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合理的配慮によって一人ひとりの個性を活かす、チョコレート工房/一般社団法人AOH・株式会社ショコラボ

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ライター:遠藤光太

神奈川県横浜市に拠点を置く一般社団法人AOHは、障がい者の雇用創出と工賃アップを目指し、ユニークな取り組みを行っています。

AOHが運営するショコラボ・グループでは、チョコレート製造を通じて障がいのある方の雇用を促進。メンバーの適性に合わせた業務配置や工夫により、一人ひとりの活躍の場を広げる挑戦を続けています。

障がいのある方が活躍できる職場づくりについて、ショコラボ・グループ代表理事の伊藤紀幸さんと、グループ企業の株式会社ショコラボ執行役員の栁谷紀久子さんにうかがいました。

障がい者の雇用創出と工賃アップを目指し「長く続けられる事業を」

2012年、神奈川県横浜市に障害福祉サービス事業所では全国初となるチョコレート工房「ショコラボ」が誕生しました。ショコラボを運営する一般社団法人AOH(エーオーエイチ)の代表理事 伊藤紀幸さんがチョコレート工房の開設を決めた背景には、知的障がいのある息子さんの存在があったといいます。

「息子が特別支援学校に進学した後、担任の先生から障がい者雇用の現実について聞かされ、愕然としたんです。まず、障がい者の働く場所があまりにも少ない。そして賃金が安い。この現実を知り、なんとかしなければと思いました」

伊藤さん
一般社団法人AOHの代表理事 伊藤紀幸さん


伊藤さんは、障がいのある方が活躍できる職場をつくることを決意。2002年に、それまで勤めていた銀行を退職しました。目標実現に向けて、まずは自己資金を調達するため不動産会社を経営します。そして、10年後に、横浜市都筑区で「ショコラボ」を開設。さらに、2019年には民間企業としてチョコレート菓子製造を行う「ショコラ房」を開業しました。障がいのある方と健常者が共に働く職場として、チョコレート工房を選択するまでには、迷いもあったといいます。

「障がい者との協働は簡単ではないと感じていました。もし事業が失敗すれば、彼らに迷惑をかけてしまう。だからこそ、長く続けられる事業を模索しました」

また、障がいのある方と長期的に働くには「効率の悪さを受け入れる経営者としての覚悟も必要だった」と伊藤さんは話します。最終的には「好きなことであれば、何があっても続けられるはず」と、自身の好物であるチョコレートを製造する事業所の開設に踏み切りました。

現在、ショコラボ・グループでは、国籍、障がいの有無、性別、年齢に関係なく、すべての従業員が協力して製造・販売に携わるという理念のもと、一人ひとりが個性や得意を活かして活躍しています。

さらに、フェアトレード製品の使用、有機無農薬栽培の原料採用、添加物を使用しない製法、そしてリサイクル推進など、環境や社会、健康に配慮した取り組みにも力を入れています。

お店の外観
「ショコラ房」のガラス張りの壁には、BEAN to BARについてのイラストが描かれている

今後もチョコレート製造の枠を超えた社会貢献を目指す同グループ。伊藤さんは、今後の展望について次のように語ります。

「カカオ豆の輸入国で、障がいのある方が活躍できる提携農園を作ることを夢見ています。現地での地産地消やフェアトレードでの輸入を実現できたら素敵ですよね。これからもショコラボ・グループ全体で、皆さんを幸せにする『チョコっといいこと』を見つけていきたいです」

B型事業所とグループ企業の店舗で、長所を活かして働ける

現在、ショコラボ・グループ全体で働く従業員数は、総勢約100名。そのうち半数が障害者手帳を所持するメンバーです。

作業着でラジオ体操をする従業員のみなさん
作業着でラジオ体操をする従業員のみなさん

ショコラボ・グループは、大きく3つに分かれており、その中のふたつがチョコレートの製造と販売に関わっています。ひとつめが、一般社団法人AOHが運営する、就労継続支援B型事業所ショコラボ。ふたつめが、チョコレート製造と販売店舗「ショコラ房」を中心とした民間企業、株式会社ショコラボです。

