流れをどう思いますか? この流れは今後どのように変わっていくと思いますか?

海外に比べて、日本は特に遅れているという感覚ですね。多様性よりも均一化を善とする風潮がまだまだ強いというか。法制度は先行していても、人々の気分というものが立ち遅れているのかな、という気がします。

多様性に対する理解が今後もし進んでいくのであれば、発達障害者に限らず、人間の種にとっては非常に利点となるでしょう。一点突破する力は多様性の中にこそあるのだから、すべての人間にとって必須だと思いますね。でも、出る杭は打たれるとか、村八分とか、日本では昔から同調圧力が顕著な国。多様性をまとめるのは難しいものです。

市川拓司さんの書斎の様子

--発達障害への理解は進んでいると思いますか?
発達障害にはものすごく多様性があるし、今こうして話してきたことって初めて聞くような話だったと思うんです。発達障害は、それだけ深い部分で認識しないとわからないことなんですよ。発達障害やアスペルガーという言葉を耳にする機会が増えたかも知れませんが、それはブーム的なものだと感じていますね。そしてブームというのはいずれ消耗し、決して本質には迫れない。そういう危うさを感じています。ちょっと前のエコロジーやロハスと同じになりやしないかと。

情報というのは、情報以上でも以下でもなくて、結局体験がともなわないと知恵にならない。ほとんどのブームやファッションは、だいたい情報どまりで終わる。最終的に認識とか、ある種の深い共鳴というものは体験でしか生まれない。だからこそ、ぼくはこの本で発達障害の症状を羅列するのではなく、当事者の息吹きのようなものに触れて追体験をして欲しかったんです。追体験は疑似体験でもあるから、それこそが情報が知恵に変わる瞬間です。

日本のマスコミって、障害者を取り上げるとき、最初から先入観をもって物語を作っている節があります。事実この本だって、日本における発達障害の三天王と呼べる先生たちに関わっていただいたけれど、マスコミがこぞって取り上げるようなことはなかった。持って行きたいのはこっちじゃないから。かわいそうな人達がそれに負けずに頑張ってる姿を見せるという、お涙頂戴的なものじゃないと。ぼくはそれに一生懸命逆らっているんです。

このままだと、非当事者たちによるバイアスがかかって、発達障害とは違う人たちが発達障害と呼ばれるようになるのではないか。そういう危惧はありますね。いずれ日本独特の発達障害の認識というものが生まれていくような。きっとこの本だって、今まで見たことのないタイプの本だと思われるでしょうけど、ぼく的には発達障害関連本の王道を行く本だと思っている。この本を通して「アスペルガーとは本当はこういうものだ」と言いたかったんです。

プロフィール:

いちかわ・たくじ。1962年東京生まれ。2002年に『Separation』でデビュー。2003年発表の『いま、会いにゆきます』が映画化・テレビドラマ化され、文庫と合わせて140万部の大ベストセラーとなる。他の著作に『恋愛寫眞―もうひとつの物語』『そのときは彼によろしく』『こんなにも優しい、世界の終わりかた』など、恋愛小説の旗手として支持される。2016年6月に自身初の新書『ぼくが発達障害だからできたこと』(朝日新書)を上梓。

インタビュー:田中英代

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ライター Media116編集部

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