学生プロデュース! 視覚障害グッズが商品企画で全国優勝するまで
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ライター:榎戸篤(えのきど)
2020年、大学の商品企画の全国大会「Sカレ」で、ある商品が125チームの頂点に立ちました。それは「デコペタシール」。凹凸がついたシールで、見えなくても触れるだけでカードなどを区別できるようにする商品です。
今回は、その「デコペタシール」の開発を行った法政大学経営学部の学生さんにインタビュー。商品開発の裏側から、大会での秘策などを語ってもらいました。
ある視覚障がい者との出会いが、はじまりだった。
宮越萌実さん・内田彩都さんたちはゼミの仲間で大会に出場することになりました。しかし当初は視覚障がい分野に着目していなかったといいます。
「私たちには『社会課題を解決する印刷製品』というテーマが与えられました。社会課題と聞いて、ごみ問題や環境問題といったことがまず出てきたんです」と2人。
しかし、メンバーの1人が過去のある体験を思い出したことで、発想が変わったといいます。
そのメンバーは、以前視覚障がい者がコンビニのレジで会計している姿を目撃。その人は、カードを探していましたが見つからず、困っていたというのです。
「それを聞いて、自分たちが当たり前にやっていることでも、不自由を感じている方がいるんだ、と再認識しました」と宮越さんは話します。
そこから、内田さん・宮越さんたちは視覚障がい者がどのように物を識別しているか調査することにしました。
デコペタシール開発秘話
次に宮越さん・内田さんたちは、実際に視覚障がい当事者の見えない世界にふれるため「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という暗闇を体験できる施設に赴きました。
その際、クレジットカードに付いた凹凸で当事者がカードを識別していること、宅急便の不在票は切り込みで配達業者がわかることなど、触るだけで識別ができる工夫が身近にあることを知りました。
一方で、まだ課題もあるのではないかとも感じたそうです。
「(これとは別に当事者から話を聞いてみると)同じ形をしているけれど、中身が違う物の識別が難しいという声を多くいただきました。たとえばレトルト食品や調味料などは、パッケージを触っただけでは中身がわからない。そういった部分で困っている方がまだいるのではないかと思いました」と宮越さんは話します。
そこで、内田さん・宮越さんたちは、同じような手触りの物でも物を識別できるよう貼り付ける凹凸が付いたシール「デコペタシール」を考案。試作品も作り、当事者にヒアリングを行うことにしました。
しかし順調にいくことばかりではありませんでした。
最初は「形がわかりにくい」「シールがはがしにくい」といった声も多かったそうです。「全然わからない」という声も。メンバーはそのようなアドバイスに感謝しつつも、改善の方向が見えず、「どうしようか」と落ち込むこともあったといいます。商品開発に暗雲が立ち込めました。
ただ、共感や応援の声も多かったといいます。
「それが活動の励みになりました。私たちの方向性自体は間違っていなかったんだ。そう感じました」内田さんは語ります。
そのような声を支えにし、メンバーは商品の改善、ヒアリングを続行。
初期の試作品はハート形や星形などの絵柄も多かったそうです。しかし、「ドット柄やストライプ柄など点や線で作ってあるシールが読み取りやすい」という意見が多く、そのような物に絞っていったといいます。
気が付くと、ヒアリングした人数はのべ61人に及んでいました。
その努力の結果、「わかりやすくなった」という声が多く寄せられるようになったのでした。
いざ、大会へ。
いよいよ大会当日。
新型コロナのまん延によりオンラインでの開催となり、一人一人画面に向かって挑むことになりました。
内田さん・宮越さんたちは発表をするにあたり、考えていたことがあるといいます。
それは審査員に目を閉じてもらい、見えない世界をイメージしてもらうというものでした。
視覚障がい当事者とあまり関わったことのない審査員が多い中、商品の必要性をより実感してもらう工夫です。
また、もう一つ。
宮越さん・内田さんたちは、ヒアリングで集めた視覚障がい者の生の声を多く紹介。
実際に視覚障がい者がどのように苦労しているかを知ってもらうことで、想像を膨らませ、商品の必要性を理解してもらうという工夫です。
内田さん・宮越さんたちは61人の当事者に代わり、視覚障がい者の日常の苦労・困難を丁寧に語っていきました。
そして発表は無事終了。
あとは順位の発表を待つだけとなりました。
この大会で勝てば、作品の商品化の権利を得ることができます。
作品の構想から、ダイアログ・イン・ザ・ダークへの取材、数々の当事者へのヒアリング。これまでの努力がどう結果に結びつくのか、「商品化」という形になるのか、メンバー全員に緊張が走ります。
審査員が説明を終え、いよいよ優勝チームの発表。審査員が口を開き、名前をあげた商品はデコペタシールでした。「視覚障がい当事者の困りごとを解決したい」という思いが形になった瞬間です。メンバーの胸に熱いものが込み上げてきました。
「優勝が決まったあと、電話で『やったね!やったね!』とみんなで言い合いました。私は自分の部屋で涙をこぼしてしまって。本当に言葉にできないぐらいの感動でした」内田さんはその時のことを、こう振り返ります。
おわりに
最後に、内田さんはデコペタシールについてこう語ってくれました。「これから、これスゴイいいね!ここにも使える!ここにも使える!と皆さんに言ってもらえるような商品になったらいいなと思っています。ずっと長く使ってもらえるような。」
全国大会で優勝した視覚障がい者用グッズ、その開発の裏側には学生さんたちの熱い思いがありました。
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ライター 榎戸篤(えのきど)
テレビ番組の制作会社で働きながら、ライターとして活動する視覚障がい当事者。3歳の時、保育園で転んで怪我をし、弱視に。視力は左0.06、右0。 障がい当事者ら向けの旅行サイト「COTRAVEL」などで執筆中。 https://www.cotravel.jp/mypage/5e9438bd76fc4/ 記事のご感想などありましたら、こちらにいただけると有難いです。 uj092021@yahoo.co.jp 記事は、ひとつひとつを丁寧に、懸命に、心をこめて・・・書かせていただきます!
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