「全ては捉え方次第」事実を、自分自身を受け入れるということ
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!Media116編集部です。今回、双極性障がいの当事者であるAさんにお話を聞かせて頂きました。働き盛りの20代半ばでうつ症状が出、転院する中で最終的についた障がい名は「双極性障がい」。発症から現在に至るまで紆余曲折を経て、現在のAさんの心境とは…?
事実や障がいをどう受け取るか。全ては「捉え方次第」
「今の僕の言葉は1年前の僕には言えないし、きっと1年後は違うことを話していると思います。」Aさんはそう前置きをしました。
今回の取材の中でAさんが読者の皆さんに一番伝えたかったのは「障がいも事実も捉え方次第」だということでした。
「文献や記事など情報が溢れている中で、それが本当かそうでないかがは大事なんじゃないんです。それを自分がどう受け取って行動するかなんだと思います。僕は障がいに向き合うことで捉え方を変えていきたいんです。捉え方を簡単に変えることはできないし、時には失敗もしますが、少しでも今後うまくやっていくために、自分自身や障がいと向き合っているんだと思います。」そう彼は語るのでした。
発症から確定診断までの長い道のり
Aさんは大学卒業後、一般企業に入社されました。しかし26歳の時、本社への出向をきっかけに体調を崩し、元々細身だったにも関わらず更に3kg体重が減ったと言います。その理由は周囲と比較して「できない自分」を認められなかったからかもしれない、そう彼は言いました。
「周囲の人はいい人でフォローもいただけましたが、自分自身の仕事で、期限までに他部署の意見をまとめられないとか、関係会社ともうまく調整がつかなかったりが続いて…。上司が夏季休暇に入る日、自分を守ってくれる人がいなくなる気がして、朝起きられなくなったんです。」
その時に下された診断は「適応障がい」。Aさんは休職を余儀なくされました。その後残業を配慮して頂きつつ復職しましたが、1年後に再発し2度目の休職に至りました。
しかし、配慮として減らして頂いていた業務をもっと頑張りたいと思い、体調が万全ではない中で転職を決意されたのでした。「今思うとあの時は軽い躁状態だったと思います。」入社した次職では入社2日目で欠勤、その後も業務が多忙な中で食事量は減る、寝つけない、起きられない・・・。在宅勤務をするも、頭がぼーっとして動かない状態でした。
体調が改善しなかったこともあり職場の人に勧められて転院することとなったのです。そして転院先の担当医に勧められ3ヶ月入院することを決めました。この時同時に体調に限界を感じ、退職することも決められたのでした。
「はじめは入院を受け入れられませんでした。隔離された感じに抵抗感を覚えました。」入院時の印象をそう語るAさん。
外泊ができるようになってから退院後の生活が不安で転職活動を始められましたが、面接などに際して遠い距離を通うことで体調を崩し、食事と睡眠以外はなにもできないという状況に陥ってしまいました。「その時はじめて自分は体調が悪い人なんだな、あーうつなんだなと自分の症状を自覚したんです」彼はそう語りました。
その後、自宅療養のため地元に戻り転院したところ、「双極性障がい」と診断名が変更になりました。そして薬が変わったことで少しずつ効果があらわれ体調も安定するようになってきたといいます。
就労移行支援を経て、職場へ障がいを公開
体調も安定の兆しを見せていた中、就職のため地元に戻る決心をされました。帰省してから3カ月間、なるべく外の世界に触れようと試みても行く場所がない、時間を過ごすにもお金がかかる…就職活動に繋がっているという実感がわかなかったと言います。
そんな中インターネットで就職について調べていた時に障害者雇用を知り、手帳を取得して働く道もあると知ったそうです。同時に就労移行支援を知り、すぐに就職をするよりも訓練をして精神的にも安心感を持ちたいと、その道を選ばれました。3カ月程通所された中で、特に「ストレスマネジメント研修」は就職した今でも体調を安定させ勤務するために役に立っていると言います。
