放てカウンター!スズキ!! 障がい者は生産性がないのか?
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ライター:風来坊
ある事件で「障がい者は生産性がない」「障がい者は価値がない」と叫んだ者がいた。
それに賛同する者も現れた。
「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の主張する「生産性」とは何か。
「障がい者は価値がない」と叫ぶ者の主張する「価値」とは何か。
障がい者には本当に「生産性」がないのか。
障がい者には本当に「価値」がないのか。
根拠のない暴力(主張)に根拠を持って挑む!
<生産性とは?>
ある事件で「障がい者は生産性がない」「障がい者は価値がない」と叫んだ者がいた。
それに賛同する者も現れた。
彼らの主張する「生産性」とは何だろうか。
本来の「生産性」とは「生産過程に投入された労働力その他の生産要素が生産物に貢献する程度(広辞苑)」である。
では、自身の生産性を知る者がどれ程いるだろうか。
日本人の多くが被用者であるから被用者をイメージして述べるが、被用者が雇用主から「君の働きによっていくらの売り上げが出た」と正確に伝えられるものだろうか。
私の会社員時代は「給料をもらう」ことばかり考えていたので会社の売り上げなど考えたこともなかったし、会社から明示されることもなかった。むしろ、売り上げを聞くのはタブーとさえ思っていた。
それから考えると、自身の「生産性」を把握していないのに他者の「生産性」を批判することはできないので「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の「生産性」は、本来の「生産性」ではなく、「労働」や「収入」を指しているものではないだろうか。
今回は、本来の「生産性」ではなく、彼らの「生産性」を基に彼らの主張に向き合うことにする。
<障がい者は本当に生産性がないのか(労働)>
「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の「生産性」は「労働」を指していると思われる。
そうだとするなら、障がい者は本当に「生産性がない=働いていない」のだろうか。
宮城県牡鹿郡女川町の数字を基に「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の主張と向き合うことにする。
女川町の特別支援学校高等部卒業生の進路は、
平成30年度 障害者雇用による一般就労 24/24人
令和元年度 障害者雇用による一般就労 25/26人 就労移行支援 1/26人
令和2年度 障害者雇用による一般就労 25/25人
となっている。
それと比較して、令和2年の大学・短大への現役進学率は
大学 51.1%
短大 4.2%
であり、高等学校卒業生の55.3%は進学するため「生産性がない=働いていない」ことになるが、同年の女川町特別支援学校高等部卒業生の就職率は100%であり、高等学校卒業生より特別支援学校高等部卒業生の方が「生産性がある=働いている」ということになる。
「障がい者は生産性がない(=働いていない)」という主張は、この数字と矛盾していないだろうか。
<障がい者は本当に生産性がないのか(収入)>
「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の「生産性」は「収入の多さ」を指していると思われる。
そうだとするなら、障がい者は本当に「生産性がない=収入が少ない」のだろうか。
障がい者の平均賃金(2018年)は
身体障がい者 21万5千円/月
知的障がい者 11万7千円/月
精神障がい者 12万5千円/月
発達障がい者 12万7千円/月
となっている。
それに対し、日本人の平均賃金(2018年)は
30万6千円/月
となっており、「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の主張する「収入」の多さを基にすれば「障がい者は生産性がない」と言われればその通りである。
しかし、日本では障がい者が自由に社会進出し難い制度になっている現実がある。
その一つに特別支援学校高等部卒業生の扱いがある。
最終学歴が中学校なら中卒、高等学校なら高卒と社会から認知されるわけだが、特別支援学校高等部を卒業しても中卒と認知されるのである。しかし、特別支援学校高等部を卒業すると大学受験はできるという矛盾が存在している。
周知の事実であるが、日本は学歴社会である。
当然だが、中卒より高卒の方が収入面で有利であるし、高卒より大卒の方が収入面で有利である。
これを踏まえれば、特別支援学校高等部を卒業し働いている障がい者が日本人の平均賃金より低い理由が理解できるのではないだろうか。(ヒント①特別支援学校高等部を卒業すると中卒。ヒント②中卒は収入面で不利。)
また、障がい者は作業をしても最低賃金以下の金銭しか支払われない「工賃」という制度が適用される場合があり、具体例を挙げれば2021年の宮城県の最低賃金は825円/hであるが、就労継続支援B型事業所で作業しても150円/hしか支払われないという現実がある。
今回は詳細を述べることを控えるが就労継続支援B型事業所によっては作業した障がい者の工賃を搾取する仕組みを強いている事業所さえあり、障がい者の作業と支払われる対価には歪みがある。
「障がい者は収入が少ない」のではなく、日本の制度として「障がい者を低賃金で雇用しても良い」になっているのである。
つまり、障がい者は日本の制度として「低学歴」「低収入」というハンデを押し付けられているのである。
「障がい者は生産性がない(=収入が少ない)」という事実はあるが、その裏に日本の制度として障がい者が不利なスタートラインに立たされていることをどれだけの人が知っているだろうか。
<おわりに>
以上が「障がい者は生産性がない」と叫ぶ者の主張に根拠を持って向き合った結果である。
最後になるが、どんな「思想」を持っていても、自身の頭の中にあるうちは個人の自由である。
しかし、その考えを人にぶつければそれは「主張」に変わる。
そして、根拠のない「主張」は暴力と変わりないのだ。
皆様、どうぞ人を傷付けることのない人生を歩んで下さい。
<引用・参考文献>
・「生産性」の意味
広辞苑 第7版
・女川町特別支援学校高等部生徒の進路
宮城県立支援学校女川高等学園「令和3年学校要覧」2021
・現役大学・短大進学率
旺文社教育情報センター「2020年 大学・短大への現役進学率55%超!」2021
・障がい者の平均賃金(2018)
厚生労働省「平成30年度障害者雇用実態調査の結果を公表します」2019
・日本人の平均賃金(2018)
厚生労働省「令和2年賃金構造基本統計調査 賃金の推移」2021
・宮城県の平均賃金(2018)
宮城県統計課労働教育班「みやぎの雇用と賃金 毎月勤労統計調査 地方調査結果」2018
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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