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【超福祉展】未来の社会のあるべき形「BEAMSが目指すダイバーシティ」とは? 〜工房集とBEAMSのとても幸せな関係〜

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ライター:Media116/超福祉展2017

障害者やマイノリティーに対する「心のバリア」を取り除くべく、2014年の初開催から今年で4回目となった「超福祉展」。11月13日に無事一週間の会期を終えましたが、私たちが密着したレポートはまだまだ続きます。読者の皆さんも、是非最後まで超福祉展をお楽しみください!

社歴30年のクリエイティブ・ディレクターを圧倒した表現者たち

今回は、11月12日に行われたシンポジウム「ダイバーシティとクリエイティビティ」について。登壇したのは、株式会社ビームス 社長室 室長であり、クリエイティブ・ディレクター の窪 浩志さんと、超福祉展を主催するNPO法人ピープルデザイン研究所 監事の左京 泰明さん。

BEAMSといえば、言わずと知れた日本を代表するセレクトショップで、国内のファッションやインテリア雑貨のトレンドを牽引してきたトップランナー的存在。
そのBEAMSが、「工房集」という福祉施設と新たなコラボレーション企画をスタートさせたのが2012年のこと。この協働のあり方に超福祉展で語られるべきストーリーがありました。

BEAMSの窪さんが工房集と出会ったきっかけは、女優の東ちづるさんがテレビ出演時に身につけていたスカーフでした。そのテキスタイルの原画を描いたのが、工房集所属のアーティスト 大倉 史子さん。これがご縁となって、東さんは工房集を知ることになります。

写真1

「とにかく一緒に行こう!何かを感じてよ!」と東さんに言われ、窪さんは初めて工房集を訪れました。「スカーフを見ていたので、まぁ楽しみにはしていたんですが、期待を大きく超えていて、見たこともないような勢いのある作品の数々に圧倒されました」(窪さん)。

シンプルに、直感的に、良いものは良い

工房集は、社会福祉法人みぬま福祉会が運営する福祉施設のひとつです。厚生労働省が規定する障害程度区分(最重度は区分6)で、通所する利用者(以下、メンバー)の区分は平均5.6。

他の作業所などで提供される労働に適応できず、最終的に工房集にたどり着いたメンバーも少なくないと言います。スタッフたちが、障害の重いメンバーたちの労働を模索し続けた果てに始まったのが「表現活動」だったそうです。

工房集の作品の中には、独特の絵柄が繰り返されているものが多くありますが、窪さんが初めて見たとき、これらの作品をデザインソースとしてテキスタイル化し、BEAMSと工房集がコラボしたオリジナルの生地として使うことを思いつきます。

数多くのアパレルレーベルがありますが、窪さん曰く「この服の生地、ほかのお店で見たな」ということも珍しくないそうです。仕入れが同じ生地卸しであったりするためなのだそうですが、「私たちのものづくりは、1番にお客様のためです。私たちの服を着たお客様の1日がハッピーであること。それが、私たちの利益につながります。よそのアパレルと被らない、より良いものを作りたいから、工房集を訪れているだけなんです。商品化の判断基準は、他の仕入れと変わりません」(窪さん)。

窪さん写真

CSRとは決定的に違う「工房集×BEAMS」の取り組み

各地域に福祉作業所はたくさんありますが、支援することを重視した「障害者のためのものづくり」をしているというケースが多いのではないでしょうか。ピープルデザイン研究所の左京さんも、超福祉展に先立って工房集を訪れたそうです。様々な作品や、アーティストたちとその制作現場を目の当たりにして、「BEAMSという福祉と無関係の企業が、ものづくりの目線で、あくまで取引先のひとつとしてビジネスをしているのがすごく新しいし、次の社会を想像させる、あるべき形の1つだと思えた」と言います。

左京さんは続けます。「これを『障害者の作品を使って商品化するBEAMSの社会貢献』と言ってしまうと、ミス・コミュニケーションになってしまう。結果的に、社会貢献になっているのかもしれないけれど、それありきでこのプロジェクトを取り扱うのは、正しくないのではないかという気がしたんです」。

写真2

実際、会場に展示されている様々な作品に、作品名と作者名のプレートが添えられていましたが、障害名などは一切書かれていませんでした。「そういうところにBEAMSのスタンスがよく表れていると思うんです。こういうスタンスを、もっともっと世の中に訴えた方が良い」(左京さん)。

工房集が持つ優れたコミュニケーション力

工房集は、どうやって現在のような表現活動の形を整えていったのでしょうか。その昔、話しかけても無反応で、言語によるコミュニケーションが全くできない重度の障害があるメンバーがいました。でもあるとき、そのメンバーがチラシの端に絵を描きました。気がついたスタッフが少し描き加えたところ、またさらに描き加えてきたそうです。言葉なしでも、コミュニケーションは成立する。これが始まりだったと言います。

様々な表現を生み出す工房集のメンバーですが、中には室内に入れない人もいます。工房集のスタッフは室内に促すのではなく、絵を描くのが好きな彼女のために、外でも作業できるようにそっとペンを置くのだそうです。おかげで、工房集の裏側の外壁は、彼女のギャラリーのようになっているそうです。

