【超福祉展】ユーザーの声に耳を傾けることで見えてくる、2020年の「バリアフリー」の在り方~OPEN TOKYO TALK「あと1000日でできること」~
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ライター:Media116/超福祉展2017
タイムアウト東京と日本経済新聞社クロスメディア営業局が手掛ける「OPEN TOKYO」。それは障がい者や高齢者、子ども、子どもを育てる親、LGBT、外国人など、マイノリティを含むすべての人が楽しめる都市・東京を実現するため、東京のあらゆるバリアを取り払う活動を国内外に発信するムーブメントです。
2020年には東京五輪が開催され、世界中から多くの方々が東京に集まります。この機会に「マイノリティを含むすべての人が楽しめる都市・東京」を世界中の方に体感してもらうことで、東京が世界を啓発し、未来を切り拓いていく---。
東京五輪まで1000日を切った11月9日、「OPEN TOKYO」についてより多くの人に共鳴して頂くことを目的に「OPEN TOKYO TALK」と題するシンポジウムが行われました。この討論において、参加者やこの記事を読んでいるユーザーの心に、どんな「OPEN TOKYO」的な発想が芽生えるのか?
今回はその第一部の様子をレポートしたいと思います。
<登壇者のご紹介>
進行:
◆伏谷博之氏(タイムアウト東京代表取締役)
◆柴田玲氏(フリーアナウンサー)
ゲスト:
◆大塚訓平氏(NPO法人アクセシブル・ラボ代表理事)
◆澤邊芳明氏(ワン・トゥー・テン・ホールディングス代表取締役社長)
「ハードのバリアをハートで解消」
討論はそれぞれのゲストによる活動のプレゼンテーションから始まりました。
ゲストの一人、大塚氏が代表理事を務めるアクセシブル・ラボは、障害者目線でバリアフリー、アクセシブルな環境づくりの提案や情報提供、心の教育に関する事業を行う団体です。設立のきっかけは、大塚氏が事故にあって入院した病院で聞いた、車椅子ユーザーの方の話だったそう。
事故にあい車椅子ユーザーとなった方に対し、務めていた会社は「申し訳ないけどうちでは面倒を見切れない」と話しに来ます。そして「初めての車椅子での外出は、退職届を出しにいくため」という方が多い―当事者から聞く現状に、大塚氏は非常にショックを受けたそうです。
そこで大塚氏は車椅子ユーザーのためのサービスを数多く展開。もともと不動産会社を起業していたこともあり、車椅子ユーザーが思わず住みたくなるようなモデルルームの公開や、バリアフリーに関するコンサルティングを行っています。アクセシブル・ラボでは車椅子ユーザーを歓迎するお店・宿泊施設に関する情報をWebで発信する「アクセシブルナビ」を運営。「行ってみたらホームページで見た写真と違った」などの情報の違いがないよう、実際に車椅子ユーザーがお店や宿泊施設に行った写真を掲載し、通路の幅や入り口の段差の数などを公開しています。
車椅子ユーザーが出かけるには、まだ物理的・心理的なバリアが数多く存在する現代社会。その一因には「車いす用トイレが無くてもお店を利用したい」「手が届くところにモノを置く前に、まず通路を確保してほしい」など、バリアフリーな環境を活用する当の車椅子ユーザーの声が環境を整備する側に届いていないことが挙げられます。
そこで大塚氏が活動に掲げるコンセプトは「ハードのバリアをハートで解消」。物理的な整備が今すぐにできなくても、当時者の声・支援者の声を必要としている人に伝え、まずソフト面でバリアに対応する。心理的な部分に関わる安心感が、バリアを超えていく大きな力になることを感じさせるトークでした。
障がいを受け入れずに活動してきた視点から考える、パラスポーツの普及
もう一人のゲストである澤邊氏は、「障がいは受け入れない」と福祉関係の方面とは一切関係を持たず、ある種アウトロー的な活動を展開しています。車椅子ユーザーになった後、大学に復学し、24歳で起業。これまでメディアにも露出を控えていたため、「車椅子の社長」といううわさが都市伝説的になったとか。これまで広告業界で事業を展開していましたが、最近は日本財団様やパラリンピックサポートセンター様、超人スポーツ協会様と仕事の兼ね合いで福祉関係とも関係が生まれてきたそうです。
広告・IoTなどの知見や、様々な企業の商品・ブランドをコミュニケーションの力で人に伝えていくことに取り組んできた澤邊氏ならではの視点が、現在はパラスポーツ普及活動に活かされています。
「普通のスポーツも選手が頑張っているだけで見てもらえるわけではなく、プロリーグやスーパーボウルなどショーアップすることで人々が注目する」と語る澤邊氏。各団体や競技者側が“見てもらう”という意味、すなわち時間と距離を超えて人に来てもらうとはどういうことか考え、努力する。そのような活動を後押しし、そこから未来の街づくりや障がい者と社会の関わりを見つめていると言います。
