視覚障がいがあっても、もっと気軽に映画を楽しみたい! ~世界初!合成音声による音声ガイドを体験~
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!映画のバリアフリー化を加速するアプリ、Palabra社の「UDCast」について、これまでも何度かMedia116で紹介してきました。今回は視覚障がいのある方向けの合成音声ガイドについての体験レポートです。「映画の音声ガイドなんて、前からあるよ!」というみなさま、おっしゃる通りです。現在、音声ガイドといえばナレーターの読み上げ音声を収録したものが主流ですが、今回は合成音声による音声ガイドを体験しました。合成音声による音声ガイドが「世界初」なのです。
UDCast×合成音声で映画のバリアフリー化のハードルを下げたい!
映画館で映画を音声ガイド付きで鑑賞するには、現在2つの方法があります。1つは従来からのFM送信機方式です。この方式では、オペレーターが上映当日に機材を映画館まで持参し、本編が始まると同時に音声の同期作業を行った上で音声ガイドを配信します。利用者は手持ちラジオを持参するか、劇場で貸し出されたラジオで音声ガイドを受信します。この方式で映画を観賞するためには、対応する劇場と指定の上映回を調べて、狙いを定めて映画館に行く必要があります。
もう1つの方法はUDCast方式です。事前に無料アプリ「UDCast」と鑑賞作品の音声ガイドデータをスマートフォンなどの端末にダウンロードしておき、劇場内で上映前にアプリと音声ガイドを起動しておきます。本編開始が開始されると、埋め込まれた音声マーカーに反応して自動で音声ガイドが開始されるという仕組みです。UDCastに対応した映画であれば、上映期間中、全国のどの劇場でもどの上映回でも、ガイド音声を利用することができます。
今回、合成音声による音声ガイドが世界で初めて採用されたのは、アジア全域で高い知名度を誇る女優中山美穂さんと、TVドラマやロックバンド“Walrus(ヴォルラス)”のリードボーカルとして活躍する韓国の俳優キム・ジェウクさんがダブル主演を務める映画『蝶の眠り』です。監督は、作家性の高さに定評があるというチョン・ジェウンさん。プロデューサーは、映像作品のバリアフリー化を進めるNPO法人メディア・アクセス・サポートセンター(MASC)の理事長も務める山上徹二郎さん。
音声ガイドをもっと身近なものにしたいと考えていた山上さんは、視覚障がいのある方たちがメールやWebサイトを利用する際に読み上げソフトを利用していて、日常的に合成音声を耳にしているということを知って、UDCast対応の音声ガイドにフリーソフトの合成音声を採用することを最初から決めていたそうです。「お金を出せば、もっといい合成音声がいくらでもありますが、それでは合成音声を使う意味が半減してしまいます。フリーソフトを利用することで、予算が無い映画でも音声ガイドをつけられる可能性が大きく広がるからです」(山上氏)。
刻々とせまる“期限”に向かっていく二人の、切なくも美しい物語
『蝶の眠り』の主人公、中山美穂さん演じる綾峰涼子は人気女流小説家。齢50代前半にして、衰えぬ美貌を誇る涼子ですが、実は遺伝性アルツハイマーに侵されています。“精神の死”を迎える前に何かを残したいという思いから、作家活動のかたわら非常勤で大学の講師を務めることになりました。涼子は学生たちとの交流をきっかけに、居酒屋でアルバイトをする韓国人留学生ソ・チャネと出会います。翌日、チャネが忘れ物を届けるために涼子の自宅を訪れると、涼子の愛犬トンボの散歩係のアルバイトとして雇われることに。涼子は、どこか諦念めいた物憂さと、朴訥さを併せ持つチャネに信頼を寄せていきます。チャネもまた、トンボの世話係から、涼子の膨大な愛蔵書を収める書棚の整理を任されるなど、ともに過ごす時間の中で涼子の理知的ながら常識にとらわれない感性と、儚げな美しさに魅入られていきます。2人は程なく互いに距離を縮め、最新作の執筆を協力して進めていくのですが―。さて、涼子の運命は?2人の行く末はいかに。
音声ガイドでの映画鑑賞初体験! 合成音声には合成音声の良さがある?
