【超福祉展】渋谷は「ちがいをちからに変える街」になれるか? ~「福祉×FAB×デザインで、渋谷から福祉作業所のモノづくりを変える!」を聴いて~
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ライター:Media116/超福祉展2017
こんにちは。障害当事者とその家族のためのウエブマガジン「D.culture」で編集をしている桐谷匠です。’00年、統合失調症を発症して、現在に至ります。
皆さんは「シブヤフォント」という魅力的なプロジェクトをご存知でしょうか。渋谷区で暮らし、働く障害のある人の描いた文字や数字を、渋谷で学ぶ学生デザイナーたちがフォントとしてデザインし、パブリックデータ化するという取り組みです。行政が音頭を取って、渋谷区内の福祉作業所とデザイン学校(桑沢デザイン研究所)の参加をみて昨年、スタートしたこのプロジェクト。今では多様性を深める教育プログラムとして「東京2020公認プログラム」に認定されるほど急成長を遂げています。
その「シブヤフォント」のリーディングプロジェクトの一環として始まったのが「SHIBUYA“To Go”」。同プロジェクトの一大イベントとして今年8月に開催されたのが「48時間デザインチャレンジ」です。同イベントに参加した福祉作業所と学生デザイナーのプレゼンテーションと「シブヤフォント」の生みの親たちの講演が聞けるプログラムが超福祉展の最終日にあると聞き、参加してみました。
きっかけは「渋谷ならではの“お土産”をつくりたい」という発想から
「シブヤフォント」誕生のきっかけとなったのは、長谷部健渋谷区長の発想でした。「渋谷ならではのお土産がつくりたい」。ただ、お土産といっても有名デザイナーなどとの共同作業で創るのでは渋谷らしさがなくてツマラナイ。渋谷らしさとは何か――それを考える中から浮かび上がってきたのが、渋谷区内にはモノづくりをしている福祉作業所がたくさんあるという事実。渋谷区福祉部障害福祉課課長の原信吉氏は言います。
「区長の発想から、二つの目的が立てられました。一つは福祉作業所で働く障害のある方たちの工賃向上に資するものにすること。そして、ダイバーシティ&インクルージョンを目指している渋谷ならではのお土産を創ろうということです」
原氏のチャレンジがそこからはじまりました。
障害のある人の書く文字がユニークで面白い
原氏が最初に声を掛けたのが、渋谷区内にあるデザイン学校「桑原デザイン研究所」で講師を務める磯村歩氏(株式会社グラディエ代表)でした。磯村氏は、こう回想します。
「渋谷区とはずいぶん激論を戦わせましたが、最終的に障害のある人たちと学生デザイナーたちのコラボで行こうと決めたのは、学生たちなら障害のある人たちとフラットな関係を作れると考えたからです」
こうして昨年10月に取り組みが始まり、今年2月には学生たちによるアイデアの選考会が行われました。その中で、選考委員たちの目にとまったのがある学生が漏らした次のような感想です。「障害のある人の書く文字が既存のフォントにない形・風合いを出していて、ユニークで面白い」そこから一気に構想が固まり、プロジェクトがスタート。今年4月には「シブヤフォント」という象徴的な名称で商品登録も済ませました。
「すでに色んな企業からの引き合いがありますが、『シブヤフォント』で使用する文字は一つの著作物で、それを誰かがプリントアウトしたりして次の創作を生み出す。そういうカタチでソーシャルアクションを誘発することがプロジェクトの大きな目的です」(磯村氏)
48時間デザインチャレンジ
「シブヤフォント」からはリーディングプロジェクトの一環として「SHIBUYA“To Go”」プロジェクトが生まれました。その「SHIBUYA“To Go”」プロジェクトの一大イベントとして8月に開催されたのが48時間デザインチャレンジです。
これは渋谷にあるデジタルファブリケーション機器を備えたカフェ「FabCafe Tokyo」の協力の下、福祉作業所の障害のある人と桑原デザイン研究所の学生たちが作り上げたデザインデータを活用し、FabCafeにあるデジタルファブリケーション機器を使ってプロダクトのプロトタイプを制作、それを観客に向けてプレゼンテーションするという2日間にわたるイベントです。
各作業所に数人の学生デザイナーが入り、その作業所の“味”を活かしたプロダクトブランドを結成。利用者と学生が実際にコミュニケーションを取る中で、同じ「シブヤ」をテーマにしたとは思えない、多種多様な作品がブランドごとに生まれました。その多種多様の源泉は、福祉作業所の利用者の方々がもつユニークな視点にありました。