澤邊氏が手掛けるパラスポーツエンターテイメント・「CYBER SPORTS」シリーズは、VRなどデジタルテクノロジーを用いてパラスポーツの楽しさや魅力を広めるエンターテイメントです。シリーズの一つ「CYBER BOCCIA(ボッチャ)」は競技中の審判の計測を自動化。
競技が中断してしまうタイムラグを解消し、ビジュアル・サウンドからより観ていて楽しくなる仕掛けを施しています。様々な場所で多くの方に楽しみながらパラスポーツを知ってもらうことを目指すこのシリーズによって、2020年にはパラスポーツがより身近なものとなっているかもしれません。
バリアフリーの前に、そもそもの「バリア」を考える
お二人の活動プレゼンテーションの後は伏谷氏・柴田氏のファシリテートのもと、「OPEN TOKYO TALK」のフリートークが展開されました。
澤邊氏が「映画館の車椅子専用スペースはたいてい一番前で首が折れそうになる」と話すと、「僕は普通の席にも座れるのに車椅子スペースに案内されて、やっぱり首折れそうになりますね」と同調する大塚氏。「あの場所だと全然3Dにならない(笑)」と車椅子ユーザーとしての本音トークが盛り上がりました。
澤邊氏は他にも「障がい者だけでなく万人がいらない、と思うような誰得なものが世の中にはたくさんある」と言います。
例えば、「東京駅前のたった2段の階段」と「駅の自動改札機の"パタパタ”(フラップドア)」について、一体誰が必要としているのか疑問、との話を展開。その2段が無いだけでそもそもスロープを作る必要が無くなるし、”パタパタ”が無いだけで駅員さんがわざわざ開けて車椅子の方を通す手間がなくなります。
「”パタパタ"で止める必要がある人は強引に通ってしまうことも多いだろうし、本当に無くしたい」
と熱弁する澤邊氏に会場からは笑いが起こりましたが、バリアフリーの設備を整える前に「バリアとなっているものがそもそもなぜ存在するのか」、今一度状況を俯瞰し柔軟に考える発想が必要だという気付きを与えてくれました。
また大塚氏は車椅子ごと持ちあげてもらう時のエピソードも紹介。
日本では「どこを持ったらいいですか?」と一声かけてくれる人は少なく、いきなり持ち上げられてしまうことが多いそうです。車椅子は持つ場所を間違えると部品が壊れてしまうこともあり、また持ち上げる人達の息が合わずバランスが崩れると非常に怖いとのこと。
「気持ちがあるのに空回りしてしまうのはもったいない。僕たちみたいに"ポップな障がい者”はあれこれ言えるけど、そうじゃない人も大勢いるので一声かける心遣いがあると嬉しい」
「海外に行った時には“すみません”ではなく“ありがとう”だけで目的地に行けました。」
と述べる大塚氏。
「2020年までには、日常的に車椅子の人が街にいるような、健常者と障がい者が混じり合う社会になってほしい。机上の空論ではなく実際にこんな人達が使う、というビジョンの実現をして欲しい。」と語っていました。
「特殊な生物じゃないので、自然に接してもらっていいんですよ。」
そう話す澤邊氏。障害の有無に関わらず、人への配慮は「素直に聞く」ことが第一歩なのかもしれません。
2020年、世界中から様々な人が東京に集まるその日、日本はどうあるべきなのか。
「あと1000日でできること」は何か。
ハード面やソフト面、さまざまな課題が横たわる。やるべきことは無数にある。
しかし、今回の「OPEN TOKYO TALK」から一つ言えることは、人種・性別・障がいの有無等による「ハート」と「ハード」のバリアを取り払うには、双方向のコミュニケーションによる対話が必要不可欠だ、ということ ――― 。
コミュニケーションを妨げているのは「よくわからない」「怖い」等のネガティブなイメージ。大塚氏や澤邊氏の活動、そして伏谷氏が手掛ける「OPEN TOKYO」は、まさに情報発信やデザインによってネガティブをポジティブに変えるムーブメント。
誰もが自らと他者との違いを開示し、理解し合う。そうすることで2020年とその先の未来が切り拓かれるのではないでしょうか。
「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」
期間:2017年11月7日(火)~11月13日(月)
会場:渋谷ヒカリエ 8F「8/(ハチ)」
時間:11:00-20:00 (最終日は 16:00 まで)
サテライト会場:渋谷キャスト、ケアコミュニティ・原宿の丘、ハチ公前広場、代官山 T-SITE、みずほ銀行渋谷支店、SHIPS 渋谷店、モンベル 渋谷店
公式ホームページ
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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