上映中は、内容についていけなくなったり、あるいは効果音などに反応して反射的に目を開いてしまった時を除き、基本的に目を閉じて鑑賞してみました。以前、視覚障がいのある方が読み上げソフトを使用しながら文書作成やメールの送受信をしている様子を拝見した際に、その方の音声認識があまりにも速くて驚愕したことがあります。つまり前提として、合成音声を日常的に利用されている方と私とでは、合成音声への“馴染み”に相当の違いがあるのですが、それでも主演の2人に対する感情移入も、映画館特有の没入感も、しっかりと手ごたえのある映画鑑賞になりました。特に終盤の胸の苦しいことと言ったら…。逆らえぬ運命を抱えた涼子と、翻弄されるチャネと…(号泣)。あぁ、もうこれ以上は言えません!気になる方は是非、劇場へ!あるいはBlue-ray/DVDの発売、またはレンタル、オンデマンド配信をお待ちください (笑)
強いて気になったことを挙げるとするならば、次の4点かもしれません。
* シーンの切り替わりが早いと分かりにくかった
* 時間経過がテンポアップするとついていけなかった
* 登場人物の把握が難しかった
* 美しい風景描写がイメージしづらかった
今回の作品では小説家が主人公ということもあって、涼子が作品を読み上げながら劇中劇が展開する箇所が複数あるのですが、現実とのシーンの切り替わりが分かりにくかったり、2人の共同作業で執筆活動がスムーズに進みだすシーンで、時間の経過速度がテンポアップするような描写があり、ストーリーに置いていかれそうになったりして目を開けてしまいました。また、最初の方に少しだけ登場していた人物が終盤になってしばらくぶりに登場すると、(え?誰?)と、思わず目を開けて俳優さんを確認してしまいました。この点に関しては私の声で人物を認識する能力が弱いからかもしれません。あとは致し方ないことではありますが、美しい風景描写を情趣も含めて伝えたい場合には、生身の人間によるナレーションにはやはりかなわないのかもしれません。しかし、こうしてみると4つ目以外はどこでガイドを入れるか、本編にガイドを入れる隙があるかという点に課題があるのであって、合成音声か否かの問題ではありません。
体験してみて思ったことは、合成音声に不慣れな私でも思った以上にすぐに耳になじんだのは、そもそも音声ガイドはガイドなので、少々無機質な合成音声でも問題ない、ということです。 登場人物のセリフではないことが分かりやすくてむしろ良かったかもしれません。
映画のバリアフリー化はこんなにも進んできている!
MASCによると、日本国内で2016年に公開された邦画作品は610本。そのうち、劇場公開時に日本語字幕・音声ガイド付きでバリアフリー上映をした作品は7作品でした。しかし、翌2017年は、邦画公開作品594本中、対応作品は60作品にものぼり、対応率は2016年の1%から翌年には10%と、実に10倍の大幅な向上がみられました。UDCast方式の導入しやすさについては先に言及したとおりですが、合成音声の採用によって低コストで音声ガイドに対応できるようになれば、さらなるバリアフリー化が期待できます!(※洋画は海外の製作元に許可を求める必要があるなど課題があるとして、邦画のみを対象とした調査)
UDCastの対応率はまだまだ今後に期待したい数値ですが、ニーズがあればビジネスとして成立します。ビジネスが成立すれば、爆発的な普及が見込めます!さぁ、もっと気軽に、みんなで映画に行きましょう!視覚障がいや聴覚障がいの有無に関わらず、どんな人とでも一緒に映画館へ行って映画を楽しむことができる、そんな素敵な未来がすぐにやってきそうな予感にワクワクします!!
<関連リンク>
前回の記事[どこの映画館でもバリアフリー上映が可能に! ~聴覚障害者向け「『メガネで見る字幕ガイド』体験会」に行ってきました♪~]
映画『蝶の眠り』公式サイト
『蝶の眠り』上映劇場情報(株式会社KADOKAWA)
日本語字幕・音声ガイド作品一覧(NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター[MASC])2016年
日本語字幕・音声ガイド作品一覧(NPO法人メディア・アクセス・サポートセンター[MASC])2017年
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障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。
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