一つじゃない 第13回
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ライター:風来坊
障害者差別解消法では「不当な差別的取り扱いの禁止」を明記しています。
これは「障がい者はココに来るな!」と言った障害を理由とした社会参加の妨害を禁止するものです。
また、医師には「応召義務」というものがあり、患者が治療を求めた際には応じなければならない義務があります。
では、病院は「不当な差別的取り扱いの禁止」を守っているでしょうか?
医療従事者は障がい者の理解者か?それとも…。
<日本は障害を理由とした差別的な扱いを禁止しているが…>
2016年「障害者差別解消法」が施行されました。その中に「不当な差別的取り扱いの禁止」という項目があります。
これは行政だけでなく、民間事業者対しても「障害を理由に差別的な扱いをすること」を禁止しているのです。
わかりやすく言うと「障がい者は市役所に来ないで。」や「障がい者はうちの店に来ないで。」と言ってはいけないのです。
しかし、現実はどうでしょうか?
<ケース1 医療機関が精神障がい者の骨折の治療を拒否>
数年前、私は利き手を骨折し、宮城県I市にある「精神科の無い総合病院」に救急車で運ばれました。
レントゲン検査の結果私の手は骨が折れ曲がり、医師からは「手術と入院が必要。」と診断されました。
しかし、私は実際には何の治療もされず、他院の紹介も受けられずに帰宅させられ、ようやく私の手を診てくれる医師と巡り合った頃(受傷から3週間以上経過)には「手術に適した時期が過ぎた。」と診断され私は利き手の機能を失いました。
なぜ、最初の病院が私の手の治療を拒否したかについて、後に取得したカルテにはこう記載されていました。
「手術が検討されたが精神障害があり入院生活は難しいと考えられるため帰宅させた。」
なぜ「精神科の無い総合病院」が私の精神科の既往歴を知っているかというと、「お薬手帳」などから私のかかりつけの精神科医に「精神科の無い総合病院」が連絡し私が「精神障がい者」と知ったからでした。
つまり、この「精神科の無い総合病院」では「患者が精神障がい者と分かった時点で治療を拒否する方針」だったのです。
<ケース2 医療機関が精神障がい者のMRI検査を拒否>
宮城県H市にある社会福祉法人では、精神障がい者の通院に付き添うことが多々あるそうです。これは社会福祉法人に通院への付き添いを希望した精神障害のあるAさんの実体験です。
脳神経外科の治療を必要としていたAさんは治療のためにまずMRI検査を受ける必要がありました。
しかし、その脳神経外科では、
「精神障がい者がMRIの中で40分間じっとしていられるわけがない」
と検査の拒否、即ち治療の拒否をしたのです。
そうした理由で現在もAさんは治療を受けられていないのです。
<ケース3 歯科医が障がい児の治療を拒否>
宮城県I市では、障がい児は市井の歯科では歯科診療を受けられませんでした。
理由は歯科医師が「障がい児に麻酔を使う自信がない」というものでした。
ですから、I市に住む障がい児が歯科診療を受けるためには遠い仙台市にある大学病院に行かなければなりませんでした。
I市から仙台市までの移動時間(車でも電車でも同じくらいの時間がかかります)は新幹線で仙台~東京間を移動するよりも時間がかかります。そんな長距離移動という負担をI市の障がい児達は何度も耐えなければならなかったのです。障害が有るというだけで健常児よりも負担を強いられることが平等な社会でしょうか。
そんな中でI市で訪問歯科診療を行う一人の歯科医師と支援学校の保護者らが署名活動を行い、現在のI市には障がい児の歯科診療を受け付ける歯科が1軒できたのです。
<ケース4 医療機関が精神障がい者の入院を拒否>
これは宮城県H市にある社会福祉法人を利用する精神障害のあるBさんの実体験です。
Bさんは入院が必要なほど内科の治療を必要としていましたが、行く先々の医療機関で「精神障がい者だから。」と入院を拒否され続けていました。
Bさんは付き添いの社会福祉法人と何件もの医療機関を回り、ようやく入院を受け入れてくれる医療機関と出会いましたが、Bさんの状態は悪化しており、当初の「1週間ほどの入院が必要。」という診断が覆り、2週間以上経った現在(取材当時)も退院を見込めないほど状態が悪化しています。
<医療機関による障がい者差別>
いかがでしょうか?
今回は私も含め3人の精神障がい者が必要な医療に辿り着けていない現実を綴りました。
医療機関による障がい者差別により、
一人は、利き手に障害を負い。
一人は、検査も受けられない。
最後の一人においては、現在も生命の危機に晒されているのです。
しかし、こうした差別は全ての医療機関が行っているわけではありません。
I市やH市のようなド田舎では医療従事者による差別が現代でも平然と横行していますが、仙台市(政令指定都市)程度の規模が有れば、そうしたアカラサマな障がい者への差別は少ないのではないかと仙台市の社会福祉法人関係者は話しています。それは仙台市がたくさんの障がい者の人権擁護などを応援する施設、団体、当事者会がそろっているからではないでしょうか。
つまり、好き放題に暴れても誰にも咎められないという程度の低いド田舎では障害者差別解消法の「不当な差別的取り扱いの禁止」を守るメリットがなく、むしろ自分本位な医療を提供したい医療機関にとって「不当な差別的取り扱いの禁止」を守ることはデメリットでしかないのです。
本来であれば患者に寄り添う存在である医療機関ですが、程度の低いド田舎だからこそ患者を選ぶ殿様商売のような横柄な医療を展開できるのではないでしょうか?
ド田舎の医療機関には
「医療機関のミッションとは何か?」
「精神障がい者を病院から追い出すことで地域医療の質が向上するのか?」
と聞いてみたいものです。
あなたの住む地域の医療機関は誠実な医療機関ですか?
それともド田舎の医療機関ですか?
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ライター 風来坊
東北の片田舎在住のアラフォー。 児童虐待、いじめ、パワハラ、自傷による措置入院を経験。 田舎では福祉に偏りがあると考え30代から大学で福祉を学ぶ。 数年前には事故で利き手が不自由になり、現在はリハビリを兼ねた趣味(プラモデル、ニードルフェルト、UVレジン)に没頭中。 いつか全ての人が楽しめる駄菓子屋を開きたい。
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