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「コミュニケーションの壁」をあえて楽しむ!サイレントボイスの取り組み

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ライター:遠藤光太

聴者と聴覚障がい者が1:1の割合で働いているという、株式会社サイレントボイス/NPO法人サイレントボイス(大阪府大阪市)。主な事業内容は、研修やコンサルティングで、最近では聴覚障がい者の実体験を盛り込んだイベント「爆音コンビニ」など、ユニークな取り組みも行っており、直近ではコミュニケーションをテーマにしたボードゲーム「MUTERS」の開発に邁進中。代表の尾中友哉さんにお話を伺いました。

聴覚障がいの両親を持った”聴者の子ども”としての原体験

「両親はともに身体障がい者手帳二級の聴覚障がい者ですが、障がいに対する捉え方は大きく違いました」

 そう語るのは、サイレントボイス代表の尾中友哉さん。喫茶店を経営し、日々の生活に満足していた母と、進学もままならず夢だった教育者の道を障がいに閉ざされたと思っていた節のある父。対照的な2人の間に聴者の子どもとして生まれた原体験が、社会人としての方向性を形作ったといいます。

「聴覚障がい者の辛さというのは、音が聴こえないことそのものに向かっているわけではないと思うんです。話の内容がわからない、ついていけない。そういう『コミュニケーションの壁』こそが辛いのではないかと、非当事者として両親を間近にして思ったんです。
 聴こえないことそのものが不幸というのではなく、本人を取り巻く環境や捉え方に問題があるのではないでしょうか」

 また、聴者の子どもとして感じたのは、「健常者が障がい者を助ける」という社会の常識への違和感だといいます。

「テレビ番組などにもよく見かけるのが、『健常者が障がい者を助ける』という道徳観です。しかしそれは真実の半面。私は子としてできないことを父母によく手助けされていたし、自分自身は聴者として電話対応をする等、できることをしていました。助けるし、助けられるという関係性の中で障がい者だ、健常者だと意識することはなかった。私の起こした事業でも同じ感覚で、障がいというものの捉えなおしをしてみようと思いました」

今回取材に応じてくださった尾中社長(近影)
今回取材に応じてくださった株式会社サイレントボイス/NPO法人サイレントボイス 代表の尾中友哉さん

サイレントボイス立ち上げのきっかけ

ただ、その原体験は社会人として働き始めるまで意識されなかったと言います。

「東京に出て広告会社に入ったのですが、CMを作ってもあまり当事者感覚がなかったんです。なぜ働くか、なぜ生きるのかとモヤモヤしていました。
 直接サイレントボイス立ち上げのきっかけになったのは、街のお団子屋さんに並んでいたときの体験でした。列がなかなか進まないと思ったら、どうやら聴覚障がい者の方と店員さんのコミュニケーションがうまくいかず、時間がかかっている。すぐに手話を使って通訳をして、仲立ちしました。その後、その方からお礼でみたらし団子をいただいたんです。そのときに鳥肌がたつ思いがして。働く目的、生きる目的をモヤモヤと考えていた時期に、両親と過ごした幼少期の体験が鮮烈に思い出されました」

 そして社会人二年目には、すぐに事業の立ち上げへ。
 目指したのは、人と人の分断を生むコミュニケーションの壁と「好意的に」戦うこと。「わかりあえた」という素晴らしい体験を目指し、それを外部に発信するべく活動していると言います。
 しかし、健常者と障がい者が同じ職場で働くにあたり、困難もありました。

「来客対応などで聴覚障がいのある従業員が対応しきれず、聴者側から『お客さんに対する意識が低い』と不満が出たことがありました。しかしそれは『決めつけ』で、聴覚障がいのある従業員は、エレベーターが開く音や、電話が鳴っている音が聴こえず、気づいていなかっただけだとわかり、聴者として反省しました。デスクの位置を変えるなどで対応したのですが、決めつけずに話し合いをする姿勢は大事だなと思いましたね」

爆音コンビニでの様子

2020年12月には、聴覚障がい者の日常を体験するイベント「爆音コンビニ」を企画。これは文字通り、爆音の流れる店内で買い物を体験してもらおうという催しものでした。企画に至ったきっかけは何だったのでしょうか。

「コロナが始まる以前から、マスクは聴覚障がい者の中で問題になっていました。一番心を痛めたのは、子どもたちのエピソードです。聴覚障がいのある子が、あるときいきなり友達に肩をつかまれ迫られたそうなんです。『なぜ無視をするんだ!』と。
 普段なら口の動きや表情で話しかけられていることがわかるんです。でも、マスクがあることでそれがわからない。それを1年も続けるのは怖いだろうなと思いました。ここで1回立ち止まって考える機会が必要だと考えたことが、最大の動機です」    

「爆音コンビニ」には筆者(遠藤)も取材で参加していました。実際体験してみると、ビニールの壁があって聴こえにくい、交通系ICで払うときにも店員さんに見せないと伝わらないなど、強烈に印象に残る経験になりました。

“聴こえない世界”をボードゲームで体感!「MUTERS」開発秘話

MUTERSテストプレイの様子です

 ユニークな取り組みを続けるサイレントボイスさんですが、次なる取り組みはなんとボードゲームの開発。2021年3月15日から1か月間募集したクラウドファンディングでは、目標額の200万円を大きく上回る約280万円の支援を獲得しました。

 そんな期待大の新プロジェクトに込められた思いを伺いました。

「ゲームという形式にしたのは、『楽しんでほしい』という思いがあったからです。通じ合えた喜びを、クリアした喜びとしてゲーム的に捉えていく。ほどよい苦労を重ねてクリアしたという状況を目指すのが趣旨です。特に子どもたちには楽しんでほしいですね。自分たち自身の力でコロナに奪われた機会を取り戻すのは難しいですが、このゲームはマスクをしながらでも、声を出さずに遊べます。チームビルディングなどにも活用できると思います」

 実際に筆者も体験させていただいたところ、意外な発見がありました。ジェスチャーが難しいのはもちろんのこと、ジェスチャーがわかったときに「もうわかったから次に進んで欲しい」と伝える方法がわかりません。もうわかっているのに、同じジェスチャーを続けられてしまい、もどかしい気持ちに…。でも、最終的に互いに伝えたいことが伝わり、ゲームをクリアできたときの喜びはひとしおです。

普段、どれだけ「声」に頼ってコミュニケーションをしているかがわかります。そんな体験を経て、街を見渡してみると、「声」や「音」でしか提供されていない情報が多いことに気づかされ、驚かされます。聴覚障がい者は、こうした環境で生活しているのか、と。

 チャレンジングな取り組みを続ける尾中さんですが、今後の展望が気になります。

「コミュニケーションが言語に依存することで、ある言語をうまく使える/使えないで上下関係が生まれているような気がします。つまり、声が聴こえないということが間違い、というような感覚です。

 しかし、コミュニケーションに大事なのはすり合わせです。私たちは今後も聴覚障がい者が教育を受けて社会で活躍することの潤滑油になりたいし、そのすり合わせに貢献していきたいと考えています」              

 ご自身の経験を生かしたクリエイティブな活動に、今後も注目です。
 執筆協力:大河内光明

テストプレイを重ねてより楽しいものに
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ボードゲーム「MUTERS」はもうじきお披露目です

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遠藤光太

ライター 遠藤光太

発達障がいの当事者。二次障がいでうつ病になり、休職を経験。現在、フリーライター。さまざまな媒体での記事執筆のほか、テレビ番組等で活動中。

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