メンバーたちは、絵を描くだけではなく、編み物をする、立体を作る、ステンドグラスを作るなど、それぞれに活動内容は違います。その人に合った方法で周りと関わっていくやり方を、工房集のスタッフがうまくキャッチして、引き出していく。「それが引き出されれば出されるほど、作品として成長していくんです。言葉で表現するのは難しいですが、その人自身がどんどんひらいていく感じがしました。彼らが表現をするのは、彼らにとってそれが周囲と会話する手段だから。『良い作品を作ろう』というような意志の、もっとずっと手前にあるプリミティブな衝動によるものだから、その人の内面から表出される、のびのびとした表現になるのでしょう」(左京さん)

写真3

社会では、重度障害者の労働は『必要ない』とあきらめられてしまうこともしばしばです。しかし、工房集では「労働」に3つの意義を見出し、諦めることなくメンバーたちと向き合っています。
● お金を稼ぐ(働いてお金を稼ぐことは、それでもやはり大事なこと)
● 周囲や社会との接点をもつ
● 発達保障(誰しも持っている発達の可能性を最大限に引き出し、人格の発達を保障すること)

「これらすべてが重なるところを活動の目的としているそうなんですが、本当に実現できているからすごいですよね」と、窪さん。

みんなのハッピーのためには体力がいる!?

自分の作品が製品化されたことを認知できれば、アーティストはもちろん、家族も喜びます。そして、商品を手にした人は「他所では手に入らない」と喜んでくれる。「工房集×BEAMS」はハッピーの連鎖を起すことができるプロジェクトなのです。

 しかし一方で、例えば「前半を3年がかりで、後半は3日で描いた絵」とか、「昨日、7年ぶりに再開した絵」とか、メンバーはそれぞれに独自の時間の流れを持っています。「生地屋さんに頼めば持ってきてくれる環境があるので、ついつい甘えてしまうんです。社内の他のディレクターや、デザイナーも連れて行くんですが、『これはスゴい』『何か形にしなくては』と現地では思うものの、社内に戻ると忙しさで風化していってしまいがちです。とにかく通い続けていないとキャッチアップが難しい。だから、実は中々に体力がいる仕事なんですよ。どうにか社内で風化させないようにしていくのが、これからの私の課題ですね」と、窪さんはやや自戒気味。

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最後に、左京さんが窪さんに今後やりたいこと、願うことを尋ねました。「この超福祉展も含めて、こうした啓発活動をしなくて済む社会になったら良いですね。1人ずつがやさしい心を持って、人を尊重し、認め合うことができれば、すべて解決できると思います。難しいことなんだとは思いますが、そこから目をそらさずに前に進むべきです。同じような気持ちでいる仲間がいます。まずは社内から、きっかけづくりをして、たくさんの人を巻き込んでいきたいと思います」。

本当のやさしさに、みんなが気づき始めている

障害当事者やLGBTなどの社会的マイノリティーに対して、腫れ物に触るようにする人がいます。過剰に保護して自己満足に浸る人もいます。しかし、窪さんはとてもニュートラル。

 「重度の障害者が一生懸命作品に向かっている姿を見て、この人たちをなんとかしてあげたいという気持ちは自然に起こります。でも、評価基準を下げることは絶対にしない。それは、お客様にも、メンバーや作品に対しても失礼になるからです」(窪さん)。

 窪さんが持つ、作家や作品への敬意と、ものづくりに対する強い誇りを感じると同時に、「対等」や「平等」を特段意識していないことに気づかされます。ただ、偶然出会ったすばらしい素材を活かして、自分の果たすべき役割を果たしている。それが結果として、障害者と社会とのタッチポイントになっていることを喜んでいる。

写真5

「なんとかしてあげたい」と思うこと自体は決して悪いことではありません。窪さんのスタンスは、「果たして本当のやさしさなのか、憐れみや同情ではないのか」というジレンマが起こりうる危険を残しつつ、「ただ誠実に自分のやるべきことをやる」という方法で、それを乗り越えています。シンプルに、誠実に考えれば、実はハッピーはもっとイージーなのかもしれません。

 左京さんが工房集を訪れたとき、スタッフの方からBEAMSへの感謝の気持ちを聞いたそうです。「弱者に手を差し伸べるのではなく、ものづくりの立場から対等に関わってくれる。だからNGも容赦なく出す。それがとても嬉しい」と。左京さんは、工房集とBEAMSを「とても幸せな関係」と言いました。

 支援をする側とされる側に分断してしまいがちな社会に、「工房集×BEAMS」が一石を投じてくれました。これからその波紋が広がって、もっとたくさんの「幸せな関係」を築いていけたら良いですね。

<参考一覧>
工房集ホームページ
工房集について
BEAMS記事「国立新美術館「ここから」展で「工房集✕BEAMS」が展示されます」

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ライター Media116/超福祉展2017

2017年11/7(火)~11/13(月)まで渋谷にて開催される「2020 年、渋谷。超福祉の日常を体験しよう 展」。 マイノリティや福祉そのものに対する意識のバリアを変えていく福祉の一大イベントをMedia116が密着取材します!

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https://www.media116.jp/author/shuzaihan

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