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「ありがとうと言う人から、ありがとうと言われる人に。」~株式会Charamax代表取締役竹之内幸子さんにインタビュー~

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ライター:Media116編集部

みなさんこんにちは。てんかんの当事者でありゼネラルパートナーズでライターをしているわにです。みなさんは障がいのあるご自身を育ててくれた親はどんなことを思いながら自分のことを育ててきたのか、気になったことがある方も少なくないのではないのでしょうか?特にご自身が仕事を持たれるまでの想いは・・・。
今回、広汎性発達障がいのお子さんを育て、ご自身で就労のサポートをした経験を持ち、その経験から障がい者の方の就労サポートをする会社を経営している竹之内幸子さんのお話を聞きました。取材の中で竹之内さんの障がい当事者に対する想い、障がいのある子を持つ母としての想い、障がい者の就労をサポートする社長としての想いなど、様々な角度からお話を伺うことができました。

「桜が綺麗だね」そんな会話もできないかもしれない。母として悩んだ日々

「桜が綺麗だね」そんな会話もできないかもしれない。母として悩んだ日々
お子さんが生まれ、育児奮闘中の竹之内さんがふとした時に感じていたのは「目をそらす赤ちゃんだな」ということでした。夜泣きがひどく、毎日の睡眠が30分~1時間という日々が1年以上続いたそうです。「夜泣きがひどいのはよくある話だな・・・」そう思っていたし、1歳半の検診まで問題なく育っていたそうです。
しかし、保育園に通うことになった時に他の子はすくすくと育ち、言葉もよく話すようになっていく中、竹之内さんのお子さんは「うー」「あー」など、会話をすることができなかったと言います。
心配になり、一度ちゃんと病院に行ったほうが・・・そう思いまずは児童相談所に行き、そして病院へ。
診断は「広汎性発達障がい」。

「その時の心境はどんなものでしたか?」という質問に対し、竹之内さんは
「障がいがあることに対して“がっかり感”というものはなかった。なんとなく気づいていたし、障がいは“事実”なので。」
そう答えました。さらに、
「医師から今後一生人と会話が成立しないかもしれない、と言われたときには、『ほんとに!?桜を見て綺麗だね、と言ってうんそうだね、綺麗だね。という相槌が返ってこないかもしれないのか!』と思いました。ということは、この子は一生誰かの助けを借りなきゃ生きていけない、私が生きているうちは良いけれど、死んだ後はどうなるだろう?先の見通しがつかないということに一番悩みました。」

「ありがとう」をもらえる人へ

竹之内さんは「自分が死んだあと、どのように周りの人に助けてもらったらいいのか」と考えた時に、周りに助けをいただく中で、本人が、相手に感謝の気持ちを表現できないことは悲しいことだな」と考えたそうです。そのため、まず最初に「ありがとう」と言える人であってほしい、と思ったと言います。
この「ありがとう」こそが竹之内さんとお子さんの今後の生活の軸となる言葉でした。

「『すみません』より『ありがとう』と言える人がいい。だって『ありがとう』と言ってくれる人には、助ける側、お世話する側も、また、快く行動したくなる。でも『ありがとう』と言ってばかりも可哀想かな。と考え、ゴールは他者からも『ありがとう』と言ってもらえるような人になってほしいと考えました。」

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サポートされるだけでなく人の役に立ち、他者との関わりの中で自立して生きていってほしい。
そのためには『ありがとう』という言葉は必要不可欠なものだったのです。
『ありがとう』の言葉を大切にできる子を育てるには、どうしたらいいのか?そう考えた際に竹之内さんは「親のプロ」になることを決めたのでした。

「親のプロ」とは?

障がいがあっても、働き、人に「ありがとう」を言える、そして人からも「ありがとう」と言われるような人間に育てたい、自分も周囲も幸せになるために・・・。それを実現するためには「親のプロ」になる必要があると竹之内さんは考えました。
「妊娠中に私の生活の仕方がダメだったのでは…とか、自分の感傷に浸って悩もうと思ったらいくらでも悩めるのですが、悩んだところで彼の障がいはなくならない!と思ってやめました。後悔したところで何の手助けにもならない。なりたい未来を実現させることに注力しよう」と思ったそうです。自分の感情に流されず、子どもの将来に繋がる目的を持って子育てしていくことが親のプロとして生きる覚悟をもったとのことです。

今のようにネットもなく、情報が無い中、悩んで前に進まないという行為が、なんとなく息子にとって「手遅れ」になるという思いがあったように思います。と、竹之内さんは続けて言いました。
障がいはなくなるわけではない、より良く生きるための手段に集中する・・・
竹之内さんはお子さんが小さい時にはよく同じ障がいを持つ親の集まりに参加していたそうですが、その時に感じたのは「障がいのある子どもを持つ親の多くは子どもと一体化しているように見える」ということ。わが子に降りかかる困難を、自分の困難として捉える。わが子は自分の一部のように思うので、何かと何でも先に庇いたくなるという心理があると思ったそうです。

しかし、竹之内さんは「子どもの困難は私が代わってあげられない。だから、客観的に子どもをみる。俯瞰的にゴールをみる。」自分とお子さんを切り離して、別の人間として尊重することによって子ども自身の『できること』が増えるのではないかと思ったそうです。
この時に彼女が掲げていた「ゴール」は「自立」でした。
だからこそ「仕事をすればお金がもらえる。もらったお金で好きなことができる。仕事があるということは有難いこと。働くことが人の幸せにつながる。」そう何度も何度もお子さんに言い聞かせたそうです。

