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【超福祉展】髪の毛で音を感じる装置Ontennaを体験して~聴覚障害者として感じた可能性~
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ライター:Media116/超福祉展2017
こんにちは。くらげです。Media116への寄稿は今回で2度目。編集部から「次は是非超福祉展を見て、当事者目線のレポートをください!」といわれ、渋谷ヒカリエで開催された大型福祉イベント「超福祉展」に行ってきました。
Media116では、先月特集を組んでいた位なので今更かもしれないですが念のため。超福祉展とはこれまでの「障害者はかわいそう」という存在から「障害があってもかっこいい・かわいいが実現できる」という意識のイノベーションを起こすために、4年前から渋谷で開催されている異色の福祉イベントです。
電動義手やカラフルなセニアカー、カーボンで作られた軽量車椅子、文字を認識して読み上げるメガネなど、これまでの「ダサい」というイメージを覆す支援機器展示が数多く展示され、濃い内容の講演・シンポジウムなどがビッシリ詰まっており、エキサイティングな空間でした。
新しい聴覚障害者にむけたデバイス「Ontenna」とは
さて、そんなあちこちに目移りするイベントの中でも、聴覚障害者として見逃せないのがOntennaの体験会と開発者の富士通のUIデザイナーの本多達也さんの講演でした。
Ontennaは見た目はただの大きなクリップですが、中にはマイクとバイブレーター、LEDが組み込まれているデバイスです。本多さんは「デバイス自体はとてもシンプルなもの」と言います。基本的な機能は、マイクで音を聞き取り、その音の強弱に合わせて光って震えるだけです。しかし、これは今までのろう者を支援する機器と全く違う新しいものです。
聴覚障害者が悩む「危険」
ところで、聴覚障害者が生活で困ることはどんなものがあると思いますか?人の話を聞くことができない、話すことができないというコミュニケーションの問題を答える方が多いんですが、聴覚障害は命に関わるトラブルが起こりがち、ということはあまり知られていません。
後ろから話しかけられてもわからないし、インターホンが鳴っていても気づきません。それどころではなく命の危機になることもあります。たとえば、後ろから車が暴走してきたら?やかんのお湯をかけたまま忘れていて沸騰音が聞こえなかったら?危険な状態な時に注意を促す声が聞こえなかったら?
歩きながらイヤホンを耳に挿して音楽を聴く人が増えて重大な事故が増えているようですが、ボクたち聴覚障害者は常にそういう「危険な状態」なのです。
ボクがOntennaに興味を持った理由
ボクがOntennaに興味を持ったのは、まさにそういう問題を抱えているからです。ボクは人工内耳と補聴器をつければ「ちょっと耳が悪い程度かな?」と思われる程度ですが、これは増幅された雑音の中から集中力と気合で声を拾ってなんとか理解しようと常に気を張り詰めているからです。もちろん、とても疲れます。なので、一人のときはできるだけ何もつけたくありません。しかし、つけないと何かトラブルがあったときに気づけない。そういう矛盾があるわけですよ。
そんな折、ネットでニュースを漁っていたらOntennaというこれまでなかったろう者支援デバイスの存在を知ったんですね。振動や光で聴覚障害者に合図を伝えるデバイスはいろいろありますが、面白いところは小型で髪に差すことを前提にしていること。まるでネコのヒゲが触覚の役割を果たすように、髪がセンサーになるんですね。「これは面白い!」と膝を打ったものです。
今回、Media116編集部より「Ontennaの取材にいきませんか?」と打診がありましたので、ちゃっかり楽しみつつレポートを作成させていただくことになりました。
Ontenna鑑賞体験 in ハチ公前
Ontennaが配られた!
超福祉展で行われたOntennaに関するイベントは2つ。11月11日に行われたハチ公像前の特設ステージでのパフォーマンス鑑賞体験と、12日の14時より渋谷ヒカリエで行われた「髪の毛で音を感じる装置Ontennaと新しい音体験の世界」と銘打ったシンポジウムです。
11日の体験会では特設会場に入場する時、Ontennaのプロトタイプが配られて髪、または振動を感じられるところに装着するように説明がありました。つけてみると周囲の雑音に合わせてブルブルと震えて光ります。確かにシンプルかつ確実に物音を伝えることができると感じました。
開発の経緯
鑑賞体験は、まず、開発者の本多達也さんから開発経緯の説明から始まりました。本多さんは大学時代にたまたまろう者と知り合い、「彼らに音を届けたい!」と研究を開始。「どこにつければもっとも邪魔にならずなおかつ敏感に気付くことができるか」を考え詰めた末「髪の毛につければ全く新しいインターフェイスになる」とコンセプトデザインができたそうです。300個にのぼるプロトタイプを開発したとか。
渋谷のど真ん中でタップダンスを楽しむ
説明が終わってOnttenaの鑑賞体験が始まりましたが、内容はなんと渋谷のど真ん中でHIDEBOHによるタップダンス。どうやったら普段経験できない音楽をろう者でも楽しむことができるかと考えたところ「タップダンスをOntennaで楽しめることはできないか」と思いついて企画したそうです。
渋谷に響き渡る絶妙なタップに合わせて、Ontennaは調子よくブルブル震え、薄暗くなりつつある渋谷駅をブルーのLEDでキラキラ輝いて特別なひとときを演出していました。
実際に使ってみての感想
