【超福祉展】「本」として紡がれる、あなたと私のストーリー ~ろう者の女優、忍足亜希子さんが国内最大規模のヒューマンライブラリーで「本」役に挑戦~

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【超福祉展】「本」として紡がれる、あなたと私のストーリー ~ろう者の女優、忍足亜希子さんが国内最大規模のヒューマンライブラリーで「本」役に挑戦~ タイトル画像

ライター:Media116/超福祉展2017

話し手が「本」、聴き手が「読者」となって対話するヒューマンライブラリー。障害当事者やLGBTなどの社会的マイノリティーが「本」役となり、数人の読者と30分間対話することで、等身大の理解や共感を促します。

渋谷で現在開催中の『超福祉展』(11/7~11/13)では、会期中の7日間で100冊の本が貸し出されるという、国内最大規模のヒューマンライブラリーを実施しています。

今回の記事は、障害当事者によるヒューマンライブラリー体験の第2弾。前回「読者」役を初体験した、ろう者の女優の忍足亜希子さんが「本」役に初挑戦しました!

本のタイトルは「音のない世界に生きる『ろう者』の私」

「読者」は、Web予約や飛び入りなどで参加された、スズキさん、ヒロシさん、アヤノさん。もちろん全員初対面です。※第1弾は文末のURLからご覧ください。

初対面の方が対話することから、物語の流れは「読者」によって変化します。世界に一つだけの「本」と「読者」の対話から生まれた物語とは―。

「音のない世界に生きる『ろう者』の私」~忍足亜希子さんのストーリー~

忍足さん2

忍足さん:
私の家族は、私以外全員健聴者です。私は幼少の時、北海道の千歳に住んでいたのですが、ろう学校は近くにありませんでした。

4才の時横浜に引っ越した際に、初めてろう学校に通い始めますが、その時点で私は言葉を全く知りませんでした。視界に入ったものを眺めては、(これはなんだろう)というような疑問が湧くばかり。話しをするすべも知らなかったので、ぼんやりした子供だったと思います。

まだまだ誤解の多いろう者教育の現状

ろう学校では声を出す練習と言葉の勉強をしました。音が聞こえないのに、どうやって発音の練習をするのか分かりますか?先生が声を出すときの喉の振動を、手で触って学ぶのです。6歳まで発音の練習をした後、小学校に入学すると先生の口話を読み取る訓練が始まりました。
でも、「たまご」「たばこ」「なまこ」の口の動きは全く一緒に見えます。一生懸命頑張るんですが、口の動きだけで正確に言葉を読み取るのはとても難しいです。

当時、どのろう学校も口話教育のみで統一されていて、手話をしてはいけませんでした。口話教育というのは、つまり聴者に合せて育つように考えられた教育です。口話だけというのはとても大変なんです。

想像してみてください。言葉を覚えるために、絵と単語を結び付ける勉強をしますが、私にとって音は口の動きです。異なる音でも同じ口の動きをする字が複数ある中で、口の動きの組み合わせと絵とを結び付けるわけです。それはとても難しい作業でした。文字を見て、言葉を理解し、内容を把握するに至るには、普通の人の倍以上の時間をかけなければいけませんでした。

忍足さん3

分かりやすかったのは漫画です。簡潔な会話のやりとりと絵で、雰囲気をつかむことができました。言葉だけでなく生活音などの雑音がどんな感じかが分かります。お湯が沸くときにやかんが「ピーッ!」とか、雨が「ザーザー」など。生活の中にはこんな感じの音があるんだと知りました。だから実は、誰もいない部屋の中では同じように「シーン…」という音がするし、雪が降る時は「しんしん」という音がするんだとずっと思っていました(笑)

国や地域、時代の文化を反映する手話

ろう学校では友だち同士で内緒で使う、手話のような「スクールサイン」というのがありました。口話でのコミュニケーションだけでは、正確な意思疎通が難しいからです。卒業して社会人になってから、先輩が手話を使っておしゃべりしてるのを見ました。それが、私と本当の手話との出会いでした。すでに20歳になっていました。それから、先輩たちと会うたびに先輩同士のおしゃべりを見て、盗むように手話を覚えたんです。

手話は、文化を反映しています。例えば「食べる」は日本では右手をお箸のような仕草で、アメリカではフォークとナイフ、あるいは手でパンを持って食べるような仕草になります。

手話には方言もあります。例えば、基本の「水」は蛇口をひねって流れるイメージから来ていますが、大阪弁では両手ですくって飲むイメージ、島根弁だと水車なんですよ。

そして、手話は時代も反映します。最初の「携帯電話」はアンテナ付きで、今では画面を横にフリックする仕草で「スマホ」です。手をL字にして上フリックをすると「LINE」になるんですよ。時代や文化の変化に応じて、新しい手話も生まれていきます。

