「人から愛される人に」障がいのある子が生まれた時、父が心に決めたこと
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ライター:Media116編集部
みなさんこんにちは!Media116編集部です。今回、障がいのある子を持つ父であるAさんに取材をさせて頂きました。障がいのある子を育てるうえで大切にしていること、我が子への願い、そして社会への想い…。彼の未来を見据える姿勢や行動力に驚かされることばかりなのでした。
「笑っていないと損!」障がいのある子の親になった時、決めたこと
「一人息子が知的障がいを伴う自閉症です。子供を通じて痛感した障がいを持つ方を取り巻く社会の問題。障がいの有無に関わらず誰もが自分らしく幸せな人生を送れる社会にすることが、僕のミッションです。」取材の中でそうAさんは語りました。
Aさんのお子さんは中度の知的障がい、自閉症、聴覚過敏、吃音などがある小学生の男の子です。着替えや準備など自分の周りのことはある程度できるようになり、教えることもおおまかに理解できるようになった年頃だそうです。しかしまだ対人コミュニケーションが苦手なところがあったり、こだわりが強く困難な場面があったり、パニックに入りやすいシーンもまだまだあるそうです。
子育てをするにあたって、障がい特性にあわせどんな工夫をされていますか?と伺うと、「環境の変化に弱いので、まずは安心できる環境づくりを心がけています。タイムスケジュールカレンダーでの事前確認、ある程度のルーティン、生活パターンの固定化などですね。学校生活でもどうしてもできないことが目立ってしまうので自己肯定感を持ってもらうために家庭では少しずつできることを増やしていき、できたら褒めまくるようにしています。あとイヤーマフは必需品です。」
様々な工夫を凝らしながらも、「できない」ことに目を向けるのではなく「できる」ことに目を向け、本人が達成感や自己肯定感を感じられるようにされていらっしゃるそうです。
「僕は昔からポジティブな方でした。けれど、一度だけ目の前が真っ暗になるという経験をしました。それは子供に障がいがあるとわかった2歳半検診の時。愛の手帳に子供の写真が貼られているのを見たその時です。これからどういう教育をしていけばいいんだ?自分が死んだ後この子はどうやって生きていくんだ?そんなことがぐるぐると頭を巡っていました。しかし、悩んでいる自分をよそに子供はニコニコしてすくすくと育っていく。悲観している時間は無駄、楽しんでいないと損だと思ったんです。」
お子さんを持つと同時に、Aさんは障がい者の就労を支援するゼネラルパートナーズへ転職を決めたのでした。
「将来を悲観している障がいのある子の親に対し、障がいがあっても仕事はあるんだよ、と説得力を持って説明できるようになりたかったんです。」
彼は課題を社会や人任せにせず、自らが解決するために行動を起こすと決めたのでした。
「人と一緒」の教育に感じる懸念
Aさんのお子さんは障がいのない子と障がいのある子が一緒に通える学校に通学しています。配慮も行き届き、障がいのない子との関りもあり、社会的自立を目指すための教育も施され満足はされている一方で不安な側面もあると言います。
それは「人と一緒」であることを中心に据えた教育方針。社会のルールやマナーなどを教育してもらえることは有難い一方で、多様性が認められる現代社会において幼少期から強く「人と一緒」の教育を受けることは果たして子供にとっていいことなのだろうか?新しい可能性を開拓していく方が良いのではないか?…そんな思いもありながら通学をさせているのは、現段階では最低限のルールを子供に身に着けてほしいという思いからだそうです。
「ルールを身に着ける」言葉にすればたった一言ですが、それには我が子への願いが隠されているのでした。
「人から愛される人」になってほしいという願い
Aさんが教育の中で一番重要視されていることは「人から愛される人になること」だと言います。
「多分息子は死ぬまで誰かの支援が必要です。人に愛されるために最低限のルールやマナー、教養などの社会性を身につけること。その上で得意なこと、楽しいことをめいっぱい伸ばしてもらい、楽しく素直に生きていくこと。そうした人には人がついてくるし、困ったときに人が助けてくれると思っています。」Aさんは言いました。
人から愛されることでできないことを支援してもらいながら成長していく。その上で本人のスキルや強みが見えてきたときに目標に向けてスムーズに歩めるように…。
