【超福祉展】人のやさしさをLINEでつなぐ「&HAND」 ~みんなホントは、困っている人の役に立ちたい~
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ライター:Media116/超福祉展2017
電車の中で席を譲るのって、意外と難しいですよね。ちょっとした勇気を要する心理的なハードルのほか、最近は、スマホを見ていて妊婦さんやお年寄りに気付かずタイミングを逃してしまった、というケースも。また、妊婦マークやヘルプマークを付けていてもほとんど席を譲られたことがないというのは、よく聞く話です。
Media116が密着取材している「超福祉展」4日目の11月10日に、そんな電車内の助けたい人と助けられたい人をつなぐサービス「&HAND」の講演&体験会が行われました。妊婦さんのSOSとサポーターとをつなぐために開発されたこのサービス。現在、聴覚障害者、視覚障害者など、より多くの困っている人へも「やさしさ」を届けるべく動き出しています。
リーダーのタキザワケイタさんが&HANDプロジェクトの原形となるチームを結成したのは2016年6月。そのわずか1年半後の今年12月、営業運行中の銀座線を使用するという、大胆な実証実験が行われます。一体どのようなサービスなのか、今回はこの&HANDについてレポートします!
テクノロジーでやさしさを橋渡し
もしも、乗車中の電車が急停止して動かなくなったらどうしますか?ちょっと驚いても、その場で車内アナウンスが入るまで待つ人がほとんどなのではないでしょうか。そして、信号待ちならひと安心。人身事故なら、運行についてのアナウンス次第でどうするかを判断します。
では、聴覚障害を持つ人ならどうでしょうか。車内アナウンスが聞こえなければ、今何が起きているのかが分かりません。Webサイトなどで電車の運行情報が更新されるまで、とても不安な気持ちで過ごさなくてはいけませんし、車内アナウンスが聞こえていればできるはずの適時の判断ができません。
そんな時、&HANDの聴覚障害者向けのサービスに登録していれば、サポーターにSOSを発信できます。やりかたはとても簡単。
1. キーホルダー型の専用ビーコンデバイスをギュッと握る。
2. LINEの画面が立ち上がり、表示された2つの選択肢「乗車列車の運行状況」と「今いる駅の情報」のいずれかをタップして選択。
3. サポーター側に「近くに耳の不自由な方がいます」と通知。
4. サポーターが「サポートします」をタップすると依頼内容が表示されます。
5. 依頼が「運行状況」であれば、「遅延」「運転見合わせ」の選択肢が表示され、いずれかをタップするだけで回答できる。通常のLINEと同じようにメッセージを送受信できるため、さらに詳細な情報も提供可能。助けてもらった側から御礼のメッセージを送ることもできます。
LINE Beaconとchatbotを活用し&HANDが媒介することで、互いのアカウントを直接つなぐ必要がないのため、安心して使用できるというわけです。
「&HANDの原形となった妊婦さん向けのサービス『スマートマタニティーマーク』が生まれたのは、異業種集団による実験的ワークショップでした」と、開発の経緯を話すのは、&HANDプロジェクトチームの池之上 智子さん。
スマートマタニティマークは、チーム結成の2ヵ月後にGoogle主催のアイデアコンペ「Android Experiments OBJECT」でグランプリを獲得し、さらにその7ヵ月後には&HANDとして「LINE BOT AWARD 2017」でもグランプリ受賞。今回の超福祉展出展を経て、12月には銀座線での実証実験が行なわれます。華々しくサービス実装へと突き進んでいるように見えますが、その道のりは決して順風満帆ではなく、メンバーの熱い思いと行動力が多くの共感と偶然の出会いを引き寄せ、切り拓かれたものでした。
「社会実装するべき価値がある」という確信と熱意が企業を動かす
スマートマタニティマークは、妊婦さんがビーコンデバイスをONにすると、座っているサポーターが自分の座席の位置をマップで知らせ、譲ることができるというシステム。しかし、専用アプリをダウンロードする必要があることと、妊婦さんの人数が少ない上、妊娠期間が最大10ヵ月と限定的であることが、サービス化を妨げる課題でした。
そこで、莫大なユーザ数を誇るLINEを利用し、妊婦さんに加えて、聴覚障害者や視覚障害者、ヘルプマーク使用者に訪日外国人など、様々な困った人を助けられるよう考えられたのが&HANDです。AWARD受賞という形で多くの共感を実感したチームは、社会インフラとして浸透させる価値を確信します。しかし今度は、プロジェクトチーム自体が、社会実装への道の妨げとなります。企業体として機能できない異業種集団の限界でした。