また、口話には無い利便性があります。例えば私のまわりにはダイビングをしている友達がたくさんいるんですが、手話があれば、水中でも地上と全く変わりなくコミュニケーションをとることができます。手話って便利でしょう?ダイビングがきっかけで、手話を学び始めた健聴者の方もいるんですよ。

今は、ろう学校も少し変わってきて、手話を使ってもいい学校があります。ろう者にとって、手話は話が通じるだけではなく、心が通じる大事なコミュニケーション手段です。これからもっと手話を使えるろう学校が増えると良いなと思います。

忍足さん4

バリアフリーな心があれば、手段は何でもいい

私は道を聞かれることがよくありますが、私が耳が聞こえないのが分かると、「すみません!」って謝って行ってしまう方がほとんどです。そんな時はいつも、(待って!私、お教えできますよ!)って思うんです。

逆に私が道を聞く時は、皆さん本当に丁寧に教えてくださいます。だから、私が知っている道はご案内したい気持ちがあります。社会のほとんどは健聴者で、ろう者は少ないです。手話ができる人はまだほとんどいないけど、筆談とか、手段はほかにもあります。

私はこれまで健聴者の社会でこれまで生活してきているので、慣れています。耳が聞こえる人、目が見えない人、それ以外にも世の中には様々な個性を持った人たちがいます。もっと幼いころからそういった多様性について話を聞いたり、接したりすることができて、自然に気持ちが溶け込むように、受け入れ合える社会になることを、心から願っています。

人に合わせたコミュニケーション手段

忍足さん:
みなさん、何か質問はありますか?

スズキさん:
私は小学校で教師をしています。大学で障害教育を勉強した時に、口話教育の話も聞きました。少し手話ができるので、手話で自己紹介させてください(笑)。
(私の名前は、「ス・ズ・キ」です。)

忍足さん:
ばっちりです。どうもありがとうございます。

忍足さん5

スズキさん:
小学生の子供たちは、大抵手話が好きですよ。多数派に人を合せるための教育ではなく、人に合わせてコミュニケーション手段を選べるようになると良いですね。

忍足さん:
そうですよね。世の中のほとんどの人は健聴者です。だから口話教育も大事。私はどちらも必要だと思います。私には5歳で健聴の娘がいます。家では、夫婦の会話を声を出さずに手話でしているのですが、娘はそれを見てまず手話で言葉を覚え、そのあと話す言葉を覚えました。

彼女は7ヵ月のときには手話で「ミルク」ができていました。私がいつもそうやって手話で話しかけていたのを見て覚えたのでしょうね。一般的な発語よりも早く、言語によるコミュニケーションができていたのです。

今のろう教育を見ていても、小さな子が手話を覚えることで、言葉を覚えるのが本当に速いと感じます。絵と単語がすぐに一致します。私のときとは雲泥の差です。手話にはそうした効果もあると思います。

アヤノさん:
手話を覚えるまで、ご実家のご家族とはどうやってお話をしていたんですか?

忍足さん:
昔からほとんど口話です。両親も弟も、手話をほぼ全くできません。逆に家族や親しい友人は、私の口話を聞きなれているからコミュニケーションが成立しますが、そうでない人とは、ほとんどの場合話しても通じません。

私がデビューした映画を観て両親が手話の必要性を感じてくれたようで、「ありがとう」とか「おつかれさま」「がんばって」とか、初めて手話を覚えてくれました。今はだいぶ忘れてしまったみたいですけど(笑) やはりいつも使ってないと忘れてしまいます。英語と同じですね。

忍足さん6

実際に関わることでイメージを変えていく

ヒロシさん:
 私はごく最近、手話サークルに入りました。私も手話で自己紹介させてください。
 (私の名前は「ヒ・ロ・シ」です。)

忍足さん:
そうなんですね!どうもありがとうございます。

ヒロシさん:
より多くの人が手話に興味を持ってくれるようにするには、どうするのが良いと思いますか?