「できないこと」よりも「できること」にフォーカスする

ご自身が早生まれで、幼稚園時代や小学校低学年時代までは身体も小さく、他の子が出来ることも出来ないという記憶が鮮明にあるという竹之内さんは「障がいの有無に関係なく、できない中にいるよりもできることを探す環境で子どもを育てたい」
「できる」を増やしてあげられる環境にいてほしいからこそ、無理に普通学級にお子さんを入学させず、特別支援学級へ進学させたと言います。
「普通学級に入ることにより、自分が周りより“できない”経験をたくさんしてから特別支援を受けられる場所に行っても、「できない」という思いが強くなってしまってからは、自己肯定感が持ちにくいと思ったんです。子どもの可能性を広げるために“できる”ことを増やせる環境に置くというのが子育てには大事だと私は思いました。」
息子さんは特別支援学級に進学し“できる”ことが増え、それに比例して笑顔も増えたと言います。「特性と向き合って伸ばせるところを伸ばせる時期に伸ばしていく。」竹之内さんは言いました。

現在お子さんは25歳で社会人8年目だそうです。卒業から一貫して大手レンタル会社に勤務していて、掃除、商品の貸出・補充、お客様対応など様々な業務ができるようになってきたと言います。
お子さんが中学生の頃から「仕事があることが有難い、仕事をしてお金をもらう。もらったお金で好きなことができる。それが幸せ。」何度も何度もその会話をし、働くことへのポジティブイメージを刷り込んでいったそうです。
仕事でできたことが形になって喜ばれることの嬉しさや、自分がされたら嬉しいだろうということをする、という考えが刷り込まれているからこそ、息子さんは仕事に対して「疲れた」とはいっても中身に対しての「不満」などは言わないことが私の自慢です。と言う竹之内さん。

そして障がいのあるお子さんの就職をサポートした経験と、今までダイバーシティ推進コンサルティングの会社を経営してきたノウハウを活かすために2017年「株式会社Charamax」を起業されました。竹之内さんの会社では障がい者を「サポートされる対象という当事者」ではなく「一緒に成果を出す仲間」だという認識を企業とすりあわせを行い、障がい者の採用支援・強みを活かす定着支援、キャリア支援を行っているそうです。障がい者の「ケア」というのは、障がいがあるから「ケア」するのではなく、組織の目標を達成するために仕事をする上で能力を発揮するための「ケア」が必要という意識を持つ企業が増えてほしいと強く言っていました。

「できないことを悲しむのか、笑顔の子供を見るのか、どちらの自分がハッピーか?」当事者家族に伝えたい想い

「障がいのある子どもを育てるということに悩まれているご家族の方も多いかと思います。その方々に伝えたいことは何ですか?」と質問したところ、
「障がいの有無に関係なく、どっちの自分がハッピーかという問いをたてることです。できないことにフォーカスを当てることなのか、できるじゃん!とにっこりする子どもをイメージすることなのか。どっちが好きか?それだけです。」そう竹之内さんは言いました。彼女のように「どちらの自分がハッピーか?」と考えられるお母さんは多くないかもしれません。どのお母さんも色んなことに悩んで、試行錯誤して、道に迷いながら自分の子育ての仕方を見つけていくのでしょう。しかし、彼女が「できることにフォーカスして育てる」そう決断できたのはきっと「笑顔の我が子を見たい」その一心だったのでしょう。

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自分が幸せになれると思う方向を向いて子育てをしていくことが大切だと竹之内さんは言います。
「ウジウジしていたほうが何もしなくてラクです。でもその時間が長くなるほど抜けだしにくくなる。どっちの自分が好きかイメージすることが大事なんです。自立できるのがハッピーだよね、という感覚を持ってほしいと思います。障がいによっては難しいかもしれないけど、より良いということを目指していくこと。物事や行動に自分が好む意味付けをしていくと良いです。自分がハッピーか、を見つめない限り他者を見つめられないので。」

取材を通して、いち当事者として感じたこと

今回竹之内さんの取材をさせて頂き、いち当事者としてまず思ったのは、「多くのお母さん達は竹之内さんのようにキッパリサッパリと色々な物事を決断し、割り切り、子どもを導いていくことは難しいんだろうな」ということでした。私が17歳で側頭葉てんかんを発症してから母は突然「障がい児の母」になりました。これまでとは変わる私の体調や生活に、日々悩んだことでしょう。私の子育てでどれほど悩ませたか、今もどれほど悩ませていることかわかりません。そして母自身何度戸惑い、迷い、苦悩してきたか想像もつかないほどです。私の母は竹之内さんとは全く違う子育ての仕方をしてきましたが、竹之内さんのお話を伺って共通して感じたことは「母は強し」、その一言でした。きっと自分が子の親になった時、身に染みてわかることなのだろうと近い将来を想像し、その時には母に心から「ありがとう」と言おうと決めたのでした。

プロフィール:
たけのうち・ゆきこ。
2012年8月 株式会社Woomaxを設立。女性の社会進出・活躍のためのサポートをする。
2015年6月 株式会社アイネット 社外取締役就任。
2017年7月 株式会社Charamax を設立。組織の多様性推進に従事してきたことと自身の障がいのある子供を就職させた経験から、障がい者活躍支援のサポートをする。また、2018年は、子どもに障がいがあっても自立を目指す保護者のためのネットワーク「カルミアサロン」を起ち上げる。著書には『思い通りの人生に変わる 女子のための仕事術』(ダイヤモンド社)、『なぜ女性部下から突然辞表を出されるのか』 (幻冬舎経営者新書)を出版。

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ライター Media116編集部

障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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