その後一般企業にて障がいを公開した上で入社し、対人折衝業務に就きました。しかし対人折衝が思わぬ負担となり一般職へと転換。紆余曲折がありながらも現在まで約3年勤続されています。週に何度か在宅勤務の配慮を頂きつつ働いているAさん。「会社側からの配慮の中で一番助かったことは?」と伺うと
「もちろん在宅勤務などの配慮は有難いのですが、一番は配慮してくださっていることを『配慮』と言われないことが一番嬉しいですね。」
障がいへの配慮も「配慮」とは呼ばず、個々人に合わせた対処としてみてくださる現職に非常に感謝していると言います。
障がいは「障壁」Aさんの本音
物事を前向きに考えられ行動に移されているAさんですが、取材の中で当事者としての本音が垣間見えた部分がありました。
「障がいは社会がつくるものだという人もいれば、個性という人もいます。ですが、僕にとっては障壁でしかないと感じています。やっぱり健常者が羨ましいと思う部分もあります。僕には体力がなくてエネルギーの限界がありますが障がいのない人はその幅が広かったり、手放しで何も気にせず楽しむことができることとか。服薬や体調管理の必要がなかったりとか…。障がいを受容しなければ…なんて思ったりする中でもやはり葛藤がありますよね。」
Aさんは楽しい場にいても常に不安が付きまとうのだと言います。「自分の躁状態が把握しきれていないので、しゃべりすぎていると感じた時にはもしかして…と感じるんです。」また、気分が良いと感じた日に予定を詰めた際にも、もしかして?と思い不安になると言います。躁状態になったあとにうつ症状があらわれるので躁状態を避けようと工夫するもまだ限度が掴めていないのが悩みだと言います。
「ちょっと元気なくらいが心配になります。躁状態なのか、ナチュラルハイなのか…病的なラインが見えないので気を遣えば遣う程どうしようと思ってしまいます。」
躁状態だったかな?と感じた時には早めに寝たり、次の予定を入れないといったブレイクタイムを置いているそうです。自分の状態を把握することに努めて最大限のコントロールをしようとしているとお話されていました。
「障壁」と思われていることをご自身なりの対処で乗り越えようとされているAさんはとても強い方なのだと思うのでした。
企業側の精神障がい者の雇用への不安、彼が願うこと
現在の精神障がい者の雇用について彼が思うことは、精神障がいのある方の受け入れに消極的にならないで欲しいということでした。「見えない障がいなので不安」という一部の企業の考えに対しては不安ばかりが先走っているように感じると言います。
「精神障がい・発達障がいのある方が働きやすい職場環境は他の障がいのある方、または障がいのない社員にとってもきっと働きやすい環境であると思うので、会社や社会はその状態を目指してほしいなと思います。」
また、障害者雇用においては障がいを「受容」できているか、という部分がみられることがあります。Aさんはその障がいを「受容」するという言葉に抵抗を覚えると言います。
「障がいを受容するということ自体難しいと思うんです。障がい受容というより、自己理解が必要なのだと思っています。自分のこと、自分の障がいについてどれだけわかっているかという考え方のほうがしっくりきますね。」
一概に「受容」という言葉でくくってしまうのではなく、ひとりひとりがどれくらい自分(の障がい)を理解し対処しようとしているか、そこに注目して欲しいとAさんは思われているのでした。
「しんどい」に真正面から向き合う
最後にAさんは、いま障がいへの向き合い方、捉え方が難しい人と感じている方へこう伝えたいと言いました。
「いま向き合い方、捉え方が難しいなと感じていても時間が経てば変わると思います。人間、なにかの機会があれば変わっていくものです。だからいまは向き合い方、捉え方が”難しい!”でいいと思うんです。変えようとしなくても、今は今の自分のままでいいと思います。今の自分を受け入れることが大事なんです。それが一番しんどいですが…(笑)」
様々な困難や「障壁」からもAさんは決して逃げず、目を逸らさなかったのです。一番「しんどい」ことに真正面から向き合う勇気を持つことが大切なのだと、彼の生き方から学ぶのでありました。
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