忍足さん:
ろう者自身が前に出て、話をすることでしょうか。交流会や、何かのイベントなどで、健聴者の方と一緒に楽しんで、ポジティブな経験を共有することで、英語やフランス語を学びたいと思うように、手話を学びたいと思ってもらえるんじゃないかと…。健聴者の方が手話を勉強するにも、実際にろう者と手話でコミュニケーションを重ねてもらうことが一番速い習得方法なのではないかと思います。

スズキさん:
障害を持つ人は、どうしても「可哀そう」というイメージが先行してしまいがちですが、決してそうではないですよね。一緒に楽しめることを知る必要がありますね。

忍足さん:
まさに、ひと昔前のテレビドラマなどでは、ろう者はとても可哀そうで、孤独なイメージが多かったと思います。私が出演した映画はそうしたイメージを変えるモノです。ろう者=可哀そうというイメージを払拭したいという気持ちが、私の原動力になっています。

以前、電車の中で、乗客のお1人から降りたい駅にその電車が停車するかを聞かれたことがあったんです。最初は駅名を読み取れなかったのですが、勇気を出して聞き直し「この電車でOKですよ」と、身振りで答えることができました。「ありがとう!」と御礼を言われて、本当に嬉しかった。気持ちがとても高揚しました。私は全く聞こえませんが、健聴者の皆さんと一緒に、楽しんで生活できると思います。

このような、ろうのことを私なりにお話しできる機会を得られたことに感謝いたします。聴いてくださってありがとうございました。

少人数だからこそ得られる感覚~「本」役を終えて~ 

忍足さん7

初めての「本」役を終えられた忍足さんに、Media116編集部から感想を伺いました。

Q:前回体験された「読者」の立場とはどう違いましたか?

忍足さん:
「読者」のときは、興味を持って一生懸命「読む」、気になったことは聞いてみる、「なるほど~!」と納得する、というシンプルな体験でした。「本」は自分の経験を話すので、心をオープンにする必要がありました。やってみる前は少し不安だったのですが、私はろう者として、健聴者の方たちに聞こえないとはどういうことかを知っていただきたいし、疑問があれば是非聞いてほしいと思っています。そして1人でも理解者が増えたらいいなと願っているので、今回、「読者」の方が共感してくださっているのを、身近に感じることができて、とても嬉しかったです。

Q:ヒューマンライブラリーという形式での自己開示についてどう思いますか?

忍足さん:
「本」と「読者」の距離感が、すごくいいなと思いました。講演会だと、質問をしたくても、実際には難しいことも多いです。時間やタイミング、他の質問者との兼ね合いもありますからね。でもヒューマンライブラリーではリアルタイムにやり取りができます。「話し手」と「聴き手」という立場ではあるんだけど、「読者」の方のお話しを聞いて分かったこともあり、なんだか友達と一緒におしゃべりをしているような感覚になりました。参加して良かったです。大切な経験になりました。

忍足さん8

読者の方がどきどきしながら手話で話してみた瞬間、忍足さんとの間の距離感が、ぐっと縮まりました。コミュニケーションは話を伝えるだけでなく、心を通わせるもの。人に合わせたコミュニケーション手段によって、心が通い様々な感情を共有できるようになることを感じさせるストーリーでした。

またコミュニケーション手段は口に出す言葉だけではなく、手話、ジェスチャー、筆談など、多岐にわたります。「世の中には様々な個性を持った人たちがいます。」という忍足さんの言葉通り、コミュニケーションをとる相手は自分とは違う個性を持つ人、という意識が頭にあれば、「自然に気持ちが溶け込むように、受け入れ合える社会」に近づくのではないでしょうか。

自分のことを話すのには勇気がいります。相手は興味を示さないかもしれない、違う考え方を持っているかもしれない、理解してもらえないかもしれない。でも「本」と「読者」になるだけで、不思議とたやすくそうした抵抗感を乗り越えることができます。

そして、目の前で自己開示をした人に対しては、自己開示をされた人も心を開きやすくなります。このように少人数でおこなうヒューマンライブラリーでは、大勢のオーディエンスに対して一方的に話すよりも、より簡単に双方向のコミュニケーションが可能です。互いに心を開いて話をすることができれば、思った以上に人は分かりあえるものなのかもしれませんね。

参考記事)ヒューマンライブラリー企画第1弾
「本」として紡がれる、あなたと私のストーリー ~“生きている図書館”ヒューマンライブラリーで世界に一冊だけの本を体験してみませんか?~

「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう展」11/13(月)まで開催中!

会場:渋谷ヒカリエ 8F「8/(ハチ)」
時間:11:00-20:00 (最終日は 16:00 まで)
サテライト会場:渋谷キャスト、ケアコミュニティ・原宿の丘、ハチ公前広場、代官
山 T-SITE、みずほ銀行渋谷支店、SHIPS 渋谷店、モンベル 渋谷店
URL :超福祉展公式ホームページ

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shuzaihanMedia116

ライター Media116/超福祉展2017

2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!

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公式HP
http://www.media116.jp/author/shuzaihan

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