一つじゃない 第22回
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ライター:風来坊
正規雇用と非正規雇用では得られる収入に差があることは国も発表している通りです。
また、都市部と地方でも収入に差があることを国は発表しています。
更に、障がい者と健常者の収入においても差があることを国は発表しています。
では、地方に住む、非正規雇用で働く、障がい者の収入はどうなっているでしょうか。
今回は、宮城県で最も障がい者雇用率が低いI市の数値を調べてみました。
<障がい者としての就職活動 7thシーズン>
私の障がい者としての就職活動は遅々として進んでいません。
それでも定期的にハローワークへ通い情報収集はしていました。
そんな、ある日。
いつものように障がい者専用求人の一覧を見ていると
「非正規の求人多くない?」
と思ったのです。
<田舎の障がい者の雇用形態>
現在の日本政府が暗に「終身雇用」を否定しているように、多くの企業においても「安価で使い捨てのできる非正規雇用」が蔓延ってしまった現代日本ですが、それでも正規雇用労働者は63.3%(2021年総務省)はいたはずです。
しかし、私の住む宮城県I市のハローワークに出された障がい者専用求人では正社員が6件(9名)、正社員以外が11件(12名)、福祉的就労が2件(16名)だったのです(令和5年2月現在)。
つまり、総務省の発表では「労働者の6割が正規雇用」ですが、田舎(宮城県I市)で出されている「正規雇用の求人は約24%」であり、それ以外の雇用形態の求人は約75%(福祉的就労含む)となっているのです。
「非正規が多いということは収入も少ないということだろうか。」
そう考えた私はハローワークで得た「宮城県I市の障がい者専用求人一覧」を解析することにしました。
令和5年2月の宮城県I市における有効障がい者専用求人は19件。
そのうち、7件が正規雇用で12件が非正規雇用(契約、パートなど)であり、
正規雇用 37%
非正規雇用 63%
ということになります。
月収は
正規雇用 156,712円/月
非正規雇用 118,548円/月
月の労働時間は
正規雇用 166時間
非正規雇用 129時間
月給制の正規雇用労働者を時給に換算し非正規雇用の時給と比べると
正規雇用 942円/時
非正規雇用 917円/時
となります。
つまり、宮城県I市における障がい者専用求人は6割を非正規雇用が占め、その非正規雇用は正規雇用より、一か月あたり37時間労働時間は短いが38,163円収入が少ないということです。
もっと簡単に言うと「宮城県I市の障がい者専用求人の6割は月収が低い」ということなのです。
<田舎の生活費>
宮城県I市の人々の生活水準はどれくらいでしょうか。
それを計る一つの基準に「生活保護費」があります。
生活保護費はその地域で最低限度の生活を送ることが出来る金額と国が考えているからです。
では、宮城県I市に住む人が生活保護を受給するといくらになるでしょうか。
宮城県I市(3級地1)で一人暮らしをする20~40歳の人をモデルに金額を算出すると、
生活扶助基準 68,430円 + 住宅扶助基準 35,000円 = 生活保護費 103,430円/月
となります。
これを先に述べた宮城県I市の障がい者専用求人と比べると、
正規雇用 156,712円/月
非正規雇用 118,548円/月
生活保護費 103,430円/月
となり、宮城県I市で働く非正規雇用の障がい者も最低限の生活は保てているように見えます。
しかし、障がい者の多くは医療を必要としており、非正規雇用労働者のように生活保護費より僅かに多い金額の収入で心身共に健やかな生活が送れると言えるでしょうか?
また、宮城県I市は同市で働く障がい者の収入について調査しており、その月収の実状は、
20万円以上 17%
10~15万円 17.9%
5~10万円 18.8%
5万円未満 46.3%
つまり、宮城県I市において働いている障がい者の65.1%はその月収の金額が生活保護の金額より低いのです。
更に療育手帳を持っている人の4割近くでは月収が1万円未満と更に低くなっているのです。
<障がい者に価値を見出さない社会>
宮城県I市で出されている非正規雇用(求人全体の6割以上を占めている)の障がい者専用求人の月収は平均118548万円ほどであり、その金額は宮城県I市における生活保護費より9218円は多くなっています。
しかし、その実状は宮城県I市で働く障がい者の6割以上が生活保護費を下回る収入しかありません。
こうした状況は田舎で暮らす障がい者に問題があるのでしょうか。
2023年2月27日、大阪地裁は障がい者の価値を示す判決をしました。
2018年に暴走した重機にはねられて亡くなった女児の遺族が運転手らに対し起こした損害賠償請求の判決です。
運転手らの弁護士は女児に聴覚障害が有ったとして「賠償額は健常者の60%が相当」と主張していました。
それを受けての大阪地裁の判決は、聴覚障害が有ったとして「賠償額は健常者の85%が相当」と判決を下したのです。
つまり、法曹界は「障がい者は健常者の60%の価値しかない」と認識しており、
国家としては「障がい者は健常者の85%の価値しかない」と認識しているということです。
国家が障がい者の価値を健常者より低く認識しているのですから、宮城県I市という僻地においても障がい者の価値が低く見積もられるのは当たり前のことかも知れません。
「障がい者」を差別することが当たり前の日本では障がい者は生き難いのかも知れません。
障がい者に非がなかったとしても。
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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