ボクはあえて補聴器も人工内耳を外してタップダンスを鑑賞していましたが「音の強弱」が結構再現されていて驚きました。Ontennaがなくてもある程度のタップ音は振動として楽しむことができるのですが、バイブの強弱で迫力に深みが出ていましたね。
来場していたろう者にも話を伺ったのですが「タップダンスのリズムが早い部分でずっとバイブが同じ強さで震え続けているのでよくわからなくなった」「振動が強すぎて痛かった」という声もありましたが、概ね「リズムがはっきりわかって面白かった」「音楽ってこう聞こえているのか」と驚いている方が多かったです。これは聴覚障害者の音楽の楽しみ方が増えるなと可能性を感じつつ会場をあとにしました。
トークセッション「髪の毛で音を感じる装置Ontennaと新しい音体験の世界」~Ontennaの使える場面について~
翌12日はNPO法人ピープルデザイン研究所代表理事の須藤シンジ氏と本多さんのトークセッションが開催されました。前日とほぼ同じ開発経緯が語られた後、Ontennaはどのような場面でろう者の役に立つかの説明がありました
紹介されていた事例は「掃除機のコードが抜けていることに気づかなかった」「本に集中している間、来客が気づかなかった」という事例でしたが、他にも使える場面は無数にあり、まさに危険を回避することができるデバイスだな、という強く実感しましたね。
次に、ろう学校で生徒に音のリズムを実感してもらう、映画のBGMを振動で伝える、スポーツの観戦中に盛り上がりを知る、などの実証実験を行っている様子が動画とともに紹介されました。ボクが印象に残ったのは、自分の声を聞き取れない生徒がOntennaに話しかけ、その振動に驚いている様子でした。ろう者にとって自分の声にダイレクトにレスポンスがくるという体験はなかなか新鮮なものです。これも応用できる範疇が広そうですね。
とりわけ実証実験でOntennaの特徴が出ていたのが狂言の体験。情報保証があれば狂言のセリフは字幕でわかりますが、狂言独特のリズムはわかりません。そのリズムをOntennaで体験するのはとても面白い試みで、ボクも体験してみたい世界と感じました。
手話タップダンサーのパフォーマンスも
手話タップダンスダンサーによる鑑賞体験も挟まれて、参加者たちは振動と光と音のコラボを楽しむことができました。ボクは手話もできるのですが、ダンサーの手話をベースにしたパフォーマンスがとてもすばらしく感じて「ろう者のほうがの楽しめるダンスもあるのだなぁ」と感動しましたね。
統括的な振り返りとOntennaの可能性
最後に、統括的な振り替え里がありました。須藤氏は「Ontennaは情報保障でなく、リアルタイムでろう者も健常者も盛り上がることができる装置。ろう者への情報保障はどうしても情報の伝わるテンポが遅れがちだが、Ontennaはその壁を超えることができる」とこれまでの支援機器との違いを強調。
さらに「Ontennaの利用範囲はろう者に限定されるものではない、光や振動でスポーツ観戦の一体感を高めたりすることができる」というろう者も健常者もないイベントの可能性について熱く語っていました。
また、前日のハチ公前のタップダンスを鑑賞して、「障害者の支援のためのスペシャリストは大切だが、健常者も障害者の垣根もなく従来の福祉をどう超えるかが超福祉展だ。ハチ公前のタップダンスの音と光と振動の共鳴にそれを見ることができた」と改めて超福祉展の意義を確認したそうです。
本多さんも須藤氏のコメントに同意しつつ、「これからもよりろう者が使いやすいものになるよう開発を続けていき、世界中のろう者にOntennaを届けたい」というビジョンを語られていました。
取材をして感じた「おもしろみとギャップ」
ざっくりと2日間を振り返ってみましたが、デバイス本体自体もそうですが、本多さんのキャラクターにおもしろみを感じました。見た目はおとなしそうですが、中には情熱がすごく詰まっている。徹底的にろう者とぶつかって意見を聞き、「障害」の垣根を越えて「より良いものを作ろう」とする姿勢はまさに「超福祉」の体現だなぁと。
また、須藤氏が何度も述べていた「Ontennaはろう者だけでなく健常者にも楽しめるデバイスになる」ということは間違いなく、ボクも同じように考えています。しかし、まずは「ろう者の身を守る」デバイスとして進化してほしいかな、とも思って、この辺は「健常者」としてみるか「聴覚障害者」としてみるかの違いが現れているのかなと。
この「ギャップ」は超福祉展の企画全体に感じたものでもありますが、超福祉展は「障害」をかっこよくするためのイベントです。「障害者当事者」に向けてではなく、「障害をあまり知らないサイド」にこそ情報を発信している。実際に、Ontennaを体験してみた健常者も「これはクールだ!」と目を輝かせていました。ですから、「かっこいいデバイス」ができたことはボクも一障害者としてして素直に喜びたいですね。
市販されてからが楽しみです。
近いうちにOntennaは市販されていくでしょうけども普及すればいまはまだ想像できない「使い方」が無数に開発されていくでしょう。このデバイスが世の中をどのように変えていくのか、楽しみにしていきたいですね。
では、今回はこれくらいで。皆様、「一つの道具が持つ可能性」を想像しつつ踏ん張りましょう。では。
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ライター Media116/超福祉展2017
2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!
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