現在の学校にお子さんを通学させている理由はこの「人から愛される人」になるために必要な第一歩だと言います。障がいのない子とある子が混ざり合う、インクルーシブ教育は社会に出る時のための練習だそうです。
例えば休み時間などに「遊ぼう」と障がいのない子から誘われるのが第一関門、しかし誘われてばかりだと飽きられてしまうので、次の関門は自分から誘うこと…など、「人から愛される人」になるためには受け身でいることだけではなく、きちんと交流というものを学ぶ事が必要なのです。
多様性を認める社会に子どもを送り出したい
子育てをしていく中で課題だと感じることがあると言います。それは障がいのない人とある人の接点が少なすぎるということ。
「学校教育もそう、社会の雇用制度もそう。一緒に過ごせばもっと相互理解が深まるし、相互に補完し合う作用が働くと思います。」そうAさんは語ります。
そしてこう仰るのでした。「会うという必然性が大切」であると。自然な流れで交流ができるのであればそれに越したことはありませんが、それが難しい状況にある社会の中では何かしらをきっかけとして意図的に接点を持つ「最初の一歩」が必要なのだと語ります。
Aさんはお子さんが成人になった時、「より多種多様で、障がいの有無や性別や国籍やバックグラウンドなど関係なく、共に生きやすい社会になっているといいなと思います。」そう語りました。少子高齢化が進み外国人労働者の受け入れや移民対策、封建的であった日本は必然にかられどんどんと多様化していくことが予想されています。Aさんはその変化をポジティブに捉えたいと言います。
Aさんは仕事上、ポテンシャルはあっても障がいがあるからこの切り出し業務しか任せられない、外国人を雇うのは怖い、などの偏見やネガティブな話ばかりが聞こえてきてしまうと言います。
「自分の偏った価値観をなぜ普通だと思ってしまうのでしょうね。皆が皆違うということをポジティブに捉えられるような社会になってほしいです。」そう語りました。
Aさんが望むのは多様性を認めた上でできる「共生」だったのです。
理想の社会を自分の力で切り拓く
「多様性を認め誰もが自分らしく幸せな人生を送ることができる社会」にどうしたら近づくことができるのでしょうか?そう伺うとAさんはこう答えました。
「まずは障がいのある方と健常者社会との接点を増やしたいと思っています。その一歩は雇用の現場で、なぜならば雇用現場はお互いの働きが企業活動(互いの利益)に直結しているため、互いが無くてはならないと認め会える場として適しているのではないかと思うからです(もちろん障害者雇用をしている企業の中でもそのような機会を提供できているケースは多くないと思いますが…)。そういった意味でも障がいのある方を戦力として、企業活動を支える仲間の一員として迎え入れるような企業を多く増やしていくことで、お互いの理解を深めていきたいと考えています。」
その目標を実現した後、叶えたいことはまだ沢山あると言います。
「障がいが重度の方を対象にした“住まい”と“仕事”の問題に取り組みたいです。」そう語るAさん。
「障がいが重度になればなるほど隔離された環境に置かれやすく、社会や障がいのない方との接点が少なくなると感じています。そういった方を社会とつなげることで相互作用が生まれるのだと思います。お互いに見て、触れて、一緒に時間を過ごして学び学ばれることがあるといいなと。住まいについても、現在は“はたらく”という時間で社会と障がいのある方の接着を増やそうと試みていますが、それは人生の一部分でしかないと思うんです。だからより長い時間を費やす住まいや余暇といったプライベートの時間で交流する場をつくれたら理想です。」
当事者のあなたへ、障がいのある子の親として伝えたいこと
最後にAさんは障がい当事者の方へ、障がいのある子の親として伝えたいことがあると言いました。
「皆違っていい。全然違っていい。その前提の上でそれぞれの考えを主張していい。行動していい。もし当事者の方で、障がいを理由に、認めてほしいと思うことを引け目に感じ発信や行動ができていない方がいるならば、そんな風に思う必要は全くないと僕は思います。障がいの有無に関係なく、楽しく生きましょう。」
ここまで取材をさせて頂いて、Aさんの「楽しく生きる」という言葉は決してAさんが「ポジティブ」だから出た言葉だということではないと感じました。私は思うのです。様々な困難を乗り越え、紆余曲折を経験し、それでも常に未来を見つめているからこそ出た一言なのだと。
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