イベントのディレクションを務めたグラフィックデザイナーのライラ・カセム氏は、次のように述べます。
「48時間デザインマラソンは元々、イギリスが発祥の地。インクルーシブデザインという概念を取り入れていて、デザイン作りには余り縁のなかったさまざまな人々の観点を取り入れることで、メインストリームに向けての商品開発や社会的問題の解決に役立てるというアイデアから始まったものです。それを日本の福祉施設でもできないか――そう考えてスタートしたのが今回の48時間デザインチャレンジです」
障害者にも「かっこいいこと」ができる。
さて、プログラムは次に48時間デザインチャレンジに参加した6つの福祉作業所による5分間のプレゼンテーションに移りました。中でもとくに筆者の印象に残った福祉作業所職員の話をピックアップして紹介してみます。
まず、<reconstruct>というブランドを立ち上げた精神障害者の福祉作業所・ストライドクラブのハラさんの発言から。
「reconstruct=再構築という意味ですが、渋谷の街は今、いたるところ工事中で、まさに再構築の渦中にある。その姿を利用者さんたちに重ね合わせてみました。利用者さんたちにも日々、変化があって、新しいモノをどんどん作り上げている。
私は昔、利用者さんに向けて「かっこいいことをやりたい」と言ったことがあるのですが、そのとき返ってきた反応は「僕たち障害者にかっこいいことなんかできるわけがないじゃないですか」というもの。それが今回のイベントに参加して「僕たちにもかっこいいことができるんだ」に変わりました。そのことが一番、嬉しかったですね」
次に<カムcome>というブランドを立ち上げた福祉作業所工房パレットのタマイさんの発言。
「私たちの工房ではぬいぐるみ作りなどをやっているのですが、利用者さんの中に一人、その作業にまったく熱意を持っていなかった49歳のダウン症当事者の方がいらっしゃいます。その方が今回のイベントにあたって1日に何枚もの絵をスピーディに描き上げる。そのことを学生さんや職員に褒められる中で、彼にやる気がみなぎるようになり、表情などもどんどん変っていきました。その過程を見ることが何より嬉しかった。また、他の利用者さんたちも、これまで日の目を見ることのなかった自分たちの創作物が世に出るということで、すごく大きな喜びを感じていました」
自信ややりがい、喜び……プロジェクトに取り組む過程で、普段関わりのない学生デザイナーとの出会いによる刺激が福祉作業所の利用者に変化を生み出していたことが、これらの発言から伺えます。その変化は普段関わりのない学生デザイナーや、より広く言えばプロダクトが出ていく社会との関わりによって感じることができたもの。「シブヤフォント」が単なるデザイン/商品ではなくプロジェクトたる所以は、プロダクトを生み出す過程にも価値があるからなのかもしれません。
一大ソーシャルアクションを起こしたい
プログラムは最後にパネリストたちのコメントタイムに移り、オーラスを原氏が次のように〆ました。
「渋谷区は昨年、基本構想を出したのですが、そのタイトルは『ちがいをちからに変える街、渋谷』というもの。この街で暮らし、働く人々には障害の違いもそうですし、立場の違いもそうですけど、違いが色々ある。それを力に変えていくのが渋谷区が目指している方向です。
その点で、今回のモノづくりの取り組みは貴重な試みだったと思う。渋谷区はこれを一回でやめるつもりはなくて、2020年をマイルストーンにしながら継続的に進めていく。その中で、一大ソーシャルアクションを起こしたいと考えています」
「シブヤフォント」は、渋谷という日本一トンガッタ街だからこそ成り立ったプロジェクトでしょう。しかし、筆者としては、渋谷を起点としてこうしたムーブメントが全国に波及していくことを願ってやみません。
「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」
期間:2017年11月7日(火)~11月13日(月)
会場:渋谷ヒカリエ 8F「8/(ハチ)」
時間:11:00-20:00 (最終日は 16:00 まで)
サテライト会場:渋谷キャスト、ケアコミュニティ・原宿の丘、ハチ公前広場、代官山 T-SITE、みずほ銀行渋谷支店、SHIPS 渋谷店、モンベル 渋谷店
公式ホームページ
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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