「障がい者と一緒に暮らす」シェアハウス「MAZARIBA」インタビュー!
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ライター:くらげ
現在、日本では障がい者の「自立」についての議論が盛り上がっており、様々な分野で障がい者が活躍する機会が広がってきました。しかし、障がい者が「生活する」という視点からするとまだまだ不十分な点が少なくありません。
その「生活」に関する問題の一つとして「住める家」がないことが挙げられます。障がい者がやりたいことがあったり仕事のために親元を離れて生活したい!と願っても、障がいがあることを理由にアパート等の賃貸契約を結べないことも珍しくありません。
今回は、このような障がい者の住居問題の解決を「障がい者と健常者が一緒に暮らす」を謳うシェアハウス「MAZRIBA」で挑む内田勉さんにお話を伺いました。
「障がい者と健常者が一緒に暮らす」シェアハウス「MAZARIBA」とは?
ー MAZRIBAを作るきっかけになったことを教えて下さい
私は以前から事業としてシェアハウスを数軒手掛けていました。この頃は特に障がい者に興味があったわけではないんです。しかし、2017年に知り合いの不動産屋の人から「シェアハウスの空きはあるか」というと問い合わせがあったことがきっかけで障がい者の住宅問題について知りました。シェアハウスの空きがあると言ったら相手は「入居したいという人は聴覚障がいあるけど大丈夫?」って聞いてきたんですね。彼は耳が聞こえない人に対して、ほとんどの大家さんが入居を断るというんです。これにはびっくりしました。それで、知り合いの聴覚障がいのある人に「実際、不動産で断られるの?」と聞いたら「普通に断られますよ」と言われて衝撃を受けました。
ー それまで障がいを理由に入居が断われるという考えがなかった?
そうですね。車椅子だったり寝たきりだったり、そういう人は確かに入居が厳しいなと思うんですけどなんで聴覚障がいのあるってぐらいで入居を断らなきゃいけないのかなと思いました。私はもともと理不尽なことに対して我慢がならないたちで、そういう問題があるなら「じゃ、障がいのある人たちでも住めるシェアハウスを作ろう」と考えました。
(MAZARIBA外観)
ー 福祉施設などではなくシェアハウスで解決しようと思った理由は何でしょうか?
その方が自由度が高く柔軟に対応することができると思ったからです。反面、どうしても手厚い支援が必要だったり完全なバリアフリーが必要な方を平等に受け入れられるかは難しいです。
ー 実際に立ち上げてみて障がい者を受け入れる難しさなどはありましたか?
バリアフリーについては「MAZARIBA」を作ってみて切実に難しさを感じました。車いすの方が座ったままトイレに行くことが物件的に難しかったり、階段が急なので視覚障がいの方の安全性確保が難しかったり…。受け入れたくても危険があったり経済的な問題でお断りしなくてはならないこともあります。ただ、できる限りのことはしたいと思っていて、様々な工夫を取り入れています。
ー どのような工夫でしょうか?
いまのところ、スマート家電(Amazon Echo,Google home)の導入が大きいです。照明のON/OFFを音声でできたり、エアコンを消し忘れた場合でも自動でOFFになるようにしました。手が不自由な方を想定して導入したのですが、結局、私が一番使っています(笑)リモコンをなくしてしまうので。また、聴覚障がいのある方とのコミュニケーションはチャットアプリを活用したりしています。暗所恐怖症の人が泊まりに来た時は、みんなで電気を消さないようにするなど工夫をしましたね。あと、掃除は入居者が分担して行うのですが、障がい者だけでなく健常者でも得意不得意があるので、うまく配分するようにしています。
ー 障がい者を受け入れてなにか内田さん自身が変わったことなどはありますか?
私は自分のシェアハウスを転々する生活をしているのですが、入居していただいた障がいのある方と「MAZRIBA」で生活すると意外と「普通」だなぁって。僕たち健常者が「障がい者と暮らす」というとどうしても「あれもしなきゃこれもしなきゃ」と考えがちなんですけど、聴覚障がいの入居者とかコミュニケーションはチャットを使えば困りませんでしたし、ほかの方も「障がいがあるから」という意識で暮らしてはいないですね。なんというか「自然」だなと。
ー 現在、何人くらいがお住まいなのでしょうか?
現在は10人の入居者がいます。
ー 経営的には順調なのでしょうか?
実際のところ、あまり集客率は良くなく、赤字が続いています。普通なら満室になるところが「障がい者」というテーマが入っていることで逆に敬遠されるところがあるのかと感じますし、そこで辛さは正直あります。
ー それでもMAZARIBAを続ける意味などは感じていますか?
それでも「障がいがあるから家を借りられない理不尽さ」への問題意識は今でも持ち続けています。もう少し広報や情報発信を頑張っていきたいですね。また、MAZARIBAを地方に住む障がいのある方が上京する際の拠点にするとか、仕事を探すための一時的な場所にするとかができる場所でありたいと考えています。
ー MAZARIBAに入居するために必要なものは何でしょうか?
「MAZARIBA」は基本的な家具・家電はシェアして使ってもらいますから、初期費用(初月家賃含め約5万円〜)と着替え、布団などを持ってきていただければ入居していただくことが可能です。ただ、障がいの有無に関なく、事前に相談していただく必要はあります。月額は25000円~で障がい者年金受給者ならなんとかそれだけでやりくりできる額じゃないかなぁ、と。家賃が安ければ自由度が増えることもあると思いますが、それは障がい者でも同じだと思います。日本の障がい者はあまりに自由・選択肢が少ない。そういう問題を打破するためにはMAZARIBAのようなところも広がっていけばいいと考えています。
取材を終えて
私がMAZARIBAに伺ったのは、建物内にあるリビングルームで障がいや様々な事情を抱える方々のトークショーを開催する日で、この日はユニークフェイス研究所所長で「ユニークフェイス」の概念を提唱した石井政之さんの講演がありました。イベント会場には10人ほどの参加者で満員で、ユニークフェイスとはなにか、どのような困難がありどうやって対処していけばいいのか、と自分の経験を熱く語る石井さんの話に聞き入っていました。
(内田さんと入居者の石井さん)
この石井さんもまたMAZARIBAにお住まいとのこと。東海地方から東京に移住する際に「自由で気楽、すぐに住めるから」という理由でここを選んだそうです。「MAZARIBAのある川崎市は数々の社会問題の最前線だが、MAZARIBAもオーナーの内田さんも個性的で最先端だ」と笑っていました。
トークショーが終わった後はMAZARIBAの入居者やイベントの参加者同士の交流会が行われ、和気あいあいとしつつ社会問題について熱く情報交換が行われていました。参加者等にも障がいを持つ人がいましたが、特に意識すること無く自然に混じり合っているのが印象的でした。
■「MAZARIBA」についてはこちら
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ライター くらげ
重度聴覚障害と発達障害(ADHD)と双極性障害ですがなんとか仕事して生きてます。著書に「ボクの彼女は発達障害(1,2巻)」(学研)がある。ブログ「世界はことばでできている」( http://kurage-official.com/ ) では「障害者としてどう生きていくか」を軸に色々グダグダ悩みつつ語っています。この記事が公開される頃には既婚者になっている見込み。
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