就労継続支援B型事業所のショコラボでは、20代後半のメンバーを中心とする約40名の利用者がチョコレート等の菓子製造に携わっています。利用者の8割は知的障がいある方。精神障がいや身体障がいのある方を含む利用者全員が、それぞれの適性に応じた業務を担当しています。

事業所では、ドライフルーツの袋詰め、チョコレートへの装飾や梱包、ギフトに封入するメッセージカード作りなど、季節や受注状況に合わせて多岐にわたる作業を実施しています。

カカオのカードを作成する様子
カカオのカードを作成する様子

また、株式会社ショコラボが運営する店舗「ショコラ房」では、B型事業所で経験を積んだメンバーが、輸入したカカオ豆を選別・焙煎・殻剥き・精錬し、チョコレート製品に加工するまでの全工程を一貫して手がける「ビーン・トゥー・バー」製法によってチョコレート菓子を製造しています。

焙煎したカカオ豆の殻を剥き、その中にあるカカオニブを取り出す作業は、機械化したほうが効率的です。しかし、ショコラボではあえて「手剥き」を選択しています。これにより、カカオニブ本来の香りが楽しめる風味豊かなチョコレートが出来上がります。

カカオ豆を手剥きする様子
カカオ豆を手剥きする様子


「手剥きの工程では、繊細な作業に集中力を発揮できる、メンバーの長所を活かせます」

大量生産・効率重視の製造現場では実現がなかなか難しい丁寧な製法の中に、ショコラ房ならではの魅力が詰まっています。

「少しの工夫で障がい者が活躍できる場が広がります」

株式会社ショコラボ執行役員の栁谷紀久子さんは、障がいのある方々と働く中で、メンバーの能力と可能性に日々気づかされているといいます。

「“障がいのある方はできないことが多い”というイメージを持つ方は少なくありません。
でも、実際に皆さんと一緒に仕事をしていると、驚くような技術を持つ方が多いのです。やりがいを持って楽しく仕事をしているメンバーの姿からは、いつも刺激をもらっています」


桝谷さん
株式会社ショコラボ執行役員 栁谷紀久子さん

ショコラボでは、合理的配慮に基づいた役割分担と仕組みづくりを大切にしています。例えば、人気商品「ショコラdeパンダ ブラン」の梱包作業では、数を数えるのが難しいメンバーのためにちょっとした工夫を取り入れているそうです。

「まず、紙に5つのマス目を描き、番号をつけます。そして『マスに1個ずつチョコレートを置いて、すべて埋まったら箱に詰めてください』と伝えるんです。これだけで、数が数えられないメンバーでも、5つのチョコレートを箱詰めする作業ができます」

ショコラ房では、障がいのある方が取引先の企業やイベントでの出張販売に参加する機会も大切にしているといいます。

「販売会の参加希望を募ると、『行きたい』というメンバーが多くいます。自分たちが作った商品をお客様が『ありがとう』と言って買ってくださるのは、メンバーにとって励みになっています」

桝谷さん
「日々気づきがある」とお話してくださった桝谷さん

最後に、障がいのある方々が活躍できる職場づくりのためにできることを伺うと、栁谷さんは次のように話しました。

「一人ひとりの得意、不得意を見極めた上での合理的配慮と工夫が重要だと思います。企業や一緒に働く仲間が少しの工夫をするだけで、障がいのある方の活躍できる場はグンと広がります。私たちは、今後も一人ひとりにとって最適な働き方を考えながら、皆さんの可能性を広げていけたらと考えています」


執筆協力:西村和音

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ライター 遠藤光太

発達障がいの当事者。二次障がいでうつ病になり、休職を経験。現在、フリーライター。さまざまな媒体での記事執筆のほか、テレビ番組等で活動中。

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