一つじゃない 第11回
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ライター:風来坊
ニワトリの鳴き声は「コケコッコー」と表現されますが、
アメリカでは「クックドゥドゥルドゥー」
フランスでは「ココリコ」
と表現されているそうです。
同じモノなのに受け手が変わるとまったく違うモノのように見えてしまうモノがあるようです。
では、法律(制度)はどうでしょうか。
受け手が変わると内容も変わるでしょうか。
そんな曖昧なモノは法律でもなんでもないですよね。
では、そんな曖昧な法律が存在するのでしょうか。
措置入院という制度の使い方も一つじゃない
日本には「措置入院」という制度があります。
措置入院は「自傷(自分を傷付ける)他害(人を傷付ける)」の恐れのある精神障がい者を都道府県知事の権限で精神科に強制入院させる制度です。
しかし、措置入院は「やまゆり園事件の犯人(以下A)」が措置入院経験者ということで様々な報道機関が「措置入院は人を傷付ける恐れがある危険な障がい者を隔離する制度」と誤った報道をしたことで社会に「措置入院経験者=危険人物」というイメージが定着してしまいました。
では、本当に措置入院経験者は危険人物なのでしょうか。
措置入院は、独房に隔離されるのではなく、多くの入院患者と同じ病棟に入院します。ですから実際に人を傷つけるような精神障がい者には措置入院は適用されません。
実際に人を傷付ける精神障がい者は「医療観察制度」等の制度が適用されるため報道機関が発信した「措置入院は人を傷付ける恐れがある障がい者を隔離する制度」ではないのです。
こういった誤った報道は措置入院経験者が社会から排除されるきっかけになってしまうので報道機関には無責任な発信を辞めて頂きたいものです。
しかし、「だったら、Aは措置入院で治療されたのになぜ事件を起こしたんだ?」という疑問が残ると思います。
それには、私の経験(パワハラ被害に遭い自殺を繰り返し措置入院になった)から紐解くことができるかも知れません。
M県では措置入院を「めんどくさい障がい者を黙らすための懲罰」として運用されてきました。
閉鎖病棟では、汚れた衣服を変えてもらえない、ごみ箱に落とした薬を飲ませる、看護師が患者の私物を失くす、看護師が患者に一発芸を強要する、看護師の憂さ晴らしの相手にされる、苦情を言う障がい者には看護師が「自分たちに逆らうと退院させない」と脅す等の虐待が日々行われ、精神障がい者は主張も反抗もできなくなり無気力になったところで措置入院は解除(退院)になります。
また、無気力状態にして退院させた後はM県では一切の相談を拒否します。この私の措置入院の経験をAに当てはめると、
都道府県が「不安定な状態」のため該当者に措置入院を命ずる
↓
一定期間拘束し無気力になったところで措置入院解除
↓
措置入院解除後は助けを求められても都道府県は面会を拒否し続ける
↓
措置入院経験者は社会的に孤独になり追い詰められ「不安定な状態」になり「危険な状態」へ悪化
だったのではないでしょうか。
こうした制度の不備を認めた国は、やまゆり園事件後「退院後支援計画」という措置入院解除後も一定期間都道府県が措置入院経験者に継続的に関わる制度が追加されました。
もし、Aに適切な支援を国(都道府県)がしていたら事件は起こらなかったかも知れません。
※本記事は犯罪を肯定しているのではなく制度の不備を指摘しています。
措置入院の対象者も一つじゃない
「障がい者は私たちプロの社会人戦士から見たら、目障りかつ邪魔以外、何者でもありません。お願いですから、障がい者はこの世からすべて消えてください。」
これは2017年07月26日放送のハートネットTVに寄せられた声です。
こうした声は、明確に他者(障がい者)の存在を否定し、その存在の消滅を求めているので「殺意」と言えないでしょうか。
では、思い出してください。
措置入院とは、
「自傷他害の恐れのある精神障がい者を県の権限で強制入院させることができる」制度なのです。
実際に人を傷付けることはしていないにしても、テレビ番組に意見として堂々と「障がい者はこの世からすべて消えてください」という主張を声高に宣言できるということは自分のコントロールが出来なくなってしまっているので既に「他害の恐れがある」対象者です。また、実際に他者を傷付けた場合は「医療観察」等の措置入院とは違う制度の対象者になります。
人は様々な思想を持っています。
思想は頭の中にあるうちは自由ですが、それを他者にぶつけたときそれは主張に変わります。
こうした説明をすると
「日本は自由が保障されている国だから何をしても良い」
と反論されることがあります。
しかし、日本の自由は「公共の福祉に反しない限り」と規定されています。
つまり、「人の迷惑にならないことなら自由にして良い」が日本の自由なのです。
では、これを踏まえれば
「オマエが嫌いだ」と思う事と「オマエが嫌いだ」と相手に伝えることのどちらが悪いことかは明らかですよね。
この「悪いこと」の判断が出来なくなり「他者(障がい者)の存在の排除」を強く主張している人こそ措置入院で「治療」する必要があるのかも知れませんね。
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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