偶然にもその頃、交通弱者とその他の乗客とをつなげ、助け合いをサポートするアプリ開発を社内に提案し、実現を模索していたのが東京メトロの中山砂由さんでした。中山さんは、社内提案制度の事務局を介して、&HANDプロジェクトリーダーのタキザワさんと出会います。「同じ時期に、同じ思いで、同じことを考えている人がいることに感銘を受けました」と中山さん。
そして、プロジェクトチームのメンバーである大日本印刷(DNP)の松尾 佳菜子さんも会社を動かします。DNP社内の各部署を巡って賛同者を募り、有志メンバーでバーチャル組織を結成。事業コンセプトを作成し、東京メトロ、LINE、&HANDプロジェクトチームと実証実験を行なう予算の承認を得ます。「DNPグループの企業理念として『人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する』を掲げています。&HANDは、困っている人と日本人のやさしさをつなぐもの。DNPがやらないでどうする!と思いました」と、松尾さんは語ります。
さらに、これから行う実験として、駅構内を中心とした移動における、視覚障害を持つ人の困りごとをリサーチする「プロジェクト&B」と、マタニティーマークの席譲りにおいて、譲った側の行動の変化を詳細にリサーチする「プロジェクトマザー」が計画されているそうです。「やさしさは、誰もが素質としてもっているスキル。一生磨き続けられるものなんだ」という松尾さんの言葉が印象的でした。
&HAND体験会参加者のコメント
● 「聴覚障害があっても、外見からは分かりません。こういうサービスがあると手助けのきっかけが作れていいですね。」
● 「電車内を想定したサービスだけど、ほかのシーンにも対応できるようにサービスの拡張を期待します。」
● 「スマホを見ていたせいでタイミングを失ってしまったときは、降りた後まで罪悪感が…。このサービスを利用すれば、きっと上手に助けられて、私も気持ちよく過ごせます。」
● 「今すぐサポーターとして使いたいし、将来妊婦さんになった時も使いたい。早く使えるようになってほしいです!」
● 「運行状況以外にも、聴覚障害のある人が知りたいことがあるかもしれない。ニーズに合せて選択肢が増えるといいですね。」
● 「助ける側と助けられる側、場合によってどちらにもなると思います。どちらにも柔軟に対応できるといいな。今後の開発が楽しみです。」
やさしさが、やさしさを生む社会の実現
体験会後にコメントを伺えたのはサポーター側の方々でした。そのすべてが、&HANDに期待を寄せる言葉ばかり。さらに多種多様な弱者の声が届けられれば、みんなが持てるやさしさを、もっと自由に発揮していける温かい社会へと変わっていけるのかもしれません。12月の実証実験に参加して、&HANDが触媒となって、そんなふうに変わりゆく社会の目撃者になってみてはいかがでしょうか。
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『やさしさを届けよう、LINEで席譲り実験』
実験に参加するには、あらかじめ「&HAND」のLINEアカウントで“友だち登録”をする必要があります。
開催期間:12月11日~15日
東京メトロ銀座線 指定列車の最後尾車両
① 上野駅 10:08 発 →(途中駅乗降可能)→ 表参道駅 10:33着
② 渋谷駅 10:55発 →(途中駅乗降可能)→ 上野駅 11:23着
③ 上野駅 11:08 発 →(途中駅乗降可能)→ 表参道駅 11:33着
④ 渋谷駅 11:55発 →(途中駅乗降可能)→ 上野駅 12:23着
⑤ 上野駅 13:47 発 →(途中駅乗降可能)→ 表参道駅 14:12着
⑥ 渋谷駅 14:31発 →(途中駅乗降可能)→ 上野駅 14:59着
⑦ 上野駅 14:47 発 →(途中駅乗降可能)→ 表参道駅 15:12着
⑧ 渋谷駅 15:31発 →(途中駅乗降可能)→ 上野駅 15:59着
※当日の列車運行状況等により、列車が変更となる場合があります。
※指定列車の最後尾車両には、目印となる腕章を付けたスタッフが乗車しています。
詳細はアンドハンドのホームページをご確認下さい。
アンドハンド #LINEで席ゆずり実験
「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」11/13(月)まで開催中!
会場:渋谷ヒカリエ 8F「8/(ハチ)」
時間:11:00-20:00 (最終日は 16:00 まで)
サテライト会場:渋谷キャスト、ケアコミュニティ・原宿の丘、ハチ公前広場、代官山 T-SITE、みずほ銀行渋谷支店、SHIPS 渋谷店、モンベル 渋谷店
公式ホームページ
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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