統合失調症を抱える人たちの正しい「食べ方」ってどういうもの?~ひだクリニックの管理栄養士・伊藤佐絵子さんに聞いた~
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皆様こんにちは、統合失調症専門の就労移行支援「リドアーズ」の高橋です。さて、就労に向けて準備を進める上で、もっとも大切なことは生活習慣を整えること。わけても食生活の管理は重要です。そこで今回は、「るえか式栄養心理教育」の名の下、メンタルヘルスに問題を抱える方々に「食べる」ことに対する正しい知識を提供している「ひだクリニック」の管理栄養士・伊藤佐絵子さんに、食生活改善のための基本的な考え方を語っていただきました。
ストレスと過食の関係を考え直すことから
最初に確認しておきたいのは「ひだクリニック」における栄養指導が、通常よく見られるような摂取カロリー計算を主体としたものではないこと。その人が「太っている」「痩せている」という外見ではなく、血液検査の結果をもとに食生活の見直しを図っていきます。食べることとは楽しいことであり、決して苦痛に転じさせてはならない――私どもは、そう考えるからです。
その前提を導いたのが、ストレスと過食の関係に対する考察です。「ストレスでたくさん食べてしまう」――そんな悩みを抱えている方は多いと思います。しかし、単純に過食=悪と決めつけることができるでしょうか?
図表に掲げたダムの絵を見てください。この絵は人のストレスの蓄積と発散を「ダムの貯水と放流」で表現したもので、ひだクリニックが提唱する「るえか式心理教育」で利用されるものです。
精神の健康を保つ上での「危険水位」からストレスが放流されています。例えば、この放流の手段の一つが過食だとしたらどうでしょう? そう、過食とはストレスに対する自己対処法の一つであり、決してそれ自体が悪なのではありません。ですから、私どもは過食により太ってしまったとしても、太っていることそのものを問題視するのではなく、血液検査の結果を良くして心身の健康を保つことを第一に考えるわけです。過食してしまうことに対しいたずらに自己否定をしない、食行動とメンタルは密接に関係しているということを理解していただくことが大切です。
過食を抑えるためには、自己理解が何より大切
次に、ストレスと過食の関係を図表のパンジーの例えで説明してみます。群生するパンジーは心の全域を表しますが、その中に一つだけ青いパンジーがあります。これが悩みごとや困りごと、あるいは症状などのストレスの元です。
青いパンジーが一つでもあれば人はストレスを感じ、どうしても食べてしまいます。そして、青いパンジー=悩み事などを気にすればするほどそれは大きく育ってしまい、それに連れて過食も進行します。最終的に青いパンジーが心の全域を覆ってしまうと、もう過食は止まりません。
しかし、本当は青いパンジー=悩み事などが心の全域を覆ってしまうというのは幻想であり、それはパンジーの群生の中の一輪に過ぎないのです。そのことに気づくことが、過食を抑え、心身ともに健康でいるための最大のポイント。
では、いかにして気づくか――自己についてよく理解することです。自分の病状、思考のクセ、行動パターン・・・自己理解こそが、ストレス←→過食の負のスパイラルから抜け出す鍵といえるでしょう。
自分で決定する力を持ち、自らやせると決断することが大切
でも、過食により太ってしまった場合、やはり痩せたいという願望が生じるのが人情というもの。そこで大切なのが、やせることを強制されるのではなく、自らやせると決断してもらうこと。つまり、ダイエット等を「やらされる」のではなく、自らの意思決定で「やる」ことです。
るえか式では、この自己決定能力の強化を強く促します。自分で決定する力をもつことは、勇気を持って自らと向き合うこと、つまり自分自身を取り戻すことに繋がります。その結果、自らの行動が自らに変化をもたらすという好循環が生まれます。この辺り、就労に向けてのトレーニングと相通じるものがあります。
カロリー計算に基づくダイエットではなく、バランスの良い食事を心がける
糖尿病の方などは、摂取カロリー計算に基づくダイエットを推奨されますが、これは実行するのがなかなか難しいもの。そこでるえか式では、信号機のように色分けされた3つの食品群を食生活の指標として用います。赤・青・緑の群からバランスよく食べることが大切です。(詳細は農林水産省 「実践食育ナビ」等をご参照下さい)
<農林水産省 「実践食育ナビ」参照>
http://www.maff.go.jp/j/syokuiku/zissen_navi/balance/guide.html
そして――これはよく誤解されるところですが――ダイエットの上では食べてはいけないものなどありません。注意すべきは、①脂肪を抑えること②甘い飲み物は避けること③間食をとるなら菓子類ではなく果物で代用④基礎代謝を上げるために無駄に動くこと。この4点を守りさえすれば、好きなものを(ただしバランス良く)食べてもいいのです。
栄養教育も心身の健康を保つためのアイテムの一つ
人間は食べないと生きていけない生き物です。しかし、バランスを考えずに好きなものばかり暴食してしまうと太ってしまったり、体調を崩したり、はなはだしい場合は身体の病気を招いたりします。
メンタルヘルスに問題を抱える方々にしても、たとえ精神状態が安定したとしても、身体の健康が保たれなければ病気から卒業できません。また、仕事に就くにしても労働に耐える体力が必要であり、この面でも食事が重要になってきます。
「食べてはいけない」のではありません。問題は「何を食べれば良いのか」です。つまり、「食べ方」を考えることが重要なのです。その意味では、栄養教育も心身の健康を保つためのアイテムの一つといえるでしょう。
自ら自分の「食べ方」を考え、自身の健康に責任を持つこと――それこそが、自立や就労に向けての一里塚なのです。
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ライター 統合失調症のある方向けサービス リドアーズ
統合失調症のある方向けの就職支援サービス。統合失調症がある方の就職や安定就労のためのノウハウなど、統合失調症に関するさまざまな情報を発信していきます。
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