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「本」として紡がれる、あなたと私のストーリー ~“生きている図書館”ヒューマンライブラリーで世界に一冊だけの本を体験してみませんか?~

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ライター:Media116編集部

1人の話し手と数人の聞き手が向き合い、30分の対話を通して理解を深め合う「ヒューマンライブラリー」という取り組みをご存知ですか? 話し手は「本」、聞き手は「読者」。「本」となるのは、障がいをもつ当事者やセクシャルマイノリティーなど、社会の中で誤解や偏見を受けやすい人たち。そのような人たちへの誤解や偏見をなくそうとスタートしたのが「ヒューマンライブラリー」という名の「図書館」です。

この「ヒューマンライブラリー」は2000年にデンマークで生まれ、2008年には日本でも初開催。現在は70か国以上で開催され、世界に広まっています。実際の図書館と同じように、「本を大切に扱う(=意図的に「本」役の方を傷つけるような言動はしない)」というルールがあり、本役の安全が約束されているのも特徴です。

今年で4回目の開催となる「超福祉展」では、11月7日(火)〜13日(月)の7日間、約100冊の本(約100名の話し手)が貸し出される国内最大規模の「ヒューマンライブラリー」が開催されます。そこで今回はMedia116独自の企画として、会期中に本役として参加予定である3名のマイノリティ当事者によるヒューマンライブラリーを実施。その様子を取材してきました。

トークの様子

<参加者紹介>
【本】 畑野とまとさん
トランスジェンダー活動家。国内最初のトランスジェンダーのためのサイト「トランスジェンダーカフェ」を開設。ヒューマンライブラリーの「本」役をこれまで何度も経験しているベテラン。

【読者】 忍足亜希子さん
ろう者、女優
1999年公開の映画「アイ・ラヴ・ユー」にて主演デビュー。日本で初めてろう者女優として映画の主役を務めた。ヒューマンライブラリーにはこの日が初参加。夫であり俳優の三浦剛さんが手話通訳を担当。

【読者】小澤綾子さん
筋ジストロフィー患者、アマチュアシンガー
SEとしてIT企業で勤めるかたわら、筋ジストロフィーへの理解を広めるため、歌や講演活動にも取り組んでいる。忍足さんと同じく、ヒューマンライブラリーにはこの日が初参加。

【対談ファシリテーター】坪井 健さん
日本ヒューマンライブラリー学会理事長、駒澤大学教授
日本におけるヒューマンライブラリーの第一人者。この日のヒューマンライブラリー参加者による対談の進行役を担当。

<ヒューマンライブラリーの流れ>
・本(畑野さん)が読者(小澤さん・忍足さん)へ自分についてのストーリーを語る
・読者からの質問など、本と読者が自由に対話
以上のやり取りが約30分間行われます。

「『心に性別はない』~畑野とまとさんのストーリー~ 」

とまとさん写真

畑野さん:
まずは自己紹介から。私は男性として生まれ、24歳頃から女性ホルモンを打ち始め、29歳で完全に女性としての生活に切り替えたトランスジェンダーです。1996年の7月に日本国内で初めてのトランスジェンダーのホームページ「トランスジェンダーカフェ」を作り、仲間を集めて、トランスジェンダーの啓蒙活動や情報交換をするようになりました。

1990年代に、日本ではトランスジェンダーを性同一性障害と呼んで病気の扱いをするようになりました。よく性同一性障害のことを「体の性別と心の性別が違う」なんて言い方をしますが、そうじゃなくて、私が言いたいのは「心に性別はない」ということです。

心の性別は、英語でgender identity。日本語では「性自認」と訳されています。でもアイデンティティは持って生まれたものではなく、生まれて育っていく過程で形成されるものですよね。例えば、女子トイレと男子トイレのように、世の中にはいろんなところに性別があって、それらをどうチョイスしていくかでアイデンティティが形成されていく。しかも、女性だからこう、男性だからこう、という全く同じアイデンティティにはならないはずです。                                

とまとさん写真

私の場合、なぜかはわからないけど自分を女性だと思っています。これは自分の感情が女性だから、というわけではないんです。よく「女だったらこうよね、男だったらこうよね」って、まるで女性や男性を代表したかのような言い方をする人がいますけれど、そこから外れる人だっていっぱいいるわけじゃないですか。だから「心に性別がある」なんてまやかしだと私は言いたいんです。

性別って実はもっと多様なのに、ある範囲からはみ出した人を差別する雰囲気が強いし、日本はまだまだ女性への差別がきつい国なので、男性から女性へ、女性から男性へシフトすることを良しとしないんです。それに、性同一性障害が今も疾病扱いされている。そんな状況の中で「その人の性別の形がどうであっても差別をしないでほしい」と、それだけを訴えているのが今の私の活動です。

ここから先は、みなさんの質問にお答えしていきたいと思います。

Q(忍足さん):
私のろう者の友人の中にも、トランスジェンダーの方がたくさんいます。トランスジェンダーを表す手話もあります。昔はみんなそれを隠していました。悩んでいる人もいっぱいいました。でも、ろうや盲や車椅子など、いろんな個性を持っている人がいていいと思います。とまとさんはトランスジェンダーという言葉について、どのように思っていますか?

A(畑野さん):
実はトランスジェンダーという言葉って、今の時代に通用しないと思っているんです。海外では1990年代に性同一性障害が病気から外れていますが、日本ではいまだにトランスジェンダーを性同一性障害と呼び、疾病扱いしています。

トランスという言葉には「超える」という意味がありますが、トランスジェンダーの他にトランスがつく言葉は2つあって、ホルモン投与で心の性別に近づけようとする人をトランスセクシャル、服装などの見た目で性別を超える人をトランスベスタイトと言います。この2つは1970年代に疾病扱いされるようになり、当事者たちがそれを否定するために作った第3の言葉が「トランスジェンダー」。だから、トランスジェンダーという言葉は海外と日本では扱いが違っているんですよ。

小澤さん写真

Q(小澤さん):
私は小学生の頃に筋ジストロフィーを発症し、20歳になるまで何の病気か分からなかったんです。その間、体は動かなくなるし、歩けなくなるし、人と違うことはわかるけれど「自分は何者なんだろう?」と自問する時期が続きました。とまとさんにもそのような時期はありましたか?

A(畑野さん):
当然ありましたよ。まず、私自身がホルモン投与に対する嫌悪感が強かった。自分以外の人がゲイやニューハーフであることは受け入れられても、自分がその立場になって女性として生きて行くなんて無理だという感覚が強かったんです。だから一歩を踏み出すまでには、ものすごく葛藤がありました。そんな中、すでにトランスしていたSEのおねえさんと知り合って、悩みを聞いてもらっていた時期があります。その方に「あなたは結局どうしたいの? あなたの人生なんだから、決めるのはあなたでしょう」と言われて。だから一人で解決したわけではなくて、相談に乗ってくれた人の存在も大きかったですね。

Q(小澤さん):
私も自分がみんなと違って一人ぼっちだと思って生きてきた時期が長かったので、そばで支えてくれる人、理解してくれる人、ロールモデルとなる人のいることが、私にとっては救いだったんですけれど、とまとさんにもそう人がいらっしゃったんですね。

A(畑野さん):
そうですね。トランスするちょっと前にニューハーフの友人もできたんですけれど、実際にトランスして生活している人が目の前に現れると「生きていけるんだ」って思えて、それがすごく大きかった。

Q(忍足さん):
もし生まれ変わったらどのようになりたいですか?

忍足さん写真

A(畑野さん):
今の人生でも面白いけれど、別の人生でも面白いだろうな。ただ、私はトランスしたことに後悔はなく、普通に生きている人よりも面白い人生を生きている自負はあるんですよ。私は親に孫の顔を見せることができませんが、ダイレクトに子育てはできなくても、活動を通して自分の次の世代のトランス、さらにその次の世代のためにできることがあるんじゃないかと今は思っています。「世の中がどう変わっていくのが良いのだろう?」とみんなでじっくり考えて、10年先、20年先の人たちから「あの人たちがこんな形を作ってくれた」と思ってもらえるように。

ここでちょうど30分が経ち、今回のヒューマンライブラリーは終了となりました。
終了後も「さっきの話の~ってどういうことですか?」「実は私も○○さんと友達なんです。」など、先ほどまで初対面だったとは思えないほど会話が盛り上がる皆さん。
ヒューマンライブラリーを体験して得た気付きや感じたことを、坪井先生の進行のもと話していただきました。

「当事者同士ならではの発見や気づき、そして勇気がもらえる」

Q(坪井さん):
それではここからは参加者の皆さんに、本日ヒューマンライブラリーに参加した感想などをうかがっていきたいと思います。小澤さん、いかがでしたか?

A(小澤さん):
こうやってテーマを設けてLGBT当事者の方から直接話を聞くのは初めてだったので、同じマイノリティとして似ている部分もあるし、全然違う部分もあるんだなと、自分と照らし合わせて聞くことができてよかったです。

Q(坪井さん):
忍足さんはどのような感想をお持ちですか?

A(忍足さん):
私にはトランスジェンダーの友人がいますが、このような歴史や生き方に関するお話を詳しく聞くのは初めてのことでした。トランスジェンダーは病気じゃないということが理解できました。私は生まれもってのろう者ですが、ろうが障害であることを疑問に感じていた経験があるので、とまとさんのお話を聞いて気持ちがすっきりしました。

Q(坪井さん):
とまとさんはこれまで何度もヒューマンライブラリーで本役をされた経験をお持ちですが、今回はいかがでしたか?

A(畑野さん):
今回は「心に性別はない」というテーマに絞り込んでお話をさせていただきましたが、これが「LGBTとは?」みたいな話になると、30分では到底足りなくなってしまいます。私の場合は基本的にアドリブで、読者の方たちによって話の内容を少しずつ変えるんです。そんなライブ感もヒューマンライブラリーの面白さだと思っているんです。

坪井先生写真

Q(坪井さん):
ヒューマンライブラリーの最中に、小澤さんが「私の場合はこうだった」とご自身のお話をされましたね。ヒューマンライブラリーにはこのように、本役がまずは自己開示をすることによって、聞き役である読者も自己開示が容易になるという特徴もあるんです。今回は特におふたりとも障がいの当事者ということで、マイノリティとして自問した、アイデンティティについて考えた経験が本役と共通し、共感性が高いと感じました。しかも、みなさんが自分の人生を肯定的に捉えて生きている。そこも大きいと思いますね。

A(忍足さん):
私が「生まれ変わったらどうなりたいですか?」という質問をしたのも、私自身もそのことについてよく聞かれるからなんですね。私はもし生まれ変わっても、ろうとしてまた同じ人生を生きたいと思います。今でも十分いろんなことがあるけれど、耳が聞こえたらもっとたくさんのことが入ってきて、受け止めきれないんじゃないかと思うから。

Q(坪井さん):
それもまさに、自分の人生を肯定的に捉えているから思えることですよね。それについては、とまとさんも同じなのでは?

A(畑野さん):
そうですね。ただ肯定的に捉えられるようになるまでには挫折経験もあって。乗り越えるタイミングも色々ありますね。転んでは立ち上がって、転んでは立ち上がって、っていう……。

A(忍足さん):
個性も皆さん違うと思いますけど、今までの歩んできた人生や経験、それは皆さん似ているんじゃないかと。だから話を聞きやすいですね。

トークの様子

Q(坪井さん):
皆さん何か共通したものはあると思うんです。それを普段は隠していても、ここでは開示していいんだ、と思える場ですね。それによって今日は皆さんの距離感も近かったと感じますが、どうでしたか?

A(畑野さん):
やっぱり、本になれる人はカムアウトできる人。日本はLGBTに限らず、自分のマイノリティを隠している人が多いんじゃないかな。ちなみに日本のLGBTのカムアウト率は4%くらいですごく低いんです。「東京レインボー・プライド」ではパレードで歩くLGBTは 5千人しかいないのに、台湾では10万人が歩くんですよ。

A(小澤さん):
私にとっては、誰にも言えないのはつらいですね。実は20歳で病名が分かってからもずっと病気のことを隠していて、27歳で隠すのをやめたらすごく楽になれたんです。ありのままの自分いられて、どこにでも行けることがすごく救いだと感じました。

Q(坪井さん):
見ず知らずの人に対して、友達のように自分のことを語れるヒューマンライブラリーは、すごく貴重な機会です。お互いがマイノリティの当事者として共感し合い、自己開示し合うとう意味でも、障がいのある方が読者になられると勇気をもらえる部分がきっとあると思うんです。そして読者として参加した方には、次はぜひ本役にもチャレンジしていただきたいですね。もしかしたら、自分を語るという意味でも、生きて行く勇気をもらえるのは本役の方が大きいかもしれません。


30分という短い時間でありながら、たくさんの気づきや発見を得られるのがヒューマンライブラリーの魅力。マイノリティの当事者だからこそ理解や共感ができ、勇気づけられる部分もあるようです。「超福祉展」では、畑野とまとさんが本役で登場されるほか、今回読者として参加した忍足亜希子さんと小澤綾子さんも本役に初挑戦。その様子は、後日改めてMedia116でご紹介します。

また「超福祉展」の公式サイトでは、ヒューマンライブラリーの参加予約を受付中です。ご興味のある人はぜひ、まずは読者から体験してみませんか?

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<超福祉展「毎日新聞×ヒューマンライブラリー」>
日   時:2017年11月7日(火)~13日(月)13:00-19:30(最終日は16:00まで)
場   所:渋谷キャスト スペース(多目的スペース)
詳細・予約

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ライター Media116編集部

障がいのある方のためのライフスタイルメディアMedia116の編集部。障がいのある方の日常に関わるさまざまなジャンルの情報を分かりやすく発信していきます。

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