ネコのようにまったりと……大人の発達障がい者、憩いの場「Neccoカフェ (ネッコカフェ)」
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ライター:大河内光明
社会的認知が広がってきたADHD,ASD,LDなどの「発達障がい」。児童や求職者への支援は充実する一方、心理的な居場所づくりについてはまだ十分とはいえないのが現状です。 今回取材したのは、2011年から大人の発達障がい当事者に憩いの場を提供する目的で始まった「Neccoカフェ」。オーナーの金子磨矢子さん(68)は 家族や自分自身にも発達障がいがあるとわかった中で、「当事者同士がいつでも実際に会って話せる場所が必要」と確信したといいます。 開店時の思い、こだわりのメニュー、コロナ禍での運営についてお伺いしました。
<隠れ家的な雰囲気でまったりと>
東京都新宿区、西早稲田。 学生街も近く、ラーメン店やエスニック料理店が軒を連ねる早稲田通りに「Neccoカフェ」は店を構えています。ちょっとした隠れ家のような風情 で、目印は看板1つ。ビルの階段を上がった先には、温かみのある空間が広がっています。
(写真上)▲並んだ楽器類。コンサートが開かれることも。
本棚には発達障害関係の書籍がずらり。お客さん同士で交流するためにと置かれたボードゲームなども豊富で、一人でも、複数人でも寛げる空間になっています。
「今はまんえん防止等重点措置が出ているのでカフェは休業にしていますが、時々スタッフで再開する日のための準備をしています。Neccoカフェには音楽好きな人が多いので、コロナが終息したら音楽イベントをたくさんやりたいと思っています。だから今は音楽室みたいになっていますね。カフェスタッフのふっしーは歌とギター、カメちゃんはアコーディオン奏者なんですよ」
こう話すのはオーナーでコーディネーターの金子磨矢子さん(68)。発達障がいを抱える人の相談にも乗る「お母さん」のような存在です。 カフェスタッフは金子さんも含めて全員、発達障がいの当事者。こだわり抜いた焙煎豆で煎れたコーヒーと、Neccoカフェ専用に調合されたハーブティーがおすすめだといいます。
「カフェ発案者の中根毅さんはバリスタの勉強をしていたんです。新宿の名店で修行をしてきNeccoカフェでバリスタと名乗っていいよとマスターに合格をもらえたので、ここをカフェにしたんですよ」
イベントとしては、音楽会やゲーム会の他にも社労士さんの無料相談会、 障害者雇用を考える会、年齢ごとの当事者会、公務員や医療職など職業ごとの当事者会などが行われてきました。 残念ながら現在は休業中ですが、普段は月曜日が定休日で、平日14時から開店しています。
<自身の発達障がい発覚…オープンまでの道のり>
今年でオープン11年目を迎えるNeccoカフェですが、オープンの動機は、家族や自分自身に発達障がいの診断がついたことだったといいます。
「最初は子どもだけの障害とされていましたが、大人になった発達障がい当事者も当然いることがわかり、私も高機能広汎性発達障害の診断を受けました。私は『超』のつく不注意型。ただ単に頭が悪くて努力のできないダメな子だと思っていたんですが、生まれつきとわかったのは目から鱗でした。 こんな嬉しいことはありません。これはまだ気が付いてない人に教えてあげたいなと思いました。今度は自分自身が発達障害のことを広める啓発活動をしようと思うようになったんです」
最初は小規模な集まりでしたが、当時流行っていた会員型SNSなどでどんどん人が集まるようになり、毎月地域の会議室を借りて交流するように。
「こんなに変なのは自分だけだとそれぞれが思っていたのが、実際に会ってみると『他にもいるんだ!』となって。それが嬉しくて、実際に会って話せるのは素晴らしいことだと思いました。いつでも行ける居場所を作る必要があるなと思うようになったんです」
そして2011年についにカフェをオープン。今ではおなじみのお客さんも増え、若い当事者やメディアの取材なども訪れるようになりました。Neccoカフェ は当事者同士だけでなく、社会と発達障がいの当事者を繋げる役割も担っています。
<この10年間での変化、コロナ禍での運営について>
発達障害者支援法は2016年に改正。これまでより広範な支援が受けられるようになり、それに伴って社会的な認知も得られるようになりました。2011年から当事者カフェのオーナーとして、その様子を見守ってきた金子さんはこの変化をどう考えているのでしょうか。
(写真上)▲オーナーの金子磨矢子さん(68)
「確かに障がい名は広まってきていますが、実態は知られていないと思います。名前ばかりが一人歩きしていますね。障がいのある人ない人に関わらず、ひとりひとりは違う。たったそれだけのこと、わかってくれればいいんじゃないかと思います。日本は同調圧力も強く、ある特定のことに関 して『これができなければ人間じゃない』みたいな冷たい風潮がありますが、できなくたっていいじゃないですか。できる人がやればいい。凸凹を お互い助け合ってやっていきたい。Neccoカフェがそういう優しい気持ちになれる場になったらいいなと思っています。」
加えて、コロナ禍での当事者やカフェの今後についてこう語ります。
「当事者の中には、HSPと言われるような、ひといちばい繊細で不安の強いタイプの方も多くいます。コロナ禍では絶対に集まりたくないし、カフェもイベントも中止するべきという人もいれば、その反対に、全く気にせずに普段通りの生活を続けてる人もいるんです。Neccoカフェは東京都の感染防止対策に遵守していますが、それでもウイルスはどこからやってくるかわからない。やっぱりカフェはこの間は休業にしようと判断したのです。家にいて家族の折り合いが悪化している人やコロナ鬱になっている人も多いですね。寂しいから開けてほしいという声もたくさんあるのですが、この状況ですからもう少しお待ち下さい。様子を見ながら徐々に再開していきます」
まったりとくつろぐネコのイメージからネーミングされた「Neccoカフェ」。今後も発達障がいのある人たちの憩いの場としてカフェ営業を続けていくそうです。
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ライター 大河内光明
1994年生まれ。早稲田大学政治経済学部国際政治経済学科を卒業後、web出版社、裁判所事務官を経て副業でライターに。発達障害(ADD,ASD)の当事者であり、民間企業の障害者